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顔のない少年
橙色に沈む街
今日はいつもより深く沈んで
遠くが白くかすんでいる
そんな日はきっと君に会う
いつものところですれ違う
バイク屋の前の信号
やっぱり君が歩いてきた
僕を見るなり笑顔になった
何を話したかは覚えていない
ただまた会いたいと思った
誰だかわからない
わかっているのは
僕より背が高くて
ランドセルが窮屈そうで
いつも向こうから歩いてくること
とても不思議に思えたのに
なぜか誰にも話さなかった
秘密にしていたかった
君に会えなくなったことに
気づいたのはずっと後
すっかり君のことを忘れて
友達と笑い合っているとき
ふと思い出した
橙色が深くなる日を
遠くがかすむ日を
君は今どうしているだろう
宝物をひとつなくしたようで
家に帰るとライトもつけず
しばらく横になっていた
いつしか会えなくなったこと
本当は少し嬉しかった




