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カノンと土の塔  作者: 一ノ瀬一
第1章 入学編
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第9話 カノンの休日

 とある休日、カノンは塔の魔術師が使う練習場でアンドレから言われた言葉を反芻していた。

(繊細な魔術……か)

 ただ考えていてもしょうがないので、なんとなく目の前の地面を小さく盛り上げてみる。小指の長さくらいしかないそれは誰かが横から蹴れば即座に折れてしまうほどちっぽけだ。

(不安定といえば──あの土の柱。リリアーヌ先輩が使ってた花の魔術、面白かったな)

 真似をして先ほどの突起にひびを入れてみるも、二、三の欠片が出来ただけだった。こんなに小さい柱じゃ出来るわけないのは当然か。

(じゃあ柱を倒して花の形にするんじゃなくて、最初から花の形に地面を盛り上げるのは……?)

 まずは単純なものからと思い、六枚の花弁が出来るように術式を組み立てていく。やること自体は隆起させる形を変えて六つに増やすだけ──同時に六個の魔術を発動するのは無理だけど、最終的に花が出来ればいいから逐次発動させるだけでいい。

「土よ、せり上がれ」

 詠唱を終えて出来たものは、花とはとても呼べないものだった。まず花弁同士が離れてしまっているし、ひどく平面的だ。これが花ではないことは分かる一方で、どうすれば花になるのかはてんで分からない。

(やっぱり実物がないと難しいかな……今度は実物があるものを作ってみよう)

 自分の足元をじっと見ながら、靴の形になるように術式を組み上げる。花のようにいくつもの魔術に分ける必要はない代わりに、造形が複雑で難しい。

(足先は少し尖ってて……真ん中が少し細くて……踵は丸くなってて…………)

 結構な時間を費やして術式を組み上げおえると、まだ発動していないのに達成感があった。今までで一番時間がかかった気がする。

 短く詠唱をすれば、小さな音とともに自分の履いている靴──のようなものが地面から顔を出す。そっくりとはいかないけど、百人に訊けば百人が靴だと答えるようなクオリティにはなっている。

(やった──もっと練習すれば精度も上がるだろうし、本物を見ながらやれば花みたいに複雑なものも出来るかも! 花を再現できるようになったらリリアーヌ先輩、驚くかな)

 思い描いた魔術が成功した喜びにカノンは胸を躍らせながら、土の塔へと帰っていった。




「ただいま」

「あらカノンちゃん、おかえり」

 塔に帰ると、くつろいでいた同僚──塔の魔術師たちが迎えてくれる。土聖になる前から塔にいる彼らは私のことを親戚の子どものようだと言っていた。

「街へお出かけしてたのかい?」

「ううん。練習場で新しい魔術の練習──ちょっと試したかったから」

「それはちゃんと『新しい』魔術になりそうなのかい?」

「もしかしたら、って感じ。なるとしても相当な練習がいると思う」

 それはそうよねぇ、とおばさんが相槌を打っていると、近くで本を読んでいた他のおじさんが心配そうに口を開く。

「いらない心配かもしれないけど、焦って魔術を上達させようとしてないかい? いつも学園から帰って土聖の仕事をしてるんだから、休みの日くらいしっかり休んでもいいんだよ。こっそり仕事してるのを止めたら練習場に行って……雷の音が聞こえなかったってことは土属性の魔術だろ? やりたくてやってるならいいんだけど」

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫、やりたくてやってただけだから」

 焦る気持ちがないわけではないけど、この魔術に関してはただやりたかっただけ──学園で新魔術のヒントを探してて見つけたものではあるから、焦り関係あると言えばあるのかもしれないけど。

「ならよかった。俺たちは魔術学園での話を聞く代わりに仕事を引き受けてる。ギブアンドテイクだから、カノンが気に病むことはないんだ」

「でも毎日のちょっとした話だけじゃ仕事の分には足りないから……」

「なーに言ってるんだい、あたしたちゃ学園の話に飢えてるんだよ。カノンの話を聞くたびに昔の学園生活を思い出すのさ。なかなかそういう話は入ってこないからね、多少の仕事をやるくらいの価値くらいはあるさね」

 塔の魔術師には王立魔術学園出身者が多いから、私の話が思い出に重なる部分が多いのかもしれないとクレアは言っていた。私に負い目を感じさせないための嘘かもしれないけど、もっと学園生活を楽しまないとと、そう思った。

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