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ドキドキ?夏合宿(前編)

 次の週末、私達3人は神谷総監督に呼びだされるとそこに総監督の姿は無かった。代わりにサポートスタッフの運転する車に詰め込まれ、山の中のコテージに連れてこられていた。

「神谷総監督から預かったお手紙です。」

 朔がサポートスタッフに渡された手紙を開く。

『明日の夕方まで迎えの車は来ないから、それまで3人で仲良くトレーニングしててくれ。生活に必要なものは全てコテージにそろっているから好きに使うといい。』

「急、ですね。」

 つるぎが困惑したように呟く。確かに合宿するとは言ってたけど、普通、事前に予定を確認したりとかしない!?まあ、予定ないけど!

「まあ、チーム組んだばっかりだからな。一緒に訓練して連携を深めろってことかな。」

 朔は神谷総監督の意図が分かっているようだ。

「健闘を祈ります。」

 見送るサポートスタッフの言葉が引っ掛かった。


 コテージに入ると中は綺麗な作りになっていた。

「真希、見てみろよ!暖炉があるぞ!」

「いや、この暑いのに使わないでしょ。」

 朔、お泊りにテンションが上がってるな。まあ分かるけどね。

「じゃあ部屋に荷物置いたら外に集合してトレーニングするぞ。」

「はーい。」

 一階はキッチン・ダイニング・お風呂など。二階は寝室になっているみたいだ。寝室二部屋のうち、一つを朔、もう一つを私とつるぎで使うことになった。

 部屋に入るとつるぎは浮かない顔をしていた。

「つるぎ、どうかした?」

「私って朔に嫌われているのでしょうか。」

「ええっ!?どうしてそう思うの?」

「だって、真希とは話すけど私には話しかけてこないし、昔みたいに『つーちゃん』って呼んでくれないし…もう私のこと嫌になっちゃったのかなぁ。」

 つるぎはうるんだ眼でこちらを見てくる。うーん、朔の態度は大切だからこそ触れられないってかんじに見えるんだけどな。

「ねえ真希!私、朔ともう一度仲良くなりたいの!協力してくれませんか?」

 総監督からの頼みもあるのでもちろん協力する。

「分かった。私に考えがあるの。」

 作戦決行だ。


 つるぎとコテージの外に出ると、朔が仁王立ちして待っていた。

「遅いぞ。」

「ごめんごめん。」

 つるぎに作戦を説明していたら遅くなってしまった。その名も「素直になっちゃおう作戦」!

 今の2人には圧倒的に言葉が足りない。だけど、相手のかっこいいところを見れば、自然と言葉が出てくるのではないかという考えだ。つるぎには「つるぎのかっこいいところをみせれば朔の見る目も変わるよ。私も協力する。」と伝えてある。

 作戦1、トレーニングで身体能力アピールだ!

「まずはランニングからだ。今後マナンの戦闘能力が向上することも考えて長く戦える体力づくりが必要になる。特に真希はアキレス腱断裂からほとんど運動していなかっただろう。もう完治しているし、これからはビシバシ鍛えてやるからな。」

「お手柔らかにお願いします…」

 試合でアキレス腱を切って剣道部を辞めてからあんまり運動してなかったからな…たまに家で座って素振りしていたくらいで。体力の衰えは自分でも気になっていたところだった。

 私は体力が落ちて今はそれほど早く走れないし、この前の戦闘で見たつるぎの身体能力は申し分なかった。つるぎは普通に走るだけでもかっこよく見えるだろう。

「それじゃ、いくぞ。スタート。」

 朔の掛け声と同時につるぎは凄いスピードで走り出した。

「おい、つるぎ!お前道分からないだろ!」

 慌てたように朔がつるぎの後を追う。

 あー…気合い入り過ぎちゃったかな。

 2人の走るスピードにはついていけないのでコテージの前で帰りを待つことにした。


 しばらくすると朔がつるぎを連れて帰ってきた。

「全く、僕がちゃんと走るルートを調べておいたのに、闇雲に走ったら危ないだろ。」

「すいません…」

 どうやら朔はつるぎにお説教中らしい。

「僕の前で怪我することは許さないからな!分かったか!」

「分かりました…」

 つるぎがうなだれる。

 無意識か、朔がこんなにつるぎへの愛情を示しているのに、つるぎは全く気づいていない。この2人は優秀なのに何でこんなに鈍いんだ?

「真希、待たせて悪かったな。仕切り直して走りに行くぞ。…今度はちゃんとついて来いよ。」

 私達は朔を先頭として走り始めた。朔とつるぎは私を時々気にしてくれたから、置いていかれることなく一緒に走ることができた。ランニングコースの途中には湖が見えて、夕日を反射してキラキラと光る水面がとても綺麗だった。


 コテージに戻るとあたりは暗くなりはじめていて、トレーニングは終わりにすることになった。

「私達は夕ご飯の支度してるから、朔は先にお風呂入っちゃいなよ。」

 真希は朔に声を掛けた。こっちには次の作戦があるからね。

「そうか。それじゃあ頼んだ。」

 そう言って朔はお風呂に向かっていった。真希はつるぎに向きなおる。

「つるぎ!次の作戦だよ。美味しいご飯を作って朔を喜ばせよう。」

 作戦2、手料理で家庭的アピールだ!

 生活に必要なものは全てそろっていると言っていただけあって、コテージには歯ブラシ、飲み物、タオルなど色々なものが用意してあった。キッチンを漁ると米、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、豚肉が見つかった。あとはあれがあれば。

「私にも出来るでしょうか…」

「大丈夫大丈夫。作るのはカレーだから簡単だよ。一緒にやればあっという間だって。」

 戸棚からカレールーが見つかった。やっぱり合宿といえばカレーだよね。

 ちょうどいいところにあったフリルが可愛いエプロンを身に着けて調理を始める。

「じゃあ、まずは野菜を切ってもらおうかな。」

 つるぎに皮をむいたじゃがいもを手渡す。

「分かりました。」

 つるぎは手にした包丁を振り上げ、じゃがいも目がけて振り下ろした。

 真っ二つになったじゃがいもが衝撃で空を飛ぶ。

「包丁って使いにくいですね。慣れたものを使ったほうが切りやすそうです。」

 そう言ってつるぎはポケットから何かを取り出そうとする。それってもしかして…

「よっと。」

 つるぎは斧を振り上げた。…ちょっと待って!

「つるぎ!ストップ!それ使ったらまな板ごといっちゃうから!」

 なんとか斧の持ち手を掴んで動きを止める。いや、下手したら調理台も破壊するぞ…

「つるぎ、料理で斧は使えません。覚えておきましょうね。」

「…分かりました。」

 しぶしぶといった様子でつるぎは斧をしまった。この子の今後が心配だ。

 その後はつるぎに正しい包丁の使い方を教えて、何とかカレーを完成することができた。

「うん、美味しくできてる。つるぎも味見してみな。」

 小皿によそったカレーをつるぎに手渡す。

「…美味しい。」

 つるぎが嬉しそうに微笑む。

「うわぁあ!」

 その時、お風呂のほうから朔の叫び声が聞こえた。

「確認してくるから、ちょっと待ってて!」

 つるぎに声をかけ、脱衣所の扉の前まで急いだ。


「朔!どうしたの!?」

「…真希、着替え持ってるか。」

 扉の向こう側から声が聞こえる。

「いや、泊まる用意なんて何もしてきてないけど。神谷総監督が用意してくれてるんじゃないの?」

 食料やタオル、寝室には新品の加圧ソックスなんてものまで用意してあった。これだけ準備されているのだから、脱衣所には着替えが置いてあるだろう。

「そこが問題だったか…あの変態総監督め。」

 朔が呟く。

「もういい、僕はもう一回同じ服を着る!」

「だめだよ!この後洗濯して明日着て帰るんだから。」

「嵌められたっ…!」

 その後、脱衣所からごそごそという音が聞こえた。

「…いいか、絶対に笑うなよ。」

「うん?」

 出てきた朔はくまの着ぐるみを着ていた。

「うはっ!か、可愛いすぎる…!くくっ…!」

「わ、笑うなって言っただろー!」

 顔を真っ赤にした朔が腕を振り回して怒る。その恰好で怒っても可愛いだけなんだよな。

 なかなか戻らないのでつるぎが様子を見に来た。

「大丈夫でしたか?…まあ、朔!よく似合っていますね。ふふ。」

「つるぎまで笑うなんて、ひどい!」

 つるぎも朔の様子をみて楽しそうだ。

「じゃあ、私達もお風呂に入ってこようかな。朔はテーブル拭いたりして待ってて。」

「…分かった。」

 朔は口を尖らせてダイニングのほうに向かっていった。


「うわー、気持ちいいー」

 体を洗い、湯船に浸かると思わず声がでた。

「ふふ、そうですね。」

 隣のつるぎがこちらを見て笑う。

 湯船は二人で入るには十分すぎるほどの広さがあった。温度もちょうどいい。

「ねえ、つるぎはどうしてDAMに入ったの?」

 世界を脅かす敵と戦う秘密の組織。普通の人であればその存在も知らないはずだ。

「まだちゃんと話していませんでしたね。…真希は信頼できる仲間ですから知っておいてもらいたいです。」

 仲間か。つるぎの口からそんな風に言ってもらえたことが嬉しい。…朔にも素直になればいいのに。

「私の父は警視庁の刑事をしていて、とてもかっこいい人でした。私の名前も強くたくましい子に育つようにと父が付けてくれました。朔の父親は私の父の上司にあたる人でした。」

「それって、警視庁の刑事だったっていうこと?」

「そうです。」

 警視庁の刑事が爆破未遂事件を起こしたのか…

「私の父と朔の父親は仲が良く、家族ぐるみの付き合いがありました。そこで私と朔は出会いました。」

 そうだったんだ。

「朔の父親は時効が迫る事件について個人的に調べていました。日々の職務に加えて個人的な捜査を行っていたために過労がたたり、ある日職務中に倒れてしまいました。それによって個人的に捜査を行っていたことが警視庁の上層部に露呈しました。朔の父親は被害者の無念を晴らしたいという一心で行っていたのですが、そんなことが認められるはずもなく、最終的には自主退職に追い込まれました。朔の父親は誇りを持っていた警察官という仕事を失い、魂が抜けたようだったと私の父が言っていました。…そんなときです、マナンが朔の父親の前に現れたのは。」

 つるぎは俯きながらも話を続ける。

「マナンは朔の父親に融合し、心を操作しました。人一倍正義感の強い人だったので、マナンの作用が強く働いたみたいで、『被害者のことを見捨てていく組織なんて意味がない。警察は私が破壊する』という気持ちになってしまったそうです。朔の父親は私の父のもとを訪れ、爆破に協力するよう説得しました。…私の父は朔の父親をとても尊敬していたのでその話を聞き入れ、犯行に加担してしまいました。本当に大馬鹿です。でもそんな父を止められなかった私はもっと馬鹿です。」

 苦しそうにつるぎが言葉をしぼりだす。

「犯行は朔の父親に融合するマナンを発見したDAMが直前で阻止し、未遂で終わりました。しかし、計画的な犯行だったとして私の父と朔の父親は罪に問われました。何も分からなかった私は父がなぜそんな事件を起こしたのかが知りたくて、事件の捜査で私の家に出入りする人物を片っ端から後を付けました。その中でDAMにたどり着きました。…おそらく朔も似たようなきっかけだと思います。マナンのことは多くの人が知りません。ですから、マナンの危険性を証明することができれば、2人を無罪にできるかもしれません。私の父と朔の父親の人生を狂わせたマナンをこの世から消滅させること、そしてマナンの危険性を証明して無罪を得るために私はDAMにいます。」

 やるせなさで胸がぎゅうっと締め付けられる思いがした。つるぎに何か言わなきゃと、思いつくままに話す。

「きっと朔のお父さんはそんなことをするような人じゃなかった、と思う。会ったことはないけど。つるぎのお父さんだって、尊敬していたからこそ説得に共感しすぎてしまった。本当に悪い人なんていないのに…悪いのは歯車を狂わせたマナンだ。つるぎも自分を責めないで…!」

 苦しくて涙がこぼれる。つるぎも朔も辛い過去を背負って生きてきたんだ。部外者の私が泣いていいはずないのに。

「泣かないで、真希。私は大丈夫です。朔と真希がいてくれるから。」

 そう言ってつるぎは真希の頭を撫でた。

「長くなってしまいましたね。そろそろ出ましょうか。…朔がお腹を空かせて待っていますよ。」

私たちはお風呂場をあとにした。

 脱衣所にはタンクトップ、ショートパンツ、パーカーの可愛らしいパジャマセット2組が用意してあった。

「色違いなんて、ふふ。何だか姉妹みたいですね。」

 つるぎがお揃いのパジャマを見て微笑んだ。 

「そうだね、嬉しい。」

 つるぎにつられて真希の顔もほころんだ。

 ダイニングに戻るとテーブルに料理を並べていた朔が私達に気づいた。

「おかえり。2人ともご飯の準備ありがとう。…ていうかつるぎ、お前料理なんてできたのか?」

 朔が訝しげにつるぎをみる。

「真希が教えてくれたから…一緒に作ったんです。」

「そうか、よかったな。」

 朔がつるぎに優しく微笑む。なんだかいい感じじゃないか。

「ほら、食べよう!」

「「「いただきます。」」」

 3人で手を合わせ、夕ご飯を食べる。こんなふうに仲間と過ごすのは高校一年生の時の剣道部の夏合宿以来だ。

「うん、美味い。これからはつるぎにもご飯を任せられるな。」

「そんな…でも、また料理してみようかな。」

 いや、まだつるぎに1人で料理させるのは怖すぎて許可できないんだけど。それよりも、

「2人って一緒に住んでるの?」

「いや、一緒には住んでいない。色々あって僕は両親と一緒に暮らすことが出来なくて、今は神谷総監督と一緒にDAM本部に住んでいる。つるぎは週に2、3日くらい泊まりに来るんだ。」

「そうなんだ。」

 だから朔と総監督は距離が近いんだな。納得。

 でも、両親と暮らすことができないって、お母さんはどうしたんだろう…?

「最近は放課後や休日に真希が来てくれるから、にぎやかで楽しいです。DAMは大人ばっかりで未成年は私と朔くらいでしたから。」

 ここしばらくは剣の練習やマナン戦闘待機でDAMに通っていた。確かにDAMで同世代の子はほとんど見かけなかった。

「あれ?研究部の杏奈さんは?」

「あの人は27歳だ。」

「えーー!?」

 いや、もうそれ童顔っていうレベルじゃなくない!?羊の着ぐるみが似合う27歳。妖精さんか!

 会話は弾み、楽しい夕食のひと時を過ごした。明日のトレーニング開始は9:00からとなり、今日は解散になった。


 歯磨きなどを済ませ、寝室のベッドに潜るとつるぎが話しかけてきた。

「真希、今日はありがとうございます。」

「ん?何が。」

「朔のこと。いろいろ協力してくれたので。今日は久しぶりに朔とたくさん話すことができました。…まあ、怒られたりもしたんですけどね。」

 そう言ってつるぎが笑う。ランニングの時のことか。

「昔はそれなりに仲が良かったと思うんです、私達。でも、DAMで再開すると朔は人を寄せつけない雰囲気に変わっていて、上手く話せなくて…朔は初め、ガーディアンになりたかったんです。ですが適正が合わず、指令官を目指し始めました。毎日、指令官やマナンについて勉強している姿を私は遠くから見守っていました。そしてあっという間に階級に差が開いてしまって、それからはより話しかけづらくなりました。一等指令官になってからは朔と相性のいいガーディアン候補がなかなか見つからず、いつもイライラしているようでした。…その中でやっと朔は真希に出会えたんです。だから真希を手放さないためにちょっと強引なこともしたんじゃないかと少し心配でした。」

「まあ…そうだね…」

 いきなり呼び捨てにされたりとか、あんぱん押し込まれたりとかね。

「やっぱりそうでしたか…朔って昔から不器用なところがあるんですよね。あんな風に大人っぽい恰好や口調をするのは、自分を強く見せたいっていう気持ちの表れなのかなって私は思っています…」

 生意気な話し方は大人の武装だったのか。

「ですが、真希と一緒にいる朔は…いつもよりも子供らしく見えます…それって素敵なことで…私も嬉しい…です…だからもういいんです…私のことを好きじゃなくても…朔が笑う姿を…見られれば…」

 うつらうつらしていたつるぎは眠りについたようだ。規則的な寝息が聞こえる。

「おやすみ、つるぎ。」

 つるぎの頭をそっと撫で、私も眠りについた。


 喉が渇いて夜中に目が覚めた。隣で眠るつるぎを起こさないようにそーっとベッドからでる。

 一階に降りるとダイニングに明かりが点いていた。

「朔?」

 扉を開けるとテーブルで何か作業をしている朔の背中が見えた。

「真希か。どうした。」

 気づいた朔がこちらを振り返る。

「ちょっと喉が渇いて。朔は何してたの?」

 キッチンで麦茶を注ぎ、それを持って朔の向かいに座った。

「眠れなかったから、今日のトレーニングの記録をつけていたんだ。」

 朔の手元にはノートがあり、そこにはびっしりと文字が書いてあった。

 朔は手を動かしながら続けた。

「ガーディアンと執行官の管理も指令官の仕事だからな。最適なトレーニングや戦闘プランを立てることで、班員のダメージを最小限に抑えることができるんだ。」

 私達が怪我しないように一人で考えてくれていたんだ。

「そっか。偉いね、朔は。」

 朔はガバッと顔をあげた、

「な…っ!そんなこと言ったって明日のトレーニング、軽くしてやらないからな!」

 素直に受け取っておけばいいのに。意外と褒められ慣れてないのかな。

「はいはい。」

 朔はノートをぱたんと閉じ、真希の目を見つめた。

「真希は辛くないか。」

「えっ?」

 予想もしない言葉に驚いた。

「僕が声を掛けなければ何も知らずに過ごせたのに、無理やりこっちへ引き込んでしまった。焦っていたんだ。それにつるぎのことも…」

 朔は机に目を落とした。

「つるぎから聞いたか、僕のお父さんの話。」

「うん…」

「そうか…いいんだ、言わないといけないと思っていたからな。…僕のお父さんはマナンに誘導されて事件を起こし、罪に問われた。お母さんはその現実を受け入れられず、心を病んでしまった。今は病院に入院している。一人になった僕を蘭さん…神谷総監督がDAMに引き取ってくれたんだ。」

 それで今はDAMに住んでいるんだ。

「僕がDAMに加入してすぐにつるぎがやってきた。執行官になるとか言い出してな…本当は嫌だった。何も知らずに平和な世界で生きていてほしかった。でもつるぎはやめてくれなかった。せめて僕の目の届くところに置いていけるように、総監督に頼み込んで僕の班に入れてもらったんだ。…だから絶対に危ない目になんて合わせない。もちろん真希のこともな。」

 朔からつるぎのことを聞いたのは初めてだった。つるぎのこと、やっぱり大切なんだな。

「私は辛くないよ。大切な人を守るために戦えることを誇りに思っている。…つるぎもきっと同じ気持ちだよ。」

「そうか…引き留めて悪かったな。明日も動くんだ、ゆっくり休めよ。」

 朔はまだ納得していない様子だった。相手の口から言葉を聞くまでは私がどれだけ言葉を尽くしても信じられないのだろう。

「うん。おやすみ、朔。」

 真希はダイニングをあとにした。

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