私の豪運は艦内を届ける。
あれから私達はリロに黒砕船を案内してもらっていた。
島と同じ規模の戦艦ということもあり、目に映る何もかもが規格外であった。
まず気がついたことは扉のサイズが尋常ではない・・・正確に言うと扉というものは存在せず壁である。
そして天井も見上げるだけではなく、目を細めてようやく幾つもの配管が通っていることを確認できるほどだった。
その配管も私達の中で1番大きなララがすっぽりと収まりそうなサイズの物がいくつも私達を横切っていった。
言うなれば私達が小さくなったような錯覚を起こすほどその戦艦は巨大だった。
大広間ほどの幅の、船員用と思われるここでは小さな通路をテアが無邪気に縦横無尽に駆け回る。
「ここ、ひろーい!」
「こら!走らないの!迷子になるわよ!!」
「そうじゃぞ、テア・・・っと少し目眩がしてきたのう・・・」
「奇遇にゃね。気分も悪くなってきたにゃ・・・・。」
その巨大さからか船酔いとは違う、別の錯覚による酔いを起こしていた。
あまりにもサイズが常識とかけ離れていたため、認識のズレが生じ脳が疲れ始めていたのである。
「気分が悪くなってきたなら、私が抱きしめて運んであげる・・・迷子になると大変・・・。」
「このガキのほうが迷子になりそうじゃのう」
「大丈夫だもん・・・」
永遠に続くこの錯覚に呑まれたら最後、迷子になるのは必至だろう。
そしてここで迷子になると大変な目に合う事は、誰にでもわかる。
壁際にある何処に続いているかわからない、人がすっぽりと入りそうな大きな穴。
巨大な配管から微かに吹き抜ける風・・・ここはまさに人が作り出した巨大な迷宮であった。
私にはダンジョンとも言うべきこれほどの船をどの様に作ったのか、想像も出来なかった。
迷子防止のための案内看板が一定間隔で設置されているが、たまに生き倒れている船員を見る限り効果は無さそうである。
そしてこのダンジョンの回復ポイントと呼べる小さなスペースも一定間隔で完備されており、部屋の入り口の周りには武器や食料が入った箱が大量に山積みされていた。
待合室のような場所に椅子や机が並べられているが、当然自販機のようなものはない。
青髪の少女はぐったりと大きく肩を預けるように椅子に腰掛けた。
「流石に気持ち悪くなってきたのう・・・元の姿に戻ったほうが楽かもしれぬな・・・」
「余計に気持ち悪くなるから、やめるにゃ・・・・」
「何じゃと!?小猫娘!!と言いたいところじゃが・・・怒る気力ものうなってきたわ。」
「だにゃ・・・・」
「はぁ・・・やっぱりこの船、王国よりも大きいんじゃないですか?」
「当たり前じゃない!世界最大の戦艦よ!」
「ちびっこは平気なのかのう?」
「誰がチビよ!!慣れたわよ!」
「最初は私に抱きついていたのに、いつの間にか成長していましたね。」
「当たり前じゃない!あなたの胸と同様に成長するの!」
そう言いながら少女は胸を揉んでいた。
「あっ!!ちょっとここで・・・恥ずかしいですよ!」
「あれから、成長してないにゃ・・・」
「そのようじゃの!お漏らしエロガキ・・・いやマセガキといった所かのう。」
「うるさいわね!揉んでると酔いが覚めるのよ!」
「本当かにゃ!?」
「嘘に決まっておろう・・・・。」
そう言いつつも二人はこの酔いを覚まそうとゆっくりとその胸に手を伸ばす。
その持ち主は迫りくる手に涙を浮かべていた。
「ちょ、ちょっと二人とも・・・・待って・・・」
二人の手に当たったのは別の女性の胸だった。
「ロモさんは私のを使ってください!」
「私のも使っていい・・・。」
「アイネかにゃ・・・」
「デカ娘、おぬし・・・」
二人は、ひと揉み、ふた揉みとその柔らかな胸を弄っていく。
確かに、不思議と懐かしさが湧き上がり頭の中の錯覚が消えていくのが分かった。
「うぅ・・・」
「ちょっと気持ちいいかも・・・」
徐々に消えていく不快感に二人は夢中で弄っていく。
「確かにこれはいいかもにゃ・・・」
「じゃのう!」
その様子を見ていた少女はしたり顔で呟いた。
「ふふっ、エロガキね!!」
「しまったにゃ!」
「くっ、ワシとしたことが・・・ってお主もじゃろうが!」
「酔い覚ましなの!必要な医療行為よ!!」
「医療行為のう・・・。ってお主はなぜワシのを揉んでおるのじゃ・・・」
「リィアちゃんのプニプニしてて気持ちいい!」
「やめぬか、小娘!!特に子猫娘!貴様ッ!!」
猫の獣人は青髪の少女の胸を指で突いていた。
「確かにプニプニしてて面白いにゃ。」
青髪の少女は尻尾でその少女を引き剥がした。
「えーい!離れるのじゃ!ワッパ共!!」
「えーっ、もうちょっとしていたかったのに・・・」
腕組みをしながらリィアは威張りだす。
「龍族・・・特に神聖なワシの胸は希少価値が高いのじゃ!!うかつに触れるものではないっ!!」
「希少価値・・・?そこら辺のお漏らしガキと変わらないにゃ・・。」
「何じゃと!?」
「なんですって!?」
休憩を終えた私達はしばらく歩き、戦艦の奥深くのエリアに来ていた。
先程の開けた場所とは違い、そこは見慣れた大きさの戦艦がレールの上に固定され自動車のように所狭しと並んでいる。
あの少年が言っていたトカゲの相手をしている暇ではない、という言葉があながち冗談ではないことを示していた。
「戦艦の中に戦艦!?」
「すごーい!」
「すごいのう・・・」
私達が目移りしながら歩いていると、突如リロが大声で叫ぶ。
「止まりなさい!」
「分かったにゃ。」
「何じゃ!?」
目の前の横切るレールの前で私達は止まった。
しばらくして地響きが鳴り響く。
「じ、地震ですか!?」
「ちがう・・・」
次の瞬間、巨大な台車に固定された戦艦が目の前のレールに沿ってゆっくりと私達を横切っていく。
今にも倒れてきそうな灰色の鉄の塊の迫力に私やリィアは後ずさりをした。
「で、でかいにゃ・・・」
「じゃのう!」
「このサイズだと護衛艦ね。」
戦艦が完全に通り過ぎると白を纏った少女は歩き出す。
「さぁ、急ぎましょ!」
「あれほどの物が幾つも・・・すごいですね。」
「普通よ、普通!」
「普通じゃないにゃ・・・・。」
歩きながら、猫の獣人は目の前の少女が案内しようとしている場所について考えていた。
この世界最大の戦艦に格納されていると言うからには恐らく巨大な何かだろう。
親友が作った杖の改良版・・・もしくは少女が喜びそうなスフィアと言ったところだろうか。
少女は黒く重厚で巨大な壁のような扉の前で立ち止まった。
「着いたわよ!」
明らかにここだけ使われている材質が異なる、おそらくは金喰鉱で作られているのだろう。
どうやら見せたいものは厳重に守られているようだった。
「この程度の扉であればワシの水流で余裕じゃがのう」
「壊しちゃダメだよ。リィアちゃん」
「すまぬ、テアよ」
「ふん、どっちが大人なんだか!」
「貴様もじゃ」
「どうせお前じゃ壊せないにゃ・・・。」
「これも金喰鉱じゃと!?」
「当たりよ!ララ、お願い。」
「うん、おねーちゃん」
そう言うとリロの妹のララの手が黄色く光り出す。
「マジカルシャイニーガントレット起動!」
ララが背負っていた箱から勢い良く巨大な籠手が飛び出す。
それは初めてこの少女に出会った時に獣人の行手を遮った籠手だった。
よく見るとその篭手は重厚な扉と同じ様な色彩を持っていた。
「これも、金喰鉱かにゃ・・・。」
「当たり。後で抱きしめてあげる。」
「お前が抱きしめたいだけにゃよ・・・。」
ララが手をかざして籠手を操作しその重厚な扉をゆっくりと開ける。
扉の隙間から眩い光が溢れ出していた。
「これは・・・。」
獣人の目に飛び込んで来たのは、天才少女が喜びそうな特大スフィアでも大戦を終わらせる様な最強の武器でも無かった。
目の前に現れた少女が見せたいものと言うのは、もう戻ってこないだろうと諦めていた懐かしい光景であった。
獣人は知らず知らずの間に流していた涙を拭き取った。
リロとレノが私を歓迎する。
「さぁ!ようこそ・・・いえ、お帰りなさい、テウリアへ!」
和風建築が建ち並び、木々が青々と芽吹く中、風情ある街並みの中を多くの獣人達が歩いていた。
それは私の記憶と寸分違わない程に再現され、遠くには見慣れた武家屋敷が建っている。
まるで2年前の出発した当時から、切り取り持って来たかのように忠実に再現されていた。
「お前たち・・・あ、ありがとうにゃ・・・」
「待ってください!テウリアは滅んだはずじゃないですか?」
「いや、そもそもなぜ船の中に街があるのじゃ?」
「作ったのよ!それにこの船は商業ギルドを兼ねた戦艦だもの、その要となる街は必要でしょ?」
「何と!商業ギルドじゃと!?」
「でもなんで商業ギルドにゃ?」
「レノおねーちゃんが2年前やろうとしていた事覚えてる?」
「えーっと、にゃんだっけ?」
レノ=アルバートが何か言いたそうにモジモジとしていた。
「妹様が私のために宣言してくださった事です・・・」
「確か、何とかカンパニーを作るって言ってたにゃ!」
「えぇ、商業ギルド、レノシッピングカンパニー・・・この船はその為に作られたの」
「にゃんだって!?」
少女は恥ずかしそうに反対側を見ながら呟いた。
「で、テウリアが大変な事になったっていうから仕方なく作ってあげたってだけよ!!」
獣人は嬉しさの余り勢い良く少女に抱きついた。
「リロ!ありがとうにゃーっ!」
少女は照れながら獣人の少女を引き離そうとする。
「ちょっと暑苦しいから離れなさいよ!」
「ひどいにゃ・・・でもどうやってここまで・・・」
「テウリアに出入りしていた獣人や冒険者の協力を得てほぼ再現することに成功したわ!」
「本当に・・・ありがとうにゃ・・・。」
「そこまで泣かなくてもいいじゃない・・・。」
「私からも礼を言わせてください!ありがとうございます。」
「は?なんでアンタから礼を言われなきゃいけないのよ!」
「ここに来るまでにロモさん本当に苦しそうで、こうやって嬉しそうにしているとこっちまで安心するというか・・・」
「まぁ受け取っておくけど、そこまで同情するなんて・・・アンタはロモの何なの?」
その言葉にアイネは頬を赤くしながら戸惑った。
「私はその・・・・。」
「アイネは私の親友にゃ!」
「あ・・・はい、親友です!」
「はぁ・・・。鈍感極まれりね・・・。」
「にゃ!?」
「まぁ、いずれ気が付くでしょ・・・。」
「こ、ここは何ですし!ロモさん案内してください。貴女の住まいを!」
「分かったにゃ!」




