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第9話 騎士の頭痛の種1


「レイモンド!!」


 騎士団の部下達に稽古を付けていた処に、皇太子殿下に声を掛けられた。それと同時に振り下ろされる木刀をすれすれでよけ、持っていた木刀を構え直した。


「ちぇっ、よけたか」


 悪戯を失敗して拗ねる処は昔と変わらない。

 もっとも、悪戯にしては度が過ぎるが。


「いきなり何ですか。危ないでしょう」


 下手をすれば大怪我ではすまない。


「そんなにカッカッすんなよ。ちょっとした挨拶だろ?」


「でしたら()()()()()してください。いきなり攻撃を仕掛けてくるのは挨拶とはいいません」


「え~~、それじゃあ面白くないじゃん。つまらん!」


「……挨拶に面白いも何もないでしょう」


 今年で十六歳になったとは思えない言葉だ。

 何しろ、この皇太子殿下は隙あらば攻撃してくる。まるでそれが「挨拶」とでも言わんばかりに。あれで手加減しているようだが、皇太子殿下の手加減は他の者にとっては脅威以外の何物でもない。

 

 何度、叱責しても態度を改める様子もなく言うに事を欠いて……。


『不意打ちに対処できるように訓練してやってんだ!有難くおもえ!』


『そのような事は不要です』


『だってさ~、近衛の連中弱すぎじゃね?護衛対象の俺よりも弱いって何だよ?この前、街でぶらついていた時に通り魔に遭遇したら近衛の連中ビビっちまって動かねぇの。で、結局俺が退治したんだぜ?護衛対象に守られる近衛隊ってなんだよ?』


『ぐっ』


 確かに報告を聞いて呆れかえったものだ。


『俺、護衛いらねぇんだけど』


『そうは参りません。殿下をお守りするのが近衛の仕事でございます』


『いや……寧ろ邪魔なんだよ。足手まといって意味で』


『う!』


 そう言われると立つ瀬がない。

 護衛対象に守られる近衛……情けない。


『近衛隊って軍人と違って見栄え重視だから、ある程度仕方ないっちゃあ、仕方ねぇところがあるけど……アレ酷すぎねぇ?弱すぎ。いっその事、顔と腕っぷしのいい平民を雇いいれた方が効率いいぜ?』


 言い返せない。


『ま、俺様直々に“抜き打ちテスト”してやるよ!』



 そうして始まった一方的な暴力の嵐に近衛騎士団はなすすべも無かった。

 各騎士団団長が束になっても勝てない相手、それが皇太子殿下だった。


 一応、私は皇太子殿下の幼馴染で側近()()だ。

 そのせいもあってか、皇太子殿下は私の職場でもある近衛の第三騎士団に突進してくることが多い。いつの間にか当然のように居座っている始末。第三騎士団を拠点に他の騎士団の底上げを勝手に始めている。それに抗う術がなかった。



 

 それは今も続いている。

 

「久しぶりに近衛の稽古をつけてやる!」


 そう言うや否や、皇太子殿下は私の部下へ勝手に稽古をつけ始めた。



 一時間後。

 そこには倒れ伏した部下の屍の山が積み上がっていた。


「いや~~、前よりも腕を上げていやがるな。これは俺も油断できないぜ!」

 

 ……油断も何も数十人を相手取って圧勝してるんですよ? 嫌味ですか!

 そもそも、第三騎士団は主に皇太子殿下をお守りする近衛なんですよ?

 どうして皇太子殿下の方が強いんですか!

 これでは我々の面目が立ちません!!

 


「レイモンド、明日から避暑にいくからついてこい」

 

「はっ?」

 

「朝の九時に出発だから遅れんなよ!」


「え?」


「じゃ、またな~~」


 いうだけ言うと手を振りながら去って行った。


 皇太子殿下に扱かれ気絶している部下の姿を眺めながら、言われた言葉を頭で復唱した。


 ……避暑に明日の朝九時に出発する。


 今の時期に?

 避暑に行くには些か遅すぎないか?

 いや、その前に皇太子殿下は避暑に行く事なんて滅多にない。

 


『暑けりゃ、魔力を放出して国中を冷たくすれば良いだけだろ?』


『夏に雪降らせれば涼しくなるぞ!』



 自然環境を一切無視した暴挙に出るようなお方だ。「高位精霊の怒りを買う」と叱責しても「それ位で怒る精霊はたかが知れてるぜ!」と鼻で笑う始末。


 そんな方が避暑、だと?

 

 あの皇太子殿下は、一体何を考えているんだ?

 もしかして……()()何かやらかすつもりか?

 避暑地で?


 理由は不明だが、第三騎士団の主人は皇太子殿下だ。命令とあらば従う他ない。それが理不尽極まりない傍迷惑な命令でもだ。

 





 

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