魔法少女☆カンロちゃん
「やっほ~☆ 天野カンロです!」
「 「 そう……でしょうね 」 」
人間が3Dプリントされてきた。
本当に凄い時代になったもんだ。
「現実逃避してる場合じゃないよ」
「でも行方さんも、声、震えてる」
「こんなこと、ありえないよ。もしも現実と仮定しても、ボタンを押して数十秒で人間がプリントされて、どうやって部屋に入って来たの?宅急便なんて来てない、いわんや公共交通機関を乗り継いで来るには早すぎる、そうでしょ?」
そう。
魔法少女をAIが自動生成し、3Dプリント。
結果、魔法少女が出力されてきた。
当然のようで、絶対にありえない。
「魔法で~す☆」
コン! カン!
カンロと(恥ずかしながら自作品のキャラを)名乗った少女は、その場でクルリと一回転して、可愛らしく決めポーズを取った。
が。設定どおりなら四天王の一人と戦闘で命を落としたカンロちゃんが、迎えに来た死神から奪い取ってから愛用する大鎌を振り回すには、いかんせん六畳一間の子供部屋は狭すぎた。
ゴトッ ガタン
長年パーティを組んできた仲間は気丈に立っている。
しかし、足を1本ずつ失ったのだ。
勉強机と、ベッドよ、不甲斐ないオレを許してくれ。
とか……言ってる場合じゃない。
ここはひとつ、冷静に、冷静に。
って、行方さん?
「私は……そんな魔法、認めない」
「でもほら現実に、ここにいるし」
「認めるわけにいかないのよっ!」
「な、行方さん?」
「私に、近づくな」
「 「 え? 」 」
「仄暗き我が瞳に滾るは凍てつく災禍 木は土に 土は水に 水は火に 火は金に 金は木に 天壌無窮の理を纏い 永遠なる輪廻より解脱せし漆黒の龍 天空を引き裂く相剋となりて 今こそ顕現せよ! 超級古代、黒、黒龍……龍騎。 破壊、破壊、破滅?」
「これは違った、ねこみうろん氏?」
「クッ……何故、我が求めに応じぬッ」
「なおさら落ち着いて?!」
「 黒 龍 よ 、何 故 だ !!! 」
行方さんは左眼を押さえて、口惜しそうに呟いた。
この呪文詠唱って、なんなんだろなぁ。
最後まで躓かなかったら魔法が出るの?
そういえば。
「行方さんの魔法って、左目から出るね?」
「えぇい黙れ、そのイケボが私を惑わす!」
「仄暗き瞳って、そんなに綺麗なのになぁ」
「……っへ?」
「黒くて綺麗、羨ましい」
ぺしょ
ねこみ氏が、止まった。
世界は、救われたのだ。
って……んなわけない。
さて、この隙に質問を。
「魔法少女を3Dプリントしたら、魔法が使えるの?」
「もっちろん! だって、魔法少女なんですから~☆」
「それにしても想像通りすぎる」
AIが生成した画像では見えていなかった背中や靴。
衣装で隠れてしまう体形まで、理想像と言って良い。
人ひとりの出現に驚いて忘却していた使い魔もいる。
モモンガかどうかは微妙。
モモンガ、よく知らない。
「……まだよ」
「ねこみ氏に、魔法は無理だと思うけど」
「まだ、確かめてないところがあるのよ」
行方さんが両足を踏ん張って立ち上がった。
スタスタと魔法少女へ歩み寄って、むんずとスカートを掴む。
「あのぉ~☆ な、なにを?」
「パンティ。ちょっ……見せなさいよ!」
見えそうで見えない。
ミニスカやパニエが絶妙に隠している。
あぁ、惜しい!
倫理的には正しくとも。
物理的に、有り得ない。
クッ、悔しい。
見えそうで見えない?
くっ……オレとしたことが!
あのキーワードのしわざか!
「きゃ~☆」
「あぁもどかしい、行方さん頑張れ!」
「確認するの、純白か、それだけよ!」
うまくいかない苛立ちで、行方さんがカンロちゃんを睨む。
キーワードどおり恥ずかしそうにスカートを押さえていて。
少しだけ怒った表情で、両耳だけが、真っ赤になっていた。
不意に時間が止まった。
同時に、同じ方向へと、小首を傾げていく。
さらりと黒と白のストレートヘアが流れた。
マズイ。
「ね、ちょっと?」
「なんでしょうか」
「この娘……色々付属品が付いて、色違いだけど」
「はい」
AIが生成し、3Dプリントされた魔法少女。
細部に至るまでオレの理想像そのまますぎた。
マズイことになった。
「私に、似てない?」
「そっくりです~☆」