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私の豪運は絆を届ける。

暗い・・・半宵はんしょう静寂しじまにあるそれとは全く違う、何処までも続く漆黒・・・。

不運続きだった、私の人生でこの感覚も懐かしく思えた・・・。

周りに災厄を撒き散らし、ことごと蹂躙じゅうりんし続けてきた、それが自身に襲いかかったのもその時である。


(死にたい・・・)


そう誰もが時として欲する思いを願った事が昔に一度だけあった。

そしてその意志・・・行動は聞き届けられることは無かったのである。


(お主も哀れよの・・・、お主に掛けられた厄災呪い・・・消えつつあった我を再び呼び戻すとは・・・)


その忌まわしい声を耳にするのも2度目であった。


・・・


この世界の生命の源となる水が生まれる場所、水の聖地・・・その最奥命の盃では死屍累々の中、白き水龍の高笑いだけが木霊していた。

ここで幾多の冒険者達を盃の礎に変えていき、とうとう探し求めていた仇を見つけ出し、その一人を即座に葬ったのだ。


ある時は天地を分断すると称された伝説の刃をその重厚な鱗で跳ね除け剣客ごと両断し、またある時は賢者と豪語する愚者の地獄の業火を湖に沈めた。

それらが最後に見せる絶望の表情、苦肉に満ちた顔を味わうのが数百年という時間を過ごしてきた彼女の唯一の楽しみになっていた。

玄人の獣人が表情を歪め、青二才共が固まり地に小水を垂れ流すその様は愉快痛快を通り越し、数百年の退屈・・・心の飢えを満たすには十分であったという。


(クックックッ、主の仇打てそうじゃぞ!!カース!!)


少女の予想外の魔法に気を失い、獣人と対峙したものの致命傷には至らず、仇を逃した彼女は目標を追うどころかその場に踏み留まっていた。

それは彼女が何百年という経験から人間の行動心理を熟知していたからに他ならない。

人間とは本来弱き生物のあるべき行動と真逆の行動を取り、不条理を好む・・・つまり逃した彼女らもいずれ再び此処へと戻ってくるのだ。

再びあの光景が目の前で繰り広げられ、そして最後に見せる表情・・・穢れを知らぬ華が花首から落ちるかの如くはかなさを味わうことが出来ると思うと気が気ではなかった


(いかん・・・よだれが・・・。)


彼女が尻尾で口元を拭った瞬間、奇想天外な光景が目に飛び込んでくる。

花首から落ちたはずの華・・・目の前で見事に散華したはずの少女がそこには立ち尽くしていた。


(馬鹿なっ!?)


大体こういった事は50年周期で巡り巡ってくるのだが、それを含めても私が不条理を好む人間に落とされた様な感覚・・・。

人間に分かりやすく伝えるならば、テウリアと呼ばれる地方にある覆水盆に返らずという言葉・・・それを覆す様な光景が目の前、この命の盃で起こっていたのだ。


禍々しい黒いオーラをまとったあるじは現状を把握するかのように周りを見渡していた。

黒い肉厚の翼を広げ、漆黒の鱗が織り成す強靭な尻尾で辺りを物を薙ぎ払った・・・それはまるで龍族そのものであった。


(ふむ・・・、出てくるのは数百年ぶりか・・・。)


その口振りからしておかしい・・・華奢であった人物が私のような様子を呈している。

言い換えるならば、猫が虎に化けた・・・そんな状況だ。


(何故じゃ!?どうやって起き上がった・・・いや、そもそも真っ二つの状態じゃぞ!!)


(少々、騒がしいのう・・・。)


(答えよ!!なぜじ・・・!?)


突如、リヴァイアサンの全身から搾り出すように方方の鱗の間から血しぶきが吹き上がった。

斬られた様子も魔法を使った様子もない・・・この世に存在する力の類ではない・・・そう思考した後に私は目を閉じた。


(ありえ・・ん・ばか・・な・・・)


その光景に目にもくれずに、少女は優雅にこちらに背を向けながら森の方へと呟きながら歩きだす。

「此処にはおらぬな・・・。やむ終えまい、力を貸そう・・・。」



・・・・・



モンスターが存在しない聖域とされる命の盃では、上空に様々な色や特徴を持った龍族達が飛び交い、彼方此方で煙や爆音が轟く中、私は少女を抱えて草木が生い茂る森林を走り回っていた。

弱々しく震える少女を目一杯に抱きかかえ、脳裏で次第に濃くなっていくレアちゃんの面影に振り回されながら辺りを見渡す。


「おねえ・・ちゃ・・・」


涙、鼻水、その他の液体を全身から解き放ち満身創痍の少女は、いつもの調子を忘れ、ただただ私を求めるように抱きついていた。

無理もない、天才ともてはやされ仏頂面の生意気な少女も、ぶいきゅあに憧れる純粋無垢な12歳女児なのだ。

そしてここが姉としてやらねばならぬ時だろう・・・姉・・・として・・・。


「おね・・・・ちゃん・・あそ・・こ・・・」


「あそこ??」


弱々しい少女の声に導かれるように振り返った先には私達の求める出口があった。

荒々しく流れるそこに飛び込んだとしても命が助かる保証は低いだろうが、背に腹は変えられない・・・。


「リロ・・・行くよ」


「うん・・・お姉ちゃん」


そして忘れかけていた私だけの性質を思い出すと大きく深呼吸して少女と一緒に水面に飛び込んだ。

一瞬で私の全身に冷たいという刺激が駆け巡ぐり、彼方此方の筋肉が強張った。

アミさんと喧嘩をして片手で投げ込まれたオホーツク海と比べると温水程度である・・・どうやら行けそうだ。


そして飛び込んだ川は見た目通り流れが速く、またたく間に私達を安全圏へと導く。

当然川底に引き込まれる力も強く、少女の風魔法で集めた空気がなければ本当に死んでいただろう。


空気と水が水流によって混ざり合い、私達と共に行き先不明の旅を続ける。


恐らくは私達の故郷テウリアに辿り着くはずだ・・・私・・・達の・・・。


(ご主人様・・・)


両手で水中の泡をかき分ける中、懐かしい声が頭の中に響き渡る・・・。

そこで私は空気と水の他に何かが混ざり合うのを感じた・・・アミさんの時と同じ様に何かが喉に引っかかる様な感覚。

そしてそれは嗚咽の様に腹の底から湧き上がり、徐々に私の引っかかった喉を目掛けて這い上がってくる。


此処でなら遠慮なくそれを吐き出せる・・・そう思った私は叫ぶように口の空気を吐き出した。

「あぁああああああああっ!」


水中の僅かな振動と共に、とむらう様に泡が明るい水面を目掛けて上がっていく。

仇は打つ・・・だが打った後に生き延びてどうする・・・。


このままクッションとリロ達と何気ない日常を謳歌していくのか・・・・それも悪くないだろう・・・。


レアちゃんと過ごした日々がフラッシュバックしていく。

初めて出会った時の事、初めてキスした時の事、初めてのギルドの仕事で伝説級モンスターを撃退したこと・・・。

本当に此処まで色々なことがあった・・・あれだけ頑張ったのに、守れずに私はのうのうと生きていく・・・。


(そんなの・・・できるわけがない!!)


様々な思いが心を巡るうちに息苦しさを感じてきた・・・丁度いいだろう。

私も一足先に向かうとしよう・・・あとは天才少女と獣人の二人に任せればいい・・・。



もう・・・いいよね・・・レアちゃん・・・。



私はゆっくりと全身の力を抜いて水の流れに身を任せた。




ゴボッ!!




「んっ!?」



突然の衝撃に慌てて目を覚ますと、先程まで弱々しかったはずの少女の別人のような力強い瞳と目があった。

どうやら私の考えている事に気がついたのかそれを阻止するかのように私を抱きしめて唇を塞いでくる。


おそらく少女も私と同じ気持ちで、誰も失いたくない一心での行動だろう・・・。

私よりも年下の12歳の少女は必至に助けようと風魔法で集めた空気を吸った後に唇を当ててくる・・・この時私は自身の不甲斐なさを改めて悟った。



空気を受け渡す為に・・・唇を塞いで・・・・塞い・・・・って・・なんで舌入れてくるの・・・・・。



何故か少女の行動はディープキスに変化し、最終的には託したはずの空気を再び回収しようとしていた。



えっ・・・逆に少なく・・・ちょ、ちょっと・・・待って吸われてるんだけど!!



呼吸を再現しようとしているのか、自身の欲望を満たそうとしているのか不明であったが少女の普段どおりの行動に私は徐々に元気づけられた。

おそらくはいつものようにセクハラをしているだけのようだが・・・・というか舌まで・・・吸い過ぎでは・・・。



逆に溺れそうになった私は水面に顔を出して深呼吸した。


「はぁ、はぁ・・・」


いや・・・本当に12歳の少女に助け・・・殺されかけてしまうとは・・・・ピチピチJKとして情けない限りだ・・・・。

私を追うように少女も顔を出した。


「ぷはぁっ!」

「ロリ!!何すんの!!」


「お姉ちゃん、死のうとしたでしょ!!」


どうやらお見通しだったようだが・・・それとセクハラ関係ある??


「うん・・・ごめん・・・。」


「もう!二度としないで・・・お姉ちゃんがいないと私・・・」


少女は泣きそうな顔をしていた。


「ごめん!!」


こちらも泣き出しそうになり、それを隠すように私が少女を抱きしめると、小さな体から心地よい温かさが伝わってきた。

クッションが言っていたとおりレアちゃんが守ってくれたのだとしたら、その思いを無下には出来ない。

慕い続けてくれた彼女の思いを受け継ぎ・・・守り通す・・・私はそう決心した。


「お姉ちゃん・・・痛いよ・・・」


「ごめん・・・守るから・・・。」


「うん・・・」


どうやら少女もショックから立ち直ってきたようだ・・・が・・・。

抱きしめられた少女の手は私の背中ではなく前部分に添えられ弄るように動いている。

「揉むのやめて・・・。」


「やだ・・・。」



改めて周りを見渡すと爆音を発し煙を吹き上げる場所も見当たらず只々静かな草原が広がっていた。

どうやら水の聖地から随分と離れた場所まで流されてきたようだ。


「流石に大分離れたでしょ・・・。」

「お、お姉ちゃん・・・。上・・・」


「上?」


私は恐る恐る上を見てみる。

先程から辺りが若干暗いとは思っていたが上に居たそれが原因らしい・・・。

私達を地獄に叩き落とした白い水龍とは真逆・・・只々漆黒・・・・そう表現するのが正しい黒龍であった。


「何あれ・・・」

「あのドラゴンは・・・図鑑でも書物でも見たことがない・・・。」


(やっと、見つけました・・・)


脳に直接、言葉をねじ込まれる。

恐らくは私達をずっと追尾しながら此処まで来たのであろう。


「やはり・・・ドラゴンたちの仲間・・・仕方ない。」


もう、失いたくない・・・覚悟を決めた私は手をかざし、湖でやったイメージを思い出す。

ドラゴンの頭上から大量の水が出現し辺りを大きく飲み込んだ。

「ちょっと、待ってお姉ちゃん!!」


(ちょっと!?まっ・・・・。)


ドラゴンは滝の様な水に飲み込まれるとそのまま川に叩き込まれる。

そしてその大量の水によって私達は更に下流へと押し流されていった。


「り、リロっ!」


「お、おねーちゃん!」


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