六畳一間の密室で
よし、まずは落ち着いて整理しよう。
小説投稿サイトのお友達ねこみうろん氏は、絵心が死んでるオレにメッセージでAI画像生成サービス『画像生成 ★ かるぱっちょ』を勧めた。
その文面が残念ながらボロボロだったため、勘違いで自宅のPCへ配布されていたAI画像生成エンジン【 カルペ・ディエム 】をインストールしてしまった。
ブラウザ上で気軽に使える『かるぱっちょ』。
キーワードを列記してボタン一発、画像生成。
反面、どうやっても修正できない部分が残る。
【 カルペ・ディエム 】は違ったと説明した。
その結果、この状況……
「へぇ~、これかぁ。なんかグッと本格的だよ」
容姿端麗で才媛の同級生・行方さん(=ねこみうろん氏)が、学校帰りのオレに声をかけてきて、部屋について来て、興味深そうにモニターを見詰めて、事務的で素っ気ないインターフェースに目を輝かせている。
いまだかつてなく近い。
教室で同級生という位相空間じゃない。
六畳一間の密室で、物理的な位置関係。
距離が近い、近いどころか肩と肩がくっついている。
細く尖った肩峰が当たる、気持ちいい。
「で……このAIの描いたイラストは?」
「こうなった」
「うっわーぁ」
「凄いだろ?」
「……趣味、丸出し」
「そっち――ぃい?!」
やめろ、「ちょ、邪魔」見るな「いいから」見ないでくれ!「邪魔しないでよ、どこ?ここね」そこは駄目だ、触るな「あーもう!」……あ、オレ。行方さんの、手ぇ握ってる。
手、小っさ。
「なによ!私も見せたよ!?」
「あ、はい。拝見しました」
「どぉれどれ。1つ目のキーワードは、魔法少女」
「すみません」
「アルビノ、貧乳、猫耳、小学校高学年、使い魔」
「あの! ……それ最後まで音読するんですか?」
なんて目をするんだ。
それは人殺しの目だ。
「なにか不都合でも?」
静かにしてよう。
「モモンガ、大鎌、ニーソックス、ミニスカート、パニエ、パンティ、純白ときて見えそうで見えないギリギリの長さ。最後は、恥ずかしそうにスカートを押さえて少し怒った表情で耳が真っ赤。生成されたのは指定どおり、想像以上のイラスト。これは確かに凄いよ」
「だろ?」
「でもね。後半、目的が変わってるんじゃなくって?」
「市場ニーズに合わせて人気キャラの特徴を列挙した」
「で?」
「このとおりAIは破廉恥な妄想を。それだけのこと」
「AIが勝手にね~ぇ」
真意を測りかねるとでも言いたげに、横目で睨んできた。
行方さんは、知っている。
俺の正体と秘密裏に進めている執筆活動を掌握している。
キーワードを見られた今となっては、苦しすぎる言い分。
後の祭りだった。
「これは一般的な魔法少女と言うより、毎夜毎晩投稿してる卑猥な魔法少女小説『蜜の味』の主人公、天野カンロそのものだよ?」
「すぐバレた」
「そりゃ自作品で試すでしょ、誰だって」
行方さんは「んフッ」と小さく笑った。
「これが挿絵なら猥褻画像で掲載NGよ」
「ハッハッハ……すみません」
「よくもまぁ毎回オチは綺麗にまとめて、世は並べて事も無しで終われるよね」
「結果オーライの世界なんで」
いくつか『画像生成 ★ かるぱっちょ』には無かった機能を試していて、不意に比較的目立っていた1つのボタンを指差し、「これは?」と、首を傾げた。
インターフェースは自動的に日本語翻訳された。
それだけは完全な画像、英語表記になっている。
「それ3Dプリント」
「三次元で、印刷?」
「たぶんだけど、3次元データを生成してから、イラストをレンダリングしてる。だから異常なほど精度が高い、これは画期的なんだ」
「画期的?」
「AI画像生成は自由度の高いキャラメーカー、イラストの要素を学習して急激に上達していく。反面、氾濫するパターン化されたイラストは飽きも早い」
「でもカルペ・ディエムは、そうじゃないのね」
「2次元から3次元データ化する技術もあるけど。左右対称のパーツ、影の正確さ、立体物の出力を頼めること。3Dデータありきのサービスじゃないかと思う。光造形や粉末じゃなくって、価格の安い樹脂造形かな?」
「樹脂?」
「ほらここ。9$って千円チョイ。いくらサービス期間でも手間賃にもならない。気軽にオリキャラをデザインして3Dプリンターで出力、全部ひっくるめて売り物にする会社なのかも。本格始動したらフィギュアなら高い、軽く10倍以上するのが相場だから、先行投資かな?」
「すごいなぁ、頭の良い人は違う」
「まったく凄いこと考えるよねぇ」
「じゃなくって……あ、あれれ?」
……って。
PCの様子がおかしい。
猛烈に回転を始めた空冷ファン。
高周波な音が甲高くなっていく。
咄嗟に本体を触ってみると、異常な発熱。
すぐにグリスの焼ける匂いが漂ってきた。
画面を見る。
3Dプリントのボタンが直前と違う。
このソフトウェアはβ版、なにか不具合が隠れていた?
その程度でこれほど負荷はかからない、明らかに異常。
「パソコン、ヤバいな……」
「ご、ごめん」
ハッとして、マウスを見る。
行方さんの手、人差し指が震えてる。
左クリックをしたまま、固まってる?!
ショートカットキーでソフトを終了、タスクマネージャー起動、どれも無反応、インストールするために昨夜セキュリティレベルを落とした、今は戻してあるけどネットに接続した状態、まさかとは思うけど……
クラッキングを受けてる?
画面が暗転し「ゃ」と極々小さな声。
こんなパソコンの暴走、初めて見た。
どうすればいい?
……回線を遮断。
それなら簡単ッ!
「ほい、電源OFF」
「えっ? 止まった」
「や~焦った焦った」
かなり本体が熱い。
ハードディスクなら、終わってた。
内臓SSDにしておいて良かった。
今日は徹夜で原因究明かぁ。
……って?
「泣いてるの?」
「泣いてないよ」
「怖かったのか、もう大丈夫だから な、んだッ!?
ドッ バ……ァアン!!!!
轟音と共に爆発したノートパソコン。
白煙に搔き消された、行方さんの姿。
茫然と眺めるだけのオレ。
窓の隙間から徐々に排出され薄くなっていく。
すぐ近くに人影があり、安堵の溜息をついた。
「行方さん……良かった……ッゲ、ゥゲフッ」
そのまま煙を吸い込んだ。
科学的な薬品が喉を焼く。
激しくむせる。
次に顔をあげた時、人影は、大小2つに増えていた――――





