私の豪運は惨劇を届ける。
ランが帰ろうとした私達の目の前に立ちはだかる。
「こほん。調査の件は後々行うとして。レノ様、あなたを保護対象として拘束しなければならなくなりました。」
一同が戸惑いを見せた。
「!?」
「レノ様、あなた様をここで拘束させていただきます。」
私を庇うようにレアちゃんがランに立ちはだかる。
「ちょっと待ってください!」
「その、ランさん。理由を聞いていい?」
「あなたは貴重な水の担い手となってしまいました。そして魔法は発動者が死ぬと消える定め・・・。」
「そういう事か・・・。」
「ですからレノ様には一生を安全な地域で過ごしていただくということになります。」
「つまり、ご主人様を一生監禁するということですか!?」
「有り体に言えば、そういう事になります。」
「ちょっと、リロさんもなんか言ってください。」
リロはすべてを悟った様に悲しい顔をしていた。
「最長の魔法使いが見つからないということは・・・そういうことなのよ・・・・。」
「ということは私も失踪予定ってことでいいかな?」
案内人のランは少し構えだす。
「それは困りますね。」
「ちょっとこんなところでやめるにゃよ。」
(えぇ、とても困りますね)
それは耳から入ってくる声ではなく、脳内に直接入り込んでくる様な感覚だった。
「誰?」
「何だにゃ!?」
「敵ですか・・。」
湖から巨大なドラゴンが勢い良く飛び出した。
それはカースドラゴンと同じ様な大きさの美しい白竜であった。
しかし、赤い瞳と周囲を凍りつかせるような雰囲気は何処か不気味さを感じる。
「あ、あの水龍は・・・まさか!!」
その水龍を見たクッションの全身の毛が一斉に逆立った。
「おい、レノ!」
「なにクッション?」
「私を置いて、逃げるにゃよ!」
「ちょっとどいういう・・・・。」
「早く!」
普段猫口調のクッションが、それ以外の口調で話す事の異常さに事態の大きさが伺えた。
その言葉を聞いてもレアちゃんやリロはその水龍の威圧でどうやら身動きできないようだ。
「二人共逃げるよ!」
「ご、ご主人様・・・・。」
「あ、あぁ・・・、もうダメかも・・・。」
「そんなにやばい相手なの!?」
「その脅威はマグナ=クエーク以上なんです・・・。」
「アイツは龍族の最上位種に当たる水神龍リヴァイアサンよ!」
大きさはマグナ=クエークよりも圧倒的に小さいが、その脅威という言葉に私は引っかかりを覚えた。
おそらくは街の被害規模ということなのだろうが、怖気づくという点に置いて明らかに雲泥の差を感じる。
「やばくね?」
「ハッキリ言ってここら一帯が壊滅するかもしれないにゃ!」
ランは水龍に怖気づ居ていたが、次第に冷静さを取り戻していた。
「い、偉大なる水龍様、ひとつだけお尋ねしても?」
(あぁ。小さきものよ。)
「水不足と冒険者の行方不明の原因は、あなた様でよろしいですか?」
(左様。魔王様の指示だったが亡き友の敵を探すためでもあった。)
「亡き友というのは?」
(とある火山に派遣されていた、カースドラゴンだ。)
その言葉に私達が表情を曇らせた事をその水龍は見逃さなかった。
(その姿と様子を見るに当たりのようじゃな・・・。ワシは運が良い。)
「ちょっと待ってください!」
(待たぬ!死ぬが良い。)
一瞬だった。
湖から白い糸のような物が飛び出したかと思えば周りを薙ぎ払っていた。
私とリロは何が起こったのかわけもわからず見渡していた。
「えっ?!」
そこには翼ごと胴を真っ二つにされたレアちゃんと、首をはねられたランとクッションが横たわっていた。
「レア・・・・ちゃ・・・・ん。」
(ふむ。辺り一帯を切断したつもりであったが、どうやらその箱に秘密があるようじゃな。)
それは偶然レアちゃんが私の前に置いていた特別な銃が入っている金属製ケースだった。
クッションが咳をしながら息を吹き返す。
「げほっ、げほっ。何がおこったにゃ?」
(驚いた。あれを食らって生きているとは。)
「お前ら逃げろっていっ・・・。」
その言葉を言いかけたクッションがレアちゃんの姿を見て呆然とする。
「お、お姉ちゃんが・・・・。」
少女もその姿を見て、腰が抜けたように地面に座り込み、失禁し始めた。
(ふはは、これは愉快じゃな。すぐさま仲間のもとへ送ってやろう。)
続けて同じ様な攻撃が一直線にこちらに向かってきた。
「させるかにゃ!」
クッションは器用に二刀流武器を使いその糸のようなものを明後日の方向に弾いた。
(ほう、あれを防ぐか。)
「ここは私が防ぐからリロを連れてここから離れるにゃ。」
「で、でも。」
「戦うなとは言っていないにゃ。お前にはお前の戦い方があるんじゃないかにゃ?」
「そうか!」
「おねーちゃ・・・」
レアちゃんの亡骸を一瞬見つめると、2つの金属製ケースを背負い、呆然とするリロを前に抱きかかえた。
「さぁ、行くよ。」
「でも・・・私、漏らしちゃ・・・」
「話は後!」
クッションは二刀流武器の柄の端同士を合わせる様に構えた。
「このロモ=クーシャ。弓矢八幡の名に誓い。敵を殲滅せんとす!」
「クッション、それは中2病の・・・・!?」
「バカガキ!これはテウリアに代々伝わる決死の言葉だ。でもおかげで安心したにゃ。」
「クッション・・・。」
「生き残っていたらまた会おうにゃ!」
私はクッションと目を合わせて頷くと走り出した。
「うん!」
私は背後から飛び交うその攻撃を尻目に聖域の門に向かって走り続けた。
突然の出来事に、感覚が麻痺しているのか、気分がハイになっているからなのかは分からなかったが気が付くと私はあの門の前に居た。
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
リロは再び地面に座り込むと徐々に状況を理解したのか、突然嘔吐した。
「お、おえっ!」
「大丈夫!?」
ゆっくりと背中を擦る。
「はぁ。はぁ・・・・。お姉ちゃんは大丈夫・・・?」
「私はアミさんのおかげでなれてるよ。」
「そうなんだ・・・。」
「泣くのは後でもできるから、とりあえず倒さないと!」
・・・・・
私は折れた剣を手に血まみれになりながら立ち尽くしていた。
不老不死とは言え、防ぎきれなかった奴の攻撃に2、3回は気絶しそうになりながらも辛うじて意識を保っていた、
「はぁ・・・はぁ・・・。」
(それにしても、小娘を逃がすためとは言えワシ相手によくぞここまで戦ったのう・・・・)
「龍族の最上位種様に褒められるとは光栄にゃ。」
水龍は不気味な表情を浮かべた。
(その再生する体、細切れにしたらどうなるかのう!?)
私がその言葉で青ざめた瞬間、見えた限りでは10以上の糸が水面から飛び出していた。
あやとりのように器用に組み合わさったそれに、指先から細かく切り刻まれるのを目にした瞬間、私の意識はそこで途絶えた。
あれからどうなったのだろう・・・やはりこの暗闇は私にとって最大の不快だ。
眠気と気だるさの中に微かではあるが声を感じた。
何処かで懐かしい声・・・・。
「クッション・・・・。クッション!!」
「うぅ・・・・。」
どうやら痛みで気を失った私は親友たちの近くに居た。
「大丈夫?」
「にゃ・・・。どうなったかにゃ?」
「なんとか仕留めたけど・・・・。」
遠くで倒れている水龍を指差した。
「な、なんとかやったにゃ・・・・。」
私は安堵するようにその場に座り込むと近くにあった生暖かい物に手が触れる。
それは息絶えた彼女の亡骸であった。
「にゃ!?レア!?大丈夫かにゃ・・・。」
「・・・。」
「お、お姉ちゃん・・・・。」
レノだけではない、近くに居た少女も大声で泣き喚きだす。
「にゃ・・・。二人共、死人をまじまじと見るもんじゃないにゃ。」
「でも・・・。」
「この子は私達を守るために逝ってくれた。それだけ思っていればいいにゃ。」
そういうと私はマントを彼女を覆い隠すようにして掛けた。
(グゥォオオオオオオオオオオオオオオオ)
不気味な悲鳴が脳内に響き渡る。
その倒れていたはずの声の主はゆっくりと動き出していた。
「ま、まさか!?」
「レノ!とどめを刺すにゃ!」
「うん!」
彼女の放った魔法が一直線にリヴァイアサンのもとに向かう。
完全に奴の急所となる頭を捉えたと確信した瞬間だった。
別の方から飛んできた謎の閃光により魔法が完全にかき消えたのである。
「にゃに!?」
「で、電撃!?」
「どういう・・・・。」
その飛んできたであろう方向を見ると、雷をまとったドラゴンがゆっくりと降下してきていた。
「ら、雷帝龍カムイ・・・・。」
伝説上とされるその姿を見た少女はそう言うと、再び地面に座り込む。
「もしかして・・・リヴァイアサンと同じ仲間・・・・?」
「そうにゃ・・・。」
少女は声を震わせながら必死で更にまずい状況を伝えてくる。
「ま・・って、あ・・・あっちも・・・」
そこには数える限り5体以上はドラゴンが私達を取り囲む様に空中を飛行していた。
「知る限り・・・・雷帝龍カムイ、零結龍ヘイル、月花龍ミナヅキ、灼獄龍フラマ・・・・」
「伝説級が5体以上・・・・・。う・・・うっ・・・・うわぁああああああん。」
博識故に少女は余りの惨状に大声で泣き出し、再び失禁し始めた。
「ちょっと待って・・・・。どういうこと・・・・。」
「どいつもこいつも四天王の手下・・・、全員であのカースドラゴンの仇討ちをしに来たって感じだにゃ。」
「そ、そんな・・・。」
そして私は長年の戦闘の勘とでもいうのか、周りに居る敵の数の大凡を感じ取れるのだが。
この聖地一帯だけでも数が留まることを知らず、今もなお増え続けているのを感じた。
「おかしいにゃ・・・・。5体ばかしじゃないにゃ、10、20・・それ以上はこの地域に居る・・・・。」
「待って理解できない・・・。」
「おかしいにゃ・・・先程から気配が増え続けてるにゃ!!」
「もしかして不運のせい・・・・。でもレアちゃんは・・・・」
「しばらく、不運が発動していないと思ったらこういうことにゃか・・・。」
そこで私はこの後の展開を受け止めゆっくりと地面に座り込んだ・・・。
前世のアレ以来、久々に私は大人気なく大声で泣いた。
「レノ、リロ・・・・ごめん・・・・にゃ・・・・。うっ・・・・。」
「ちょっと・・・・!?クッションらしくないじゃん・・・諦めないで・・・」
座り込んだ私の肩を持ちながら必死で慰めてくる親友が居た。
よく見るとそいつも必死で涙を堪えて居るのが分かった。
私を元気づける様にめいいっぱいの力で親友が頬を引っ叩く。
パンッ!
「ロモっ!いい!?あなただけでも逃げて!」
「ど、どういう・・・ことにゃ・・・・?」
「幸いここは水の聖地、そして水を得意としているリヴァイアサンは今は負傷している。」
「そうか・・・・もしかすると水に乗って何処かの街に逃げ延びれるはず・・。」
「良い?リロ・・・・。」
親友は魂が抜けたような少女を抱きかかえる。
「あ・・・。」
「しっかりしろ!最強の魔法使い、リロ・ウィッチザ・イル!」
「おね・・・・ちゃ・・・」
少しずつ親友も事実を受け止めてきたのか、涙ぐむのを声から感じる。
「最強で・・・天才なんでしょ!!」
「わ・・・わた・・・し。」
親友は少女の腑抜けた顔に対して元気づける様にキスをする。
「んっ・・・・・」
「ん・・。」
「お、おねーちゃ・・・。」
少女とおでこを合わせて、見つめ合いながら優しくゆっくりと呟く。
「続きは後でね・・・いい子だから・・・お願い・・・・。」
「うん・・・。」
そう言うと少女は風魔法を操り空気の球体を作り出す。
「少しでも追手を減らすために別れるにゃ・・・。」
「あぁ・・・・。本当にまた会おうだね・・・・」
「いいタイミングで呼び出せにゃよ!」
「あぁ!」
親友は少女を抱えながら森林へと姿をくらませた。
「私もすぐに・・・と言いたいところだけど、少し撹乱させてからかにゃぁ・・・・。レア、ちょっとだけ借りるにゃよ・・・・。」
私は足元にあった少女の形見の小さな銃と、漆黒の大きな銃を背負って一本道をゆっくりと歩き出した。




