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水の花
誰もわけを聞かないで
私はひとり濡れ鼠
あなたの傘が消えてゆく
どこまでも濡れ色の街へ
あなたはさよならと言った
私はまたねと言った
去っていった光より
まぶしいものは他にない
出会った港のあたり
低く飛んでく濡れ燕
あなたの心は今頃
澄みきった晩秋の空へ
あなたは振り向かなかった
私はすぐ振り向いた
すれ違った瞬間に
今すぐ戻っていきたい
港には恋人たち
抱き合って愛をささやく
深青が雨に打たれて
咲いては枯れ散る水の花
あなたは元気でと言った
私はただ頷いた
去っていった光より
まぶしいものは他にない




