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ふるさと新潟ゆたかな地(中編)

 朔、つるぎ、柚葉の目的地は新潟支部近くの山の中腹だった。まずは登山道の入り口に向かう。

 祐太郎のやつ、僕に見せつけるみたいに真希とくっついて…どういうつもりなんだ。

「朔?聞いていますか?」

 祐太郎と真希のことが頭をぐるぐるして、つるぎが話しかけているのに気が付かなかった。

「ごめん、もう一度頼む。」

「目的地はここからなら片道二時間くらいです。」

 そう言って手に持った地図を見せる。

「そうか。前に杏奈は過酷な場所って言っていたのに、大したことなかったな。」 

「そうですね、拍子抜けです。」

「行って帰ってきたら4時間ですよ!?十分過酷ですって!」

 柚葉があわあわとした様子で言う。

「まあ、柚葉のペースに合わせてやるから安心しろ。」

 山の中には他の登山客の姿は見えなかった。

「つるぎ、他に人もいないみたいだし、念のため武器はすぐ使えるように持っていてくれ。」

 つるぎが武器を開く。

 しばらく山を登ると視界を覆う木々が晴れて村を見下ろせるポイントがあった。黄金色に輝く美しい棚田が広がっている。

「綺麗だな。」

「はい…とっても美味しそうです。」

 柚葉が答えた。

「稲穂の状態を見て美味しそうって思うやつがいるか!」

 …もしかして水族館の魚を見ても美味しそうとか言うのか?

 その時、複数のマナンの存在を感じた。

「マナンが近くにいるぞ!複数だ!」

 つるぎが斧を構える。四方からマナンが現れた。

「柚葉はこっち!」

 急いで柚葉の頭を引き寄せて額を合わせる。できればしないつもりだったが仕方ない。

「ほや!こんなにたくさん…」

 柚葉は驚いたのか固まっている。柚葉の手を取って弓矢を持たせる。

「柚葉、とりあえず武器を構えろ!」

「あ、ああ…」

 柚葉はもたもたとして矢を地面に落としてしまった。つるぎは複数のマナンを相手にしているが、とどめが刺せない分、終わりが見えない。

 柚葉の背後から1体のマナンが襲い掛かってくる。つるぎは間に合いそうにない。…仕方ない、非常事態だ。

 朔はマナンを蹴り上げた。そして柚葉のほうを振り向く。

「お前は目の前のマナンにだけ集中してろ!後は俺たちが場を整える!」

「わ、分かりました!」

 ふうっと息をつくと、柚葉は美しい所作で弓矢を構える。どうやら集中のスイッチが入ったみたいだ。

 柚葉の様子を見て、つるぎはマナンを柚葉の視界中央に誘導した。朔は柚葉に向かってくるマナンを蹴り飛ばす。

 柚葉は次々と矢を放ち、全てのコアを射止めた。

「何とかなりましたね。」

 つるぎは息をついた。

「私、ちゃんとできましたよ!見てましたか!」

「ちゃんと、じゃないだろ!マナンが一度に出てきただけであんなに慌てて…お前は東京に戻ったら特訓だ!」

「そんなぁ…」

 うなだれる柚葉。集中できた時の命中率は大したものだが、メンタルが弱すぎる。こんなヘタレとガキの手綱引くなんて、祐太郎も苦労してんだな。

 あとは、つるぎはいいとして、

「柚葉。指令官はマナンとの戦闘に参加しちゃいけないことになってるんだ。全員が戦闘に参加すると冷静に戦況を見れる人がいなくなるからな。だから、今回のことは秘密、な。」

「えー、さっくん、規則破りですか?悪い子なんだぁ。」

 柚葉が怒られた仕返しか、ぷぷぷとからかってくる。

「よほど厳しくされたいみたいだな。よし、さっきの戦闘で時間を使ったから走って登るぞ!」

「む、むりぃ…」

 …それにしても、なんであんなにマナンがいるんだ。武器を出しておびき寄せたとはいえ、ここではもう二年以上発見させていないはずだ。

 疑問を持ちながらも目的地を目指した。


 真希達が新潟支部へ戻ると、すでに朔達の姿があった。

「遅かったな。」

 私達の姿を見て朔が声を掛ける。

「ちょっとアクシデントがあってね…」

「アクシデント?一体どうしたんだ?」

 真希と祐太郎は顔を見合わせた。そして祐太郎が口を開く。

「寧々ちゃんに武器を渡していたんですけど、途中で落としてしまって。それを探しに戻ってたので遅くなってしまったんです。本当は僕が管理しないといけなかったのに、すいません。」

 その言葉を聞いて、朔は寧々をじろっと睨んだ。

「おい、寧々。どうせお前が武器渡せって駄々こねたんだろ。違うか?」

「そ、それは…でもちゃんと見つかったんだからいいだろ!」

 寧々が反論する。

「そういうことじゃないんだよ!ガーディアンと執行官が使う武器は、武器の形に変形させることでマナンをおびき寄せる効果を持つんだ!何も知らない一般人が武器を開いたらどうする!マナンの標的になってしまうかもしれないんだぞ!」

 朔が恐い顔でまくし立てた。

「ご、ごめんなさっ、あの子も、ごめんなさい…」

 寧々が今にも泣きだしそうになっている。

「あの子って何のことだ?」

「寧々がびっくりさせたから、女の子が持ってた武器落としちゃって、ひっく、武器が変形して、マナンが来ちゃった…寧々のせいで危ない思いさせちゃったの、ひっく、ごめんなさい…」

 寧々はぽろぽろと涙をこぼした。

「反省してるみたいだし、このくらいにしておいたら?」

 朔に声を掛ける。

「ああ。寧々、これに懲りたら武器は祐太郎に持っててもらうんだぞ。分かったな。」

「うん。分かったぁ。」

 柚葉が寧々の側に来て背中をさすってあげた。朔が真希のほうを見る。

「マナンが現れたって本当なのか。」

「うん。それまでは全然気が付かなかったんだけど、武器が開いた後に1体ね。」

「そうか…僕らのほうにも出てきたんだ。しかも複数。2年以上出ていないって言っていたのに、おかしいと思わないか?」

「確かに…」

 その時、奥の部屋から杏奈と里穂が出てきた。

「おお、みんな戻ってきておったか。水は採れたかの?」

 朔と祐太郎が水の入った容器を杏奈に手渡す。

「僕ら2グループとも、マナンに遭遇したんだ。」

 そう言って朔はいきさつを説明した。

「なるほど…わしも念のため新潟支部のマナン検知器を調べたが、特に異常はなかった。検知までに少し時間を要するから、お主らの迅速な対処のおかげで今回は反応しなかったみたいじゃな。」

 それまで黙っていた里穂が口を開いた。

「…マナンが現れたなんて、信じられないです。検知器はもうずっと反応していないですし、新潟で起こった事件は一通り、マナンが取り付いていないか確認してきました。それなのに、まだ近くにマナンがいたなんて…!」

「マナンは存在していたが、検知されないし、人を襲って事件を起こしてもいない、か…この地は調べがいがありそうじゃな。」

 杏奈が壁にかかっている時計を確認した。

「16時か…いい時間じゃな。今日の任務はこれで終わりじゃ。宿を取ってあるから先に行って休んでくれ。」

 そう言って杏奈は朔に宿の場所を示した地図を渡した。

「わしはもう少しここで調べてから向かう。」

 杏奈さんを残し、私達6人は宿に向かった。


「はぁーー…」

 大浴場の湯船に浸かると今日一日の疲れが溶けていくみたいだ。

 大浴場には私とつるぎ、柚葉ちゃん、寧々ちゃんの4人だけで、貸し切り状態だった。

「温泉、最っ高…」

「気持ちいいですね。」

 隣のつるぎが微笑む。

「あー、夕飯なにかなー?」

 寧々ちゃんも元気になったみたいでよかった。ふと目をやると暗い表情の柚葉が気になった。

「柚葉ちゃん、どうかした?」

 声を掛けると柚葉ちゃんはこちらに目を向けた。

「真希ちゃん…ガーディアンの素質って何だと思いますか?」

 素質か…そういえば今まで聞いたことなかったな。

 私の様子を見かねたのかつるぎが話に入ってきた。

「私も詳しくは知りませんが、肉体面と精神面があるとか。肉体面は体質的なことで、精神面はマナンを冷静に観れるかとか、他にもいろいろあるみたいです。それがどうかしましたか?」

 柚葉は目を伏せた。

「私、やっぱり素質なんてないです。高校では弓道部に入っているんですけど、同時期に弓道を始めた同級生達は段々上達していくのに、私はずっと下手くそなままで。初めは周りも『これから出来るようになるよ』って言ってくれていましたが、今では誰も声を掛けてきません。まるで腫れ物扱いです。朝も昼も夜もどれだけ練習しても、本番になると体がこわばって上手く動かない。自分をコントロールできないことがすごく嫌でした。マナンと初めて戦った日、私はプレッシャーのかかる本番で目標を射抜くことに初めて成功した。すっごく嬉しかった。…でもそれは神谷総監督が私に能力をくれたからで、私の力じゃない。今日だって2人に助けてもらうばっかりで…今はまだマナンを射抜くことができていますが、矢が中らなくなったらと思うと怖いです。みんなから失望されるのが恐い…」

 柚葉はぎゅっと身を縮めた。

 私もずっと剣道をやっていたからその気持ちは分かる。練習してきたことが本番で発揮できなくて悔しい。仲間に期待してもらえなくて悲しい。弓道部ではそうだったかもしれない。でも今は私達が味方になれるって伝えたい。

「柚葉ちゃんは頑張り屋っていう特別な才能を持っているんだね。それに神谷総監督がくれたのは『的を射抜くことができる能力』じゃないよ。マナンを射抜くことが出来ているのは柚葉ちゃん自身の力なんだから。今は能力のサポートが付いているかもしれないけど、いつか必ずサポートがなくても自分をコントロールできるようになる時がくる。百発百中で当たらなくたっていい。だって、そのために私達がいるんだから。」

 真希はそう言って柚葉に微笑みかけた。

「そうだぞー柚葉。なんたってこの最強と呼ばれたこの寧々様がいるんだからな。お前がどれだけ外したって、あたるまで時間稼いでやるよ。」

 話を聞いていたのか寧々が声を掛ける。

「あれ?ついさっきまで朔に泣かされていたのは誰でしたっけ?」

「つるぎ!お前、さっきのことは言うなぁ!」

「…ふふ。」

 寧々とつるぎのやり取りをみて柚葉が笑った。

「みんな、ありがとうございます。私、これからモリモリ頑張るので、よろしくお願いします!」

 柚葉の顔に元気が戻った。


 お風呂を上がって夕ご飯の会場に行くと、朔と祐太郎、そして杏奈もそろっていた。テーブルには地元食材を生かした会席料理が並ぶ。

「こうやってみんなで食べると、大家族になったみたいですね。…あっ!これ美味しいです!」

 左隣に座るつるぎはお肉を頬張りながら楽しそうにしている。

 正面に目を向けると、杏奈が日本酒を頼んでいた。

「やっぱり新潟といったら日本酒じゃな!」

「ずるい!あたしも飲みたいー!」

「寧々はまだお子様だから駄目じゃのぉ。祐太郎、お主も飲むか?」

「いただきます。」

「杏奈のケチ!」

 右に目を向ける。

「いいか、柚葉。お前はいちいちビビりすぎなんだよ。日ごろからもっと自信をもって堂々としていろ。大体お前は…」

「まあまあ、さっくん。話はそのくらいにして。美味しいお料理が冷めちゃいますよ。早く食べないとさっくんが大事そうにとっておいている茶碗蒸し、私がもらっちゃいますよー。」

 そう言って柚葉は朔の茶碗蒸しに手を伸ばす。

「ちょ、おい!お前の話なんだからちゃんと聞けー!」

 朔が柚葉ちゃんに翻弄されている。いつの間にそんな仲良くなったんだ。

 さて、私もしっかり食べて明日に備えないと。

 真希は焼き魚の付け合わせだったピーマンの素揚げに箸を伸ばした。そのまま一口で入れる。

「真希、それ…」

「ん?」

 つるぎが不安そうにこちらを見ている。噛み締めると想像とは違う味が口に広がった。

「って、辛っ!」

「それ、神楽南蛮っていう唐辛子ですよ。ここの特産なんです。辛いかと思って躊躇していたんですけど、真希が一口で食べるから…。」

「早く言ってよぉ!」

 つるぎは自分の神楽南蛮の素揚げをかじった。

「うん。ちょっとピリッとしますけど程よい辛さで美味しいです。もしかして真希、お子様舌ですか?」

 つるぎがからかうような目で見てくる。その時、向かいの寧々ちゃんがキッとこちらを睨んだ。

「誰がお子様だぁっ!」

 …よほどお子様扱いが堪えてたんだな。その後つるぎが寧々ちゃんをなだめに行った。


「真希ちゃん、楽しんでますか?」

 食事を大体終えたところで祐太郎さんが話しかけに来た。酔っているのか、顔が赤い。

「ああ、はい。楽しんでますよ。」

「そうですか。それはよかったです。僕、真希ちゃんに朔の話を聞きたくて来たんです。」

「朔の、ですか?」

「はい。今日これから同室なので、いつも一緒にいる真希ちゃんに話を聞こうと思って。」

 うーん、それならつるぎの方が適任だと思うんだけど…まあいいか。

「朔の話ねぇ…朔って大人っぽく振る舞ってるけど、たまに照れちゃって可愛いんですよ。例えば、初めて私をDAM本部に連れて行ったとき、下着屋に入るのに顔真っ赤にしてて…いつもは早朝とか深夜に出入りしているみたいなんですけど、その日は私がいたので仕方なく一緒に入ってくれたんです。可愛くないですか?」

 祐太郎さんは考えるような顔をして反応がない。…もしかして引かれた!?

「あの、すいません!そういう話が聞きたいわけじゃないですよね!えーっと、他の話は…」

「ああ!いえ、とても興味を惹かれる話だったので。…そんな方法があったのか。」

「はい?」

「本部への入り方ですよ。僕は女装して入っているので。」

「ええ!?」

「女性なら簡単に入れるかと思って、姉の服を借りているんです。姉の方も面白がっているのか協力的で。結構うまくできるんですよ。それで、隠し扉の中に入ってから暗がりでこっそり着替えています。」

 突然のカミングアウト。これ、聞いてよかったのか…?

「写真見ますか?」

「み、見ます見ます!」

 見せてもらった写真はどっからどうみても可愛い黒髪ギャルだった。

「他の人には秘密にしてくださいね。」

 祐太郎は口元に人差し指を立てた。


 部屋に戻ると布団が4組敷いてあった。

「あたし、窓側がいい!」

 寧々は一番窓側の布団に飛び込んだ。その様子を見てつるぎがお説教モードに入る。

「ちょっと寧々!お行儀悪いですよ。」

「まあまあ、つるぎ。旅先くらいは羽目を外してもよいではないか。わしも小さい頃は布団に飛び込んだり、でんぐり返しをしたり、よくしたものじゃ。羽目を外すと言えばこんなものを用意したんじゃが、いるかの?」

 そう言って杏奈が取り出したのはビール瓶だった。

「ちょっと、杏奈さん!さすがにお酒はだめですって!」

「ふふん。予想通りの反応で嬉しいぞ、真希。ほれ、ラベルをよく見るんじゃ。」

 真希はラベルに目を凝らした。

「『こどものビール』…?」

「そうじゃ!見た目はビールそっくりじゃが、中身はフルーツ味の炭酸ジュースだから安心安全!これで酒を飲んだ気分だけでも味わえるだろう。わしはまた支部に戻るから、あとは若いもので楽しむんじゃな。」

 そう言って杏奈は出て行った。

「せっかく貰ったからみんなで飲む?」

「おう!飲もうぜ!」

「どんな味か興味あります。」

「とか言って柚葉、本当に酔っぱらったりしてな!」

「お酒じゃないんですから、大丈夫に決まってます!」

 寧々ちゃんと柚葉ちゃんは乗り気みたいだ。

 真希はつるぎが探してくれたコップにビール風ジュースを注いだ。ビール風というだけあって黄色い液体にシュワシュワと白い泡が立っている。見た目は本当に本物みたいだ。

 お正月とか家族が集まった時にやってた乾杯の音頭ってどうだったかな。

「こほん!それでは皆さん、グラスを持って、かんぱーい!」

「「「かんぱーい!」」」

 私達は飲み会を始めた。


 飲み始めてから一時間くらい経っただろうか。杏奈さんが用意してくれた2本の瓶は空になった。

「だーかーらー、ほんとにあたしは最強って呼ばれてたんだってぇー」

「たしかにー寧々ちゃんの能力の高さは知ってますけどぉー。こんな、ちいーさくて、かわーいい子にそんな異名つきますぅ?最高の間違いじゃないですかぁ?」

 …寧々ちゃんと柚葉ちゃんが完全に出来上がっている。

「つるぎ、本当にお酒じゃないんだよね。」

「はい。成分表示もよく確認しましたがアルコールは入っていません。」

「それでこれかぁ…」

 2人は雰囲気で酔えるタイプらしい。

「真希!」

「真希ちゃん!」

 言い争っていた2人が真希のほうを振り向く。

「「どっちが正しい(ですか)!?」」

「えぇ…」

 もうこの偽酔っ払い達は寝かせたほうがいいか。

「はいはい、もう明日もあるし歯磨きして寝ましょうね。」

 2人の背中を押して洗面所に連れて行こうとする。すると2人は真希の腰に抱きついてきた。

 これって…私の能力が発動しちゃうんじゃ…?

「真希ぃ…『あたしほんとに最強って呼ばれてる時があったんだ…昔、10人くらいの仲間連れてケンカばっかりしてた。そこら辺の小学生の中じゃ負けなしだった…でも中学生になった時に転校生とケンカになって…そいつがすっげー強くてさ、ボコボコにされたんだけど、仲間は相手が強いって知ったら途端に逃げ出して。次の日あざだらけで登校したあたしを見ても知らんぷりしてたよ。まあ、あたしが強かったからつるんでただけで、あいつらはあたしのこと仲間なんて思ってなかったかもしれないけど。それからはもうケンカはやめたんだ。1人でただ強くなるために鍛えていた。』」

 寧々はつるぎのほうを見た。

「『だから仲のよさそうなお前ら見てたらムカついてきて…。つるぎ、あの時はごめん。ひどいことばっかり言って。真希も、みんなにも、ごめん。だって羨ましかったから!私が欲しかったものを持っているみんなが!私も仲間に入れてほしい…!』」

 つるぎは寧々の頭を撫でた。

「寧々はもう私達の仲間ですよ。だってあの日、私を助けてくれたじゃないですか。だからもうずっと、寧々は私達の仲間です。」

「つるぎぃ…」

 寧々はまた泣いてしまった。

「もう…『寧々ちゃんは泣き虫ですね…私は寧々ちゃんが仲間想いのいい子ってこと知っていましたよ。私は寧々ちゃんも真希ちゃんもつるぎちゃんも、さっくんも祐太郎さんも杏奈さんも神谷総監督も、みーんな大好きです…私はまだ頼りないですけど、みんなのことを守れるようになりたいですぅ…』」

 2人を引きはがして何とか歯を磨かせ、布団に寝かせた。2人はすぐに寝息を立て始めた。

「寝ちゃったね…」

「ええ…2人がそんな風に思っていたなんて。寧々の過去も驚きました。」

「能力で聞いちゃったのが悪い気もするけど…」

「いつか本人の意思で聞けたらいいなって思っておきましょう。」

 つるぎが私の目を見つめた。

「あの、真希はどうしてガーディアンを引き受けたんですか。朔が強引だったっていうのはあるかもしれないですけど、やめようと思えばやめるタイミングはいくらでもあったんじゃないですか。」

 前に朔にも似たようなことを聞かれたな。

「一言で言えば自分のため、かな。朔に声をかけられた頃は、ずっと続けてた剣道もやめちゃって毎日無気力に過ごしていたんだ。朔から話を聞いたときは、そりゃ最初は信じられないって思ったよ?でもこれが現実だって分かって怖くなった。無我夢中でマナンを倒して、その後に朔が言ったんだ。『僕らと一緒にこの世界を守ってくれないか』って。朔は剣を捨ててくすぶっていた私を掬い上げてくれたんだ。世界を守りたい。家族や友人を守りたい。それはもちろんそうなんだけど、私の心を救ってくれた朔を守りたい。そのために私の剣が役立つならこんなに嬉しいことはないよ。…こんなこと言ったらよくないかもしれないけど、今すごく幸せなの。大切な仲間がいて、大好きな剣をまた振れている。世界からマナンがいなくなった後もこの時間のことをずっと忘れない。」

「そうだったんですね…私も皆さんと一緒に過ごす時間が大好きです。マナンを撲滅した後もずっと一緒にいられればいいのにって思います。どうなるかは、その時にしか分からないことですけど。」

 つるぎは私を見て微笑んだ。

「真希は朔のことが大好きなんですね。」

「え!?そ、そりゃあ好きなのは好きだけど、そういう好きじゃないよ?第一、朔とつるぎは相思相愛なんだから…」

 ふふっとつるぎが笑う。

「そんな風に思っていたんですか?私達の関係は大切な幼なじみ。それ以上でもそれ以下でもないですよ。真希がこんなに鈍かったなんて…」

 つるぎがわざとらしくため息をつく。

「つるぎに鈍いなんて言われたくないなぁ!」

 あんなに朔の気持ちに気づいてなかったのに。

「それにね…」

 つるぎが私の耳元に口を寄せる。

「真希になら朔のこと任せたいって思うんですよ。」

 思わず顔が赤くなる。

「まあ、そうなったら私という名の小姑がついてくるんですけどね。2人でせいぜい幸せになってください。」

 つるぎはいたずらっぽく笑った。

 私達はその後布団に入った。

「おやすみなさい、真希。」

「おやすみ、つるぎ。」

 しばらくするとつるぎの寝息が聞こえたが、私はつるぎの言葉が頭を回ってなかなか眠れなかった。

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