【 Ex Nihilo Nihil Fit 】
「サイトごと消えてる」
AI画像生成プログラム【 カルペ・ディエム 】と、それに連携している超常的なほど高性能すぎる3Dプリントについて調べてみると、これほどの結果に反して情報は極端に少なかった。
海外の大学院で研究していたAIエンジンであること。
民間企業の3Dプリントサービスと技術提携したこと。
爆発事故で、御破算になったこと。
「あぁ、あの爆発事故~☆」
「 「 知ってるの? 」 」
「カンロが気付いた時、まわりは大爆発してたんです。体がほとんどありません、幸い材料はありました。回復魔法で作成して、こちらに転移しました~☆」
「体を作成?」
「材料は樹脂なんだよね?」
ハッとして調べてみる、死者数は出てこない。
ただ。
大きな工場がひとつ、焼け野原になっている。
そんな比較画像があった。
「ここにいた」
「嘘でしょ?!」
「 無からは 何も生じない 」
満面の笑みで、虚ろな瞳。
これは作中、何度か出てくるセリフ。
周囲の人間を何十人も巻き込んで、タンパク質に分解し、再構成して行使する、どんでん返しのための最低最悪の1手。
肉体再生魔法「 永劫回帰 」に成功した直後の決めゼリフ。
頭のおかしな魔法少女だから、ここなら、材料に事欠かない事故現場なら、残酷な蘇生魔法を併用して綺麗に出力できた。額に滲んだ汗が、ぬるりと滑り落ちていく、嫌な感触があった。
性格まで設定どおりのカンロちゃん。
躊躇せず死体漁りぐらいするだろう。
「魔法少女をプリントアウト、魔法だもんね」
納得したように、大きく行方さんが頷いた。
「この技術は危険すぎたよ」
「行方さん……」
「結果的に良いことをした、でしょ?」
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行方さんは、魔法少女を連れて二人で帰宅した。
一晩中まんじりともせず、布団の中で過ごした。
もう何度目かもわからない、スマホの画面確認。
特に着信音も鳴っていないし振動もしなかった。
当然なにも連絡は届いていない。
メッセージでやりとりはあった。
会話したいと思っても、とても自分から切り出せなかった。
ひょんなことから手に入れた番号、でも生活時間が想像できない……
御迷惑かも、忙しい時間帯かも、遅いかも、遅すぎるかも、もう寝るころかも、寝てるかも、寝てるだろうと悩んでいるうちに、一周回って、今この時間は確実に迷惑以外の何ものでもない。
「朝5時は、ないよなぁ」
窓の外は白みだしてる。
日が昇り始めたようだ。
ベッドから抜け出すと、ギシリと軋む音。
このベッドの足、確かに切断されていた。
行方さんは、今も……無事なんだろうか?
窓をカラカラ開いて、空気を入れ替える。
あと2時間後には登校。
眠気は無いが頭が重い。
「今日は学校、休んじゃおっかなぁ」
「仮病ですか? いけませんよ~☆」
咄嗟に振り向いた。
背に冷や汗が伝う。
「カンロちゃん」
「どうしました? まるで人殺しを見る目です~☆」
「どうして、ここに」
「最後に御礼を~☆」
「最後の?」
「あなたの作品、『絶望こそが蜜の味』があったから、私はこの世界に生を受け、こうして顕現することができました。それでも私が異物であることに変わり無い。御迷惑をおかけする前に、おいとまします」
「どこに?」
「さぁ……当て所もない旅になるでしょうけど。幸い、設定していただいた魔法、いくつかは使えます。ですから、なにも問題ありませんよ?」
少しだけひっかかる。
このセリフ。
天野カンロが話すとして、今の文章になるだろうか?
「最後に、ひとつだけ」
「はい? どうぞ~☆」
「君は本当にAIが生成して、3Dプリンターで出力された、天野カンロなのか?目の前で変身を解いた、つまり変身能力はあるんだ。不思議と服装がそのままで、作中の設定とは違う。中身はまったく別モノ、魔法かそれに近い能力を持ち、前々から存在していて、この状況を利用――――
少し驚いた表情。
すぐに口元に人差し指を立て、軽くウインク。
天野カンロにはさせない仕草だと確信する!!
「カンロなら、ウインクしない」
「かも~?」
「君、何者?」
「私は魔法少女☆カンロ! 『絶望こそが蜜の味』の主人公で~す♡」
「 メ タ 発 言 ……キャラクターを演じているわけだ。それが解答か」
「さぁ……どうでしょう」
フッと肩のちからが抜けるのを感じた。
どうも気の利いたセリフが出てこない。
「結果的に良いことをした……天野カンロはそんなキャラ、そうだろ?」
「ありがと~☆」
満面の笑み、虚ろな瞳。
僅かに俯いて、「この技術は危険すぎました」と呟いて。
目の前で雲散霧消し、あとかたもなく少女は消え去った。
「カンロちゃん、良い旅を」





