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カノンと土の塔  作者: 一ノ瀬一
第3章 七不思議編
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第17話 調査

 空の茜が半分ほど夜の闇に沈みかけている頃、私たちは薄暗い教室に集まっていた。七不思議の一つである人魂の正体を突き止めようと集まったのは五人──私、シルヴィ、パスカル殿下、殿下といつも一緒にいるエリックくんとクロードくん。ちなみに二人の名前はつい先ほど知った。

 昨日、明日は帰りが遅くなると言ったら、みんなすんなりとオーケーしてくれた。王室の馬車で帰ってくるなら安全だし、何より面白そうな話が聴けそうだからと言っていた。

「よし、みんな揃ったな。じゃあ鍵が掛けられる前に早く外に出よう」

「……そ、そうですね」

「カノン、今の俺は王子じゃなくて『人魂の正体突き止め隊』の一員だ。だから敬語はなし──他の三人もだ」

「殿下、さすがにダサいです……正体突き止め隊って……ぷぷ……」

「ダ、ダサくないだろ! まあ敬語はなしってことで」

 パスカル殿下は普段クラスメイトと話す姿を見かけない。いつも三人で固まっているからというものあるけれど、きっと王族と下手に関わるのを避けているんだと思う。

 私も正体がバレるのが嫌で出来るだけ関わりたくないと思ってたけど、意外と気さくな人なのかもしれない。

 ガラリと教室の扉を開けると、その音が誰もいない廊下に反響する。ほとんどの生徒は研究会に行くときに一緒に鞄を持っていって、教室には帰ってこない。窓から入ってくるほんのりと朱みを帯びた光が淡く照らす廊下はどことなく不気味だった。

 もうすでに七不思議っぽい雰囲気の廊下を通って職員室へと教室の鍵を返しに行くと、職員室の中から担任のジュアン先生の声がした。

「気を付けて帰りなさい」

 先生の机にはたくさんの書類があり、こうやって目の下の隈は生まれるんだろうなと勝手に思いながら返事をする。

 無事校舎を出た私たちは、研究会の会室がある棟へと移動する。研究会の活動が行われるこの棟は練習場に面しているため、練習場を見張るには最適だ。しかも建物の陰に上手く隠れれば相手からも気付かれることはないだろう。

「もうだいぶ暗くなってきま──きたね」

「そうだな。俺たちの姿も隠してくれてる」

 もう日は落ちきっていて、残光が空の端を僅かに照らすだけ。空のほとんどはどんよりとした昏く濁った青に覆われていた。

「生徒が人魂を見た時間はもう少し、かな」

「そうね、空がほんのりと明るいくらいって聞いたからあともう少しかな」

「それまで待つか。そうだな、それまで何か暇をつぶして──」

 パスカル殿下がそこまで言ったところでシルヴィが素早く口に指を立てて静かにするように伝える。

 何があったのかと耳を澄ませると、遠くから誰かの足音が近づいてくる。殿下たちもそれに気付いたようで、ごくりと生唾を飲む音が隣から聞こえる。

 ザッ、ザッという足音はゆっくりと近づいてきてやがて止まる。そんなに大きくは聞こえなかったからきっとこの棟ではなく練習場で立ち止まったのだ。

 すると遠くて何を言っているかは分からないが、ごにょごにょと声が聞こえてくる。おそらくは詠唱──そう思うと同時に、真っ暗な練習場が淡く照らされる。

 人魂の正体はこれだ、と全員で顔を見合わせる。しかし、今いる位置からは建物の陰になって魔術を使った人物は見えない。

 相手に気付かれないようにこっそり顔を出して確認したいけど、炎の魔術で練習場が照らされている今それをやると気付かれてしまう可能性がある。しかし、相手が炎の魔術をやめてしまうと今度は暗すぎて相手の姿が見えなくなる。

 ここはリスクを承知で確認するしかない、と無言で頷きあって意思疎通する。私はいきなり以心伝心みたいな状態になってびっくりするのと同時に、ある同僚の言っていた言葉を思い出す。

(これが青春マジック……)

 一番覗きやすい場所にいるシルヴィが「あたしが見る」とジェスチャーで伝え、ゆっくりと顔を建物の陰から出す。いったい向こうにいる人物は誰なんだろうとドキドキしていると、不意に人物の方から大きな声が聞こえる。

「シルヴィさん!?」

「先生!?」

 その声は職員室で少し前に私たちを見送った担任のジュアン先生のものだった。

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