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湖の記憶
汽車の窓辺にひとり
ダージリンの香りの中
白い煙が空へと
のぼってゆくのを見ていた
ブラウンの牛の群れ
草原を歩いている
その向こうでサファイアの
海がしだいに開けていく
うろ覚えのオアシスへ
風とともにつれていって
降りる駅を知らない
あなたが隣にいないから
スーツケースをひいて
老人が入ってくる
緑の風が吹き込む
窓を下ろし腰かけた
一度も目を合わさず
同じ雑誌を開いている
薄れゆく鳥の名を
尋ねる人はもういない
私たち変わっても
あの湖は変わらない
うろ覚えのオアシスへ
あの日の風よ つれていって
降りる駅を知らない
あなたをずっと見ていたから




