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空耳がきこえた
静かな黄昏時
どこからか君の声がした
遠いようで すぐそばのようで
辺りを見まわしたけれど
私ひとりだけだった
ろうそくの火がゆらゆら揺れる
風もないのに
言いそびれたこと
何かあったはずなのに
ただありがとうと
小さくつぶやいた
静かな雨が降る日
ゆっくりと君は目を閉じた
白い頬を涙が流れた
最後の言葉は少しも
美しくはなかった
ろうそくの火が突然消えた
風もないのに
あの夜もこんな
不思議なことが起こった
けれど誰ひとり
恐れはしなかった
ただありがとうと
もう一度つぶやいた




