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未完成
君が遅れて席に着いた
マフラーから舞い上がる埃が
海中の泡みたいにきらめいていた
昔 書こうとしてそれきりになった物語に
出てきた何気ない風景
いつかこんな日がくるよって
先に見てきて教えていたの
メニューを選ぶふりしながらおどけてみた
ひとりでかわいいと言われたからふたりでかわいいと言った
君と会えなくなってからも
ニット帽を脇に置く横顔
同じ席で肘をついて眺めている
昔 書こうとしてそれきりになった物語に
出そうとしてやめた風景
悲しみを残さないでって
先に見てきて教えていたの
何でもない日が特別な日になったり
もう会えない人がずっとそばにいる人になったりするね




