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ふるさと新潟ゆたかな地(後編)

 僕と祐太郎が部屋に戻ると布団が敷いてあった。やたらと近い布団の一組を持って移動させる。

「こんなに広いんだから男2人して近くで寝るわけないだろ…」

「僕は近くてもかまいませんけどね。」

「祐太郎…お前、酔ってるだろ。」

「少し?」

 そう言って赤い顔の祐太郎が笑う。

「明日も早いしもう寝るぞ…」

「いいんですか?真希ちゃんとのこと聞かなくて。」

 すっかり忘れていた。

「そうだ!真希にマナンを見せられること、実証したってどういうことだよ!」

 祐太郎は公園での出来事について説明した。

「だから別にやましいことはないんですけど、朔も知っておいた方がいいと思って。」

 確かに、非難するようなところは一つもない。

「でも!今日の祐太郎はなんか変だ!」

 やたらと真希に絡んでるみたいで。

「…僕のことなんて何も知らないじゃないか。」

 裕太郎の表情は兄のようないつもの穏やかさはなく、陰を感じた。

 何も知らないって、そんなこと言うなら、

「じゃあ、教えてよ。」

 祐太郎が驚いたように僕の顔を見た。

「僕はもっと祐太郎のことを知りたい。確かに今はDAMで顔を合わせるときの姿しか知らない。一緒に戦闘するからってだけじゃなくて祐太郎に興味があるから知りたいんだ。」

 祐太郎ははぁっと息を吐いた。

「…朔が周りから好かれる理由がわかった気がしますよ。」

「じゃあ、一つ聞いていいか。祐太郎は何でDAMに入ったんだ?」

「…高校生の時、友人との下校中に初めてマナンに遭遇しました。指を差して友人に声を掛けましたが、疲れているのかと笑われてしまいました。その時、『ああ、これは僕にしか見えないんだ』と思いました。それからは一度も見えているもののことを口にしませんでした。…一度、マナンに融合された人が豹変するのを見たことがあります。僕にしか見えていないあの何かが関係しているのだと思いながらも、僕は見ていることしかできませんでした。神谷総監督からお誘いを受けて、初めて視界に映っていたあれがマナンと呼ばれ、僕の他にも見える人がいることを知りました。それと同時に『他にも見える人がいたなら、あの時何もできなかった自分だけが悪いわけじゃない』と安心しました。そんな自分を軽蔑しました。僕がここにいるのは罪滅ぼしのためです。あの時マナンに操られた人をただ傍観していたこと、他の人にも見えると知って安心したこと、マナンを倒せばその罪悪感が消えるなんて、そんなことないのに、何故かやめられないんです。…こんな理由なんて、引いちゃいますよね。」

 祐太郎は乾いたように笑った。

「こんな事話すなんて、やっぱり酔ってるみたいです。今の話は忘れてください。マナンをこの世界から無くしたいっていうのは本当なので任務に支障はありません。…おやすみなさい。」

 そう言って祐太郎は布団をかぶった。

「引いたりなんかしない。むしろマナンのせいで今まで嫌な思いをしてきているのに、見ないふりをしないでちゃんと向き合っていてすごいと思う。僕にとって祐太郎は大切な仲間であり、友人だと思っている。話してくれてありがとう。おやすみ。」

 僕やつるぎみたいに自分の身近な人がマナンの被害に遭ったならともかく、他の多くの人のために戦い続けられる祐太郎達は本当にすごいと思う。

 朔は布団をかぶった。


 翌朝、私達は身支度を整えて新潟支部に向かった。寧々ちゃんと柚葉ちゃんは昨夜の一件を覚えていないらしい。柚葉ちゃん曰く、

「みんなで杏奈さんからもらったビールみたいなジュースを飲んで、気が付いたら布団で寝ていましたー!」

 と笑っていた。

 新潟支部には既に支部長の佐々木の姿があった。杏奈がみんなを集める。

「今日はマナンが初めて発見された場所に向かう。せっかく新潟に来たからには見ておきたいと思ってな。何か手がかりがあるかもしれんし。佐々木、案内を頼む。」

「任せてください。ここから歩いて40分くらいのところにあります。」

 佐々木に続いてその場所へ出発した。


「着きました。ここです。」

 佐々木が示した場所は芝生の茂る広い土地だった。木陰にはベンチ、奥の方には小屋が見える。

「あれ、私が2年ほど前に来た時にはあんな小屋なかったのに。」

 佐々木が不思議そうに呟いた。その様子を見て朔はつるぎに声を掛けた。

「つるぎ、ちょっと武器をだしてみろ。」

 つるぎは斧を出した。

「真希も来い。」

 朔が私に手招きする。近寄るといつものように頭を引き寄せられ、額を合わせた。

 昨日の夜、つるぎが変なこと言うからちょっと緊張しちゃうじゃん!

「何もないといいが…」

 朔が呟いた。

 その時、小屋から男性が出てきた。

「私、ちょっと話を聞いてきますね。」

 佐々木が男性の方に向かっていった。

「おはようございます。私は近くのアルパカ牧場で飼育員をやっている佐々木と申します。今、アルパカを放牧できそうな草地を探していまして、この土地を使いたいなと思って見ていたのですけれど、こちら私有地でしたか?」

「いえ…僕の土地ではないんですけど、所有者の方にお願いしてここを使わせてもらっているんです。僕は画家でして。ここの風景が素晴らしかったのでアトリエとしてその小屋で作品をつくっているんです。…ですので、出来れば放牧は別の場所でお願いできると…」

「そうだったんですね!それは失礼しました。あと、ちなみになんですけど、この場所で3年前に起きた事件ってご存じですか?」

「すいません、僕は2年ほど前に越してきたもので。何があったんですか。」

「そうですか。いえ、大したことではないんです。アルパカの大群がここで大暴れしましてね。今は私がきっちりと管理しているので問題ないですよ。お時間いただきありがとうございました。」

 そう言って佐々木はにっこり笑った。

 あんなにすらすらと嘘の話をつくれるなんて。確かに一般の人にマナンのことは話せないことになっているけど、それにしても大した度胸だ…さすが一人で新潟支部を守ってきただけある。

「僕は小屋の方に手がかりがないか探してくる。真希達も手分けして探してくれ。」

 そう言って朔は小屋に向かって走っていった。

 男性が小屋に戻ろうとしたとき、小屋の奥にある木の陰からマナンが現れた。マナンは男性の方に向かっていく。

「危ない!」

 朔は男性に融合しようとするマナンを蹴り上げた。マナンは弧を描いてこちらに飛んでくる。

「真希!」

「了解!」

 真希は取り出した剣でマナンを一刀両断した。

「パパァ…」

 マナンが消滅する時に発する音が今日は言葉に聞こえる。『パパ』って言った?いや、気のせいか。

「拠点へ戻るのじゃ。行くぞ。」

 杏奈がみんなに声を掛けた。朔はこの場所を調べたそうだったが、渋々みんなの後に続く。

「あ、あの!」

 男性が声を掛ける。私達は振り向き、近くにいた朔が返事をした。

「何でしょうか。」

「さっきはありがとうございました。『危ない』って、僕のこと守ってくれたんでしょう。恩人のあなたのお名前を聞かせてもらえませんか。」

「大月、朔です。」

「朔君か、きっと忘れない。ありがとう。」

 男性は朔に微笑んだ。

「いえ…」

 朔は照れたようにうつむいた。私達の任務では守った人からお礼を言われることが少ないからな。私も嬉しくなった。


 私達は新潟支部に戻ってきた。

「何で早々に戻るなんて言ったんだよ。」

 朔がすねたように杏奈を見る。

「仕方ないじゃろ。土地の所有者がいるのにあれこれと探し回れば不法侵入になってしまう。」

「それは…」

 朔は仕方なく引き下がった。

「それにしても、あの土地が私有地になっていたなんて驚きです。当時は人が狂ったと言って誰も寄り付かなかったのに、もう風化してしまったんですね…」

 佐々木は悲しそうにうつむいた。

「土地にとってはその方がよかろう。いつまでも妙な話がついていたら誰も来なくなる。だが、もう2年以上マナンが現れていなかったのに武器の力でこうも集まるとは…」

 そう言って杏奈は佐々木の肩を掴んだ。

「しっかりするんじゃ、佐々木!今回、この土地に潜む危険性が再発見された。もしかしたらまた事件が起きてしまうかもしれない。我々は本部に戻るが、今回の情報をもとに調査を続ける。お主はここで自分に出来ることを全うするのじゃ!」

「あ…そうですよね。この土地に暮らす人を守れるように頑張ります!」

「うむ!」

 私達は佐々木さんにお礼を言って新潟支部をあとにした。


 帰りは運転したいと言い張る杏奈をなだめて、祐太郎が運転席を死守した。

 にぎやかだったのは最初の10分だけで、車内はしんと静まった。

「みんな寝ちゃいましたね。」

 祐太郎がルームミラー越しに後ろの席を確認した。

「ああ、色々疲れたんだろう。」

 助手席の朔が応えた。

「祐太郎は今回の新潟の件、どう思う。」

「そうですね…新潟にマナンはいて、誰かが意図的に隠している、とかでしょうか。」

「同感だ。新潟はマナンのことをよく知る何者かがいる…それは犯人かもしれない。」

「ええ。それは杏奈さんも考えているでしょうから、研究部のほうで調査してくれるでしょう。僕達は目の前のマナンを倒すだけです。…それよりも、朔に一つ忠告があります。」

 朔がごくりと唾をのむ。

「…なんだ。」

「あまり余裕を持っていると誰かに攫われていってしまいますよ。」

「何のことだ。」

 朔はむくれた声で言った。

「分かっているくせに。真希ちゃんのことですよ。今は身だしなみに頓着がないようですが、興味を持てばすぐに変身します。そうなれば周りの男は放っておかないでしょう。…ですからこれは友人からの忠告です。」

 朔はふっと笑った。

「…それは大人しく聞きいれたほうがいいな。」

 朔は後ろの席を振り返った。真希は涎を垂らして爆睡している。

 こんな姿も可愛いと思ってしまうなんて、どうかしているのかな。

 祐太郎の運転は心地よく、しばらくすると僕も眠ってしまった。

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