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初めてのチーム(後編)

 二人だけの無言な時間。あんぱんを食べながら考える。何か話しかけたほうがいいのか?

 でも頑張って話しかけて冷たくあしらわれたら辛いし、それに車内でも無言だったから今は話しかけてほしくないかも。

 でもな、この空間気まずいな…早く戻ってきて、朔!

「あの。」

 突然つるぎが声をかけてきた。

「はい!何でしょう!?」

「あなたは朔のことを真剣に考えていますか。」

 ん?

「あなたは本当に朔のことを幸せにできますか。」

 んん?

「ちょっと…話が見えないけど…」

 つるぎはこちらに詰め寄ってくる。

「だから!朔のパートナーとしてガーディアンを本気で務め上げる気があるのかって聞いてるんですよ!」

 いや、一言も言ってなかったよ!?

 でも、そういう話か。

「私は家族や友人のいるこの世界を守りたい。そのために自分が力になれるのであれば全力で任務を果たしたいと思っているよ。」

 その気持ちは朔と出会った日から変わらない。むしろ今日、マナンの恐ろしさを知ってより強くなったかもしれない。

「それは朔の覚悟を知ってのことですか?」

 朔の、覚悟…

「その様子じゃ知らないようですね。…朔は約3年前に起きた警視庁爆破未遂事件の主犯の息子です。」

「そんな…!」

「朔は尊敬する父を犯罪者に変えてしまったマナンを心から憎んでいる。これだけ不安定な精神状態であれば、いつ自分がマナンの標的となって暴走してしまってもおかしくはない。そんな危険を冒してもマナンと対峙する指令官を務めているのは、自らの手でマナンを撲滅し、自分のような思いをする人を生まないためです。」

 まだ小さな子供なのにそんな辛い経験をしていたなんて…私は朔のことを何もわかっていなかった。

「朔のチームに私が加わることが決まった日、朔は私に言いました。『もし自分がマナンに操作されて暴走したら、自分の体を切ってでも止めてくれ』と。…もう一度聞きます。あなたはそんな覚悟を持った朔のパートナーとして、ガーディアンを本気で務め上げる気がありますか。」

 つるぎの気迫に気圧されそうになる。でも、怯むな。

 朔は私に変わるきっかけをくれたんだ。

「朔の覚悟も守ってみせる。私のすべてをかけて。」

「…分かりました。それでは、私はあなたを全力で守ります。」

 そう言ってつるぎは微笑んだ。どうやら認めてもらえたらしい。その笑顔は温室のどの花よりも可憐で美しかった。

 その時、噴水から大きな水しぶきが上がった。

「なに!?」

 そして噴水の中から、以前戦ったものの5倍以上の大きさはあるマナンが現れた。

 前回使った剣は、朔が持っているし…どうしよう!?

「真希は私の背中に隠れてください!」

 つるぎが指示をだす。それではつるぎが危険じゃないか。

「でも…!」

 つるぎはスカートのポケットから何かを取り出した。それは次第に形を変え、全長1メートルほどの斧になった。色は真っ黒。

 それをマナンに向かって構える。

「いいから早く!」

 せかされて真希はつるぎの背中に回った。

「マナンは噴水の水を吸収して巨大化しています。これでは朔が戻ってきて真希が武器を使えるようになっても、コアまで攻撃を与えるのは難しい。だからまずはマナンを温室の出入り口ギリギリまで引き付けて、巨大化を阻止しましょう。」

 巨大な体の中心にあるコアまで攻撃を届かせるには剣のリーチが足りなさそうだ。

 二人でじりじりと出入り口に向かって後退する。マナンも私たちを追って少しずつ移動してきた。

 マナンの体が噴水から完全に離れると巨大化は止まった。

「よかったぁ…」

 あとは朔が戻ってくるまで持ちこたえられれば…

 マナンは一度停止し、草木が生い茂る展示のほうに向かった。

 そして大きな木の陰に生えていた植物を、自身の半透明な部分に取り込み始めた。

「まずいかもしれないです…」

 つるぎが呟いた。

「あの植物はローレルジンチョウゲです。植物全体に毒があり、樹液に触れれば火傷のようなひどい炎症がおきます。もしかするとあのマナンはローレルジンチョウゲを使って私たちを攻撃しようとしているのかもしれません。」

「そんな…」

 その間にもマナンは着々とローレルジンチョウゲを取り込んでいる。

 以前戦ったマナンとは明らかに違う。賢い。マナンは非生物であると聞かされていても、考えて行動しているようにしか思えなかった。

 一通りのローレルジンチョウゲを取り込み終わると、マナンは半透明の部分を触手のように伸ばし、振りかぶるように後ろに引いた。そして、素早く振り下ろすと触手の先端が千切れて私たちの方に飛んできた。

「…!」

 真希は咄嗟に目をつぶった。

『バチャ』

 目を開けると、つるぎの足元に濡れたローレルジンチョウゲの一部が落ちていた。

「真希、私の後ろから離れないでください。」

 つるぎはマナンに向かって斧を構え直した。

「真希がいないとあのマナンは破壊できない。だから必ず私が真希を守ります!」

 マナンは再び振りかぶり、鋭く振り下ろした。毒草入りの水玉がすごい速さで飛んでくる。

「つるぎ!」

 つるぎは飛んできた水玉を斧の面の部分で叩き落とした。

「大丈夫、私強いから。」

 振り返ったつるぎはいたずらっ子のように笑った。

 攻撃をかわされたマナンは触手を何本も伸ばし始めた。そしてそれらを使って一斉に水玉を投げつける。 

「はぁっ!」

 掛け声とともに、つるぎは華麗な斧捌きで大量の水玉を叩き落とした。凄すぎる…

 マナンは投げつける水と毒草を失い、噴水の方に後退していった。

「2人とも!大丈夫か!」

 その時、朔が戻ってきた。

「真希、後は任せました。」

 そう言ってつるぎは真希の肩をぽんと叩いた。

「これを使ってくれ。」

 真希が朔から渡されたのは前回と同じ、どピンクの剣。マナンに向かって構える。

 つるぎがここまで繋いでくれた。次は私の番だ。

「やぁぁーーーー!」

 走ってマナンとの距離を詰める。

 マナンが噴水までたどり着き、一瞬動きが止まった。

 今だ。

「あぁぁーー!」

 大きく踏み出して、一気に距離を詰める。

 そして剣を振りかぶり、コアを目指して振り下ろした。

「きゅああぁ…」

 音とともにマナンは消え去った。

「2人ともよくやった…遅くなってすまなかった。」

「私は大丈夫、つるぎが守ってくれたから。」

「そうか…つるぎ、ありがとうな。」

「いいえ…」

 俯いて答えるつるぎは嬉しそうだった。

「さあ、帰るぞ。」

 私達は温室を後にした。


 サポートスタッフに送ってもらい、私達はDAM本部まで戻ってきた。

『大月班、戻りました。』

 朔がマイクで帰還を報告した。

 すると近くの扉が開き、中から羊の着ぐるみを着た女の子が出てきた。

「ご苦労じゃった。お疲れのところすまんのじゃが報告を頼む。」

 女の子の格好も話し方も気になる…

「ああ。今回、僕は一部しか見れていないんだ。つるぎ、頼めるか。」

「分かりました。」

 つるぎが朔に代わって今回戦ったマナンについて報告した。噴水の中から現れたことや水を含んで膨張したこと、超危険毒草を取り込んで投げつけてきたこと。羊の女の子は難しい顔をしながら話を聞いていた。

「僕のいない間にそんなことがあったのか…危険に晒してしまい本当にすまなかった。」

 朔が申し訳なさそうに頭を下げた。

「…もういいですから。」

 つるぎがそう言った。温室での様子を見るとつるぎは朔の役に立てて嬉しそうに思えたけど、その言い方は誤解されそうだな…

「やはり、マナンは特殊な存在じゃ。初期の頃から弱った心を持つ人間を認識するなど『ただの物』とは言えないような特徴を持っていたのじゃが、ついに攻撃まで仕掛けてくるようになるとは…まるで知性を持っているようじゃわ。」

 知性か。私も戦っていてそんな風に思った。

 羊の女の子がちらと私のほうを見た。

「ほうほう、お主が例の新しいガーディアンか。わしは研究部の和泉杏奈じゃ。これからよろしく頼む。」

 そう言って杏奈は真希に右手を差し出す。

「南條真希です。よろしくお願いします。」

 真希は差し出された右手を握った。

「ところでお主、羊は好きか?」

「え?ああ、好きですけど…」

「そうかそうか!やっぱりそうじゃろう!このモフモフの毛皮、クリクリのおめめ、座らせると途端におとなしくなる無防備さ、どれをとっても愛くるしい!わしはこの格好をすることで羊と一心同体になっているのじゃ!」

 目をキラキラと輝かせながら熱弁するあなたが一番愛くるしいです。

「あー、こうなると長いからな…僕たちは総監督のところへ行くよ。じゃあまたよろしく頼む。」

 朔は杏奈に声をかけ、本部の奥のほうへ歩いて行った。

 真希もついていこうとすると杏奈に腕を掴まれた。そのまま引き寄せられ、杏奈の口元に耳を寄せる形になった。

「わしは優秀な研究者だからある程度の物は何でも作れるんじゃ。…惚れた男が出来たらわしのところへ来い。惚れ薬でもなんでも作ってやるぞ。」

「…!」

「じゃあまた今度じゃ。」

 杏奈はニヤッと笑い、部屋の中に戻っていった。

 

 真希は走って朔とつるぎのところまで追いついた。

 …びっくりした。杏奈さんが変なこと言うから。

「真希、どうかしたか。」

 朔が振り返って尋ねる。

「ううん!なんでもない。」

「そうか。…ここが総監督のいる部屋だ。変な人ではあるが尊敬できる人だ。入るぞ。」

 朔が扉をノックする。

「神谷総監督、大月です。」

「入れ。」

 中から声がした。

「失礼します。」

 校長室のような部屋の中には、美しい大人の女性がいた。軍服に身を包み、腰には刺突用の片手剣である「レイピア」を差している姿はさながら女騎士のようだ。

「DAMの総監督、神谷蘭だ。チームでの初めての任務、ご苦労であった。」

 この人がDAMの創設者か…

 神谷総監督は真希のほうに近づいてくる。

「真希、挨拶が遅くなってしまったな。改めてDAMの一員となってくれたこと、礼をいう。」

「いえ!そんな…」

 近くで見るとより美人なのが分かるなあ。佇まいも凛々しくてまさに組織のトップが似合う。

「ところで真希に一つ聞きたいのだが…」

「はい!何でしょう?」

 神谷総監督は近くの棚から何かを取り出した。

「真希のために戦闘服を用意したんだが、どちらがいいだろうか?私のお勧めはこの魔法少女タイプなのだが、メイド服タイプも捨てがたくてな…」

 見せられたのはパステルピンクのふんわりとしたミニスカワンピースと、黒と白のクラシカルなメイド服だった。

「えーっと…?」

 これはどういう状況?

「真希、言っただろ。総監督は変な人なんだ。」

 朔はため息をついた。

「本部への入り口をあんな店につくったのも、ガーディアンの武器をどピンクにしたのもこの人だ。」

 そうだったの!?

「だって、困ってる男の子の顔似たかったし、ピンクの武器って可愛いだろ。」

 そう言って神谷総監督はフッと笑う。さっきまでの総監督へのイメージが音を立てて崩れ落ちていく。

「はあ…ここで文句を言っても聞き入れてもらえないのでもう言いませんが、真希へのその戦闘服は不要です。そんなもの着ていたら目立ってしょうがないし、ネットにあげられて晒し物になりますよ。」

 そういえばマナンはほとんどの人から見えないんだよな。できるだけ目立たないように気を付けよう…

「ちぇ、朔のケチ。」

「事実です。」

 まるで大人と子供の立場が逆転しているようだ。

「まあ今回はあきらめるとして、せっかく来てもらったから『マナン可視化』の儀式をやってしまおう。朔、こっちへ来て。」

 神谷総監督は朔をこちらに呼び寄せた。そして朔と額を合わせる。

「次は真希だ。」

 神谷総監督は真希とも額を合わせた。

「これで儀式は終了だ。これから真希は朔がいることでマナンが見えるようになる。」

「僕やつるぎはもともとマナンが見えなかったが、総監督に見えるようにしてもらったんだ。ただ、ガーディアンには体質的に負担が大きいから相性のいい指令官が仲介してマナンを見えるようにするんだ。」

 そうだったんだ。じゃあもしかして、もうあのあんぱんはもらえないのかな。ちょっと残念。

「今日はこれで終わりだ。朔とつるぎは先に帰ってくれ。疲れただろう。ゆっくり休め。」

「分かりました。…あと、絵理さんによろしく伝えてくださいと言われました。」

「分かった。今度お店に顔をだす。ありがとう。」

 2人は神谷総監督に礼をして部屋をあとにした。

 神谷総監督は真希に向きなおった。

「さて、真希。さっきのやりとりで分かったかもしれないけれど、私は人に能力を与えることができるんだ。そしてさっきの儀式で真希にマナン可視化とは別に能力を与えた。」

 能力…

「何の能力を与えることができたか私にもわからないが、どうやら能力を受け取る側の願望が反映されるみたいだ。何の能力か分かったら私に報告してほしい。」

「分かりました。」

「それと、チームワークを高めるために近々3人で合宿に行ってもらおうと思っているんだが、そこで一つ頼みがある。」

「何でしょうか?」

「朔とつるぎの関係を取り持ってもらいたいんだ。…二人はもともと幼馴染だったんだが、DAMで再会してからはあんな調子でな。お互いを大切に思っているのに上手く通じ合えていない。全く見ていてもどかしい。お節介なおばさんの頼みだと思って引き受けてくれないか。」

 2人にはそんな関係があったのか…チームメイトになる訳だから私も努力するべきか。

「分かりました。できるだけやってみます。」

「ああ、頼む。」

 とりあえず家に帰ったら作戦を考えてみようと思った。

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