私の豪運は誘拐を届ける。
私は薄暗い大きな倉庫にいた。
入り口の扉の天井付近にある換気用のプロペラが、
ゆっくりと回っており隙間から日が指しホコリが煌めいていた。
まるでここだけが時間が止まっているかのようだった・・。
「いてて・・・。」
椅子に縛られて居た私は、改めてゆっくりと周りの様子を見る。
記憶が曖昧になっているが、どうやら誘拐されたようだ・・・。
目の前の男たちは何かよく分からない言語で話し合っていた。
「あ、あの!!たすけ・・・うぐっ!!」
近くに居た男が繰り出したであろう蹴りをもろに受けてしまった私は椅子と一緒に倒れた。
「げほっ・・・げほっ・・・・。くそっ・・・・」
私はぼんやりとした視界の中で、見覚えのある男を発見した。
買収した会社に居た専務である。
「お、おまえ・・・・・・・」
「あぁ!気が付きましたか社長!!」
「なん・・・・で。」
「何で、と申されても・・・この状況から読み取れるはずですが??」
「くそがっ・・・・!」
「まぁ落ち着いてくださいよ。奴隷となるか、
此処で殺されるかぐらいは選ばさせてあげますから。」
「っ・・・。」
「当然、どちらも楽には死ねませんけどね。」
男が私の顔を踏みつける。
初めての痛みだった。
「うぐっ・・・痛っ!!」
「ふふっ、いいですね。」
苦労せずに楽して生きてきた人間の当然の末路と言っていいだろう。
この時、母親の言うことを素直に聞いておけばよかったと何度も後悔した。
そして恐怖で涙が溢れ出していた。
「ご、ごめんな・・・・さい・・・。」
「おやおや、先程の威勢はどうしましたか?
張り合いがあればもう少し楽しめるのですが・・・」
タブレット端末を持ちながら男が呟く。
「それにしても驚きました。あの有名なアカネさんの娘だったとは・・・。」
その言葉を聞いた私は叫びながら、男の方を睨みつける。
「お、お前ぇえええ!」
「うるせえよ!ガキ!!」
男が再び、私の顔を踏みつける。
「うぐっ!」
口の中に血の味が広がる・・・。
私の失敗で母にも被害が及ぶと思うと、余計に涙が止まらなかった。
「頭の方は遺伝されていないようで助かりましたよ・・・。
にしても運だけでここまで生きてきたとは不思議ですね。」
私は唇を初めて血が出るほど噛み締めた。
「っ!!ゆるさない・・・。」
「ははっ。まずは身代金をたっぷり頂きましょうか。」
「ご、ごめんなさい・・・お母さん・・・。」
私は諦めるように目を閉じた。
倉庫の外から大音量で、聞き慣れた声が聞こえた。
「今度から、私の言うことを素直に聞いてくださいね!!」
その声の方に男たちが一斉に振り向く。
「何だ!?」
次の瞬間、蜂の巣のように倉庫の壁に穴が空いた。
「ぐああっ!!」
そして私の周りに居た男たちが悲鳴をあげ一斉に倒れた。
すぐさま正面の扉から、銃を持った男たちが私を取り囲むかのように続々と入ってきた。
そのリーダーらしき男は無線で誰かと話していた。
「目標クリア。警戒態勢へと移行します。」
その奥の方からゆっくりと見慣れた姿が現れる。
「心配しましたよ・・・。」
「アミさん!?」
「えぇ、遅れてしまいました。」
「ごめんなさい・・・。」
「いいんですよ。」
「アミさん・・・あっ、危ない!」
倒れたはずの男が立ち上がり背後からアミさんに殴り掛かる。
「お世話係も、同じ様に爪が甘いですね!!」
アミさんはそれをノールックで避けると全力で男の顔面を殴りつけた。
「はあっ!!」
ドゴッ!!
凄まじい音と共に殴られた男は、3mほと吹き飛び壁に叩きつけられた。
「うがっ!!」
「えっ!?どうやって・・・・。」
「影ですよ。後は攻撃のカウンターを狙うだけなので簡単です・・・。」
「つよ・・・。」
アミさんがナイフで椅子の紐を切る。
「満足しましたか?社長・・・。」
アミさんを抱きしめて、そこで私は初めて大声で泣いた。
「うぁあああああああん。」
私の背中をさすりながらアミさんは安堵する。
「そうですか。今度は守れましたね・・・・。良かった・・・。」
「今度って??」
「私の亡くなった娘です。」
「でも生きてるって・・・・。」
「すいません、あの時は嘘を付きました。」
「そうなんだ・・・・。」
「嘘を付いたからクビですか?」
「まさか。これからもお世話係お願いします。」
アミさんはこちらを見て微笑んだ。
「ふふっ、仕方ないですね。さぁ船に帰りますよ。」
私をおんぶしたアミさんはゆっくりと歩き出した。
30分ほど車に揺られた後、私はあの貨物船に戻ってきていた。
アミさんにおぶられながら、
夕日に照らされた貨物船を見た私は再び涙が溢れ出していた。
多くの船員がこちらを見て頭を下げる。
「た、ただいま・・・。」
「おかえりなさい。全く・・・6ヶ月ほど停泊していたので色々大変でしたよ!!」
「でも出向していいって・・・・。」
「大切な娘を、置いて行けるわけ無いでしょ。」
「うぅ、ごめんなさい・・・。」
「いいんですよ。あなたの母親も同じ言葉を言うはずです。」
「うん・・・。」
コンテナのソファーに座りながらアミさんに手当をしてもらっていた。
顔面を踏まれ、骨折は無かったものの擦り傷だらけであった。
消毒液を一箇所ずつ付けていくのだが・・・・。
「いったあああああああああい!」
「自分の過ちの罰だと思って、我慢してください!」
「これは、無理!無理いいいい!!」
私の言葉をスルーしながら消毒液の染みた綿を傷口に当てる。
「はぁ・・・・明日から鍛えましょうね。」
「いてっ!!・・・何を?」
「体をですよ。それと戦闘技術も。」
「それ必要?いったーい。」
アミさんはガーゼを傷口にテープで貼る。
「また痛い思いをしたいですか?」
「やだ・・。」
「こちらも何度も助けに行くのは勘弁願いたいですからね。」
「うぅ・・・。」
アミさんは私をベットに横にさせて、掛け布団をかけてきた。
「とりあえず今日は休んでください。」
「うん・・・、ありがとう。その・・・お母さん・・・・」
「えぇ、おやすみなさい。」
これが本当に私の求めていた母親の愛情といったものなのかもしれない。




