第23話 エレノアの思惑
エレノアは鼻歌混じりに寝室に入ると、鏡台の椅子に座り鏡を覗き込んだ。
機嫌の良い自分の顔を見つめてにこりと笑う。
(わたくしったらなぜ今まで、こんな簡単なことを考えつかなかったのかしら)
皇貴妃にばかり気を取られて、自分らしい戦いができていなかった。自分はもっとずっと利口に振る舞えたはずなのだ。それが異国に来て自分らしさを忘れていた。
「まずは足固めよ」
異国でただ一人だと思っていたが、それならば味方を作ればいいのだ。それを皇帝に求めていたが、それよりももっと手近で済ませてもいいはずだ。
祖国では誰もが自分の味方だった。反抗する者が現れても、自分の信奉者たちがあっさり排除してくれた。あらゆる手段を使って味方を増やしていた。増えれば増えるほど自分の立場は確固たるものになり、安定した。
それをここでもやればいいのだ。
(あの秀とかいう男の父親は将軍だと言っていた。ならば相当地位は高い。その息子とルカを婚姻させれば、わたくしの強い後ろ盾になるはずよ)
華露皇貴妃の後ろ盾が誰なのかなど知る由もないが、それに匹敵するくらいの力はあるはずだ。
その力を持ってから戦っても遅くはない。
「これでルカも陛下から遠ざけられるし、一石二鳥じゃない」
後ろ盾とルカの始末、この二つの件を一気に片付けられるとあって、エレノアは今までずっともやもやとしていた気持ちが晴れていくのを感じた。
今までルカを邪魔とは思いつつ、同郷の者だし通訳の仕事もあってそばにいさせなくてはいけないと思い込んでいたが、晶国の言葉を話せるようになってしまえば、その役割は半分以上ないような気さえする。
皇帝のお気に入りになって皇后にまで上り詰めることができれば、周囲にお気に入りの者をはべらせるなど簡単なことだ。なぜ今までルカに固執していたのか、馬鹿馬鹿しく思える。
「それにしても、ルカは本当に陛下のことを好きなのかしら……」
図々しい子だとずっと思っていたけれど、まさかこれほど大それた無謀な夢を抱いているなんて思わなかった。
(ギルバートの時と同じね。あの子はわたくしの物を奪いたい、そういう子なんだわ……)
なんて浅ましい子を連れて来てしまったんだと頭が痛くなる。けれどその身をもって自分の利益にさせることができるなら、結果的に自分の選択は間違っていなかったと思えるはずだ。
この婚姻をなんとか纏めて、すべてが上手くいけば、自分の思い描く道ができる。そうエレノアは信じて、強い意思を持つ美しい自分の目を見つめた。




