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第14話 嵐と一緒に

 ルカは恐る恐る黒雷尾(こくらいび)のいる小屋に入ると、そろそろと近付いてみる。

 ここにいる黒雷尾はみんな身体が大きい。後ろ足で立ち上がればルカの背丈ほどはあるだろう大きさだ。灰色の体毛はよく手入れされているのか、とても美しい艶がある。みんな同じようにも見えたが、それぞれ角の形が違うことに気付いた。


「みんな名前があるのかしら……」


 せっかく世話をするのなら、名前を覚えたいと思いながら、黒雷尾の横を通り壁に掛かっている箒を手に持った。


「みんな、お掃除するからちょっとどけてくれる?」


 魔物は頭が良いから言えば分かるかと声を掛けると、のそりと全員が首をもたげる。


「今日からみんなの部屋の掃除と、食事の世話をすることになったルカよ。よろしくね」


 ルカがそう言うと、言葉が分かったかのように全員がゆっくりと立ち上がった。そのままルカから遠ざかるように小屋の隅に寄ってくれる。

 その様子に微笑みながら、ルカは掃除を始めた。

 広い小屋の端から掃き始め、真ん中に来る頃、突然嵐が現れた。


「あれ、ルカがなんでここの掃除をしてるんだ?」


 そう言いながら嵐が小屋に入ると、黒雷尾たちが嬉しげに走り寄ってくる。身体をすり寄せてくる子たちの頭を撫でながらルカの前まで来ると立ち止まった。


「それが華露皇貴妃様がエレノア様にこの子たちのお世話をするように言ってきたの」

「ええ?」

「それが妃としての仕事だって」


 驚く嵐にルカは事の経緯を説明する。話を聞いていた嵐は難しい顔をして頭を掻いた。


「あの人は気難しいからなぁ」

「鈴はエレノア様を試しているのだろうって」

「試すかぁ……。まぁ、それも大事だとは思うが……」

「エレノア様は怒って部屋に帰ってしまったから、代わりに私が掃除をしているの」

「丘の民の王女にこんな仕事は無理か……」


 少し呆れたような顔をした嵐の周囲を取り囲む黒雷尾を見て、ルカは少し疑問だったことを聞いてみることにした。


「ねぇ、嵐。皇貴妃様がこの子たちは晶国にとってとても大事な子たちだって言ってたけど、どういう意味なの?」

「ああ。それはこいつ等が晶国の守護を司っているからだよ」

「守護を?」

「そう。国王と契約して晶国を守っているんだ。遥か昔からね」

「へえ……」


 晶国は魔物と共存しているという伝承は本当だったのだと、ルカは驚いた。どうやって魔物と契約するのか想像もつかないが、きっと皇帝は誰よりも強い魔力で黒雷尾を従わせているのだろう。

 嵐の説明を聞いて、ルカは余計にここの仕事をしっかりしなくてはという気になった。


「さて、事情は分かったよ。箒を貸しな。ここの掃除は元々俺の仕事なんだ。ルカは部屋に戻って大丈夫だ」


 手を差し出す嵐に笑顔を向けながらも、ルカは首を弱く振る。


「ううん。皇貴妃様に言われたことだし、私このままやるわ」

「でも大変だぞ? 王女の世話も忙しいだろうに、こいつ等の世話もだなんて」

「分かってる。でもこれでエレノア様が認められるならやらなくちゃ」

「王女のためか」

「それもそうだけど、皇貴妃様の言ったことも一理あると思ったの。王族は国民に奉仕する立場って、言い方は乱暴だけど確かにそうだなって。国を守るこの子たちをお世話するのが妃の仕事なら、しっかりやらなくちゃいけない」

「でもこれって王女の仕事だろ? ルカがやったら意味ないと思うけど」

「それはそうだけど、私がやっていれば、もしかしたらエレノア様もいつかやる気になるかもしれないし」


 楽観的なルカの言葉に、嵐は意地悪い笑みを向ける。


「そんなことになる訳ないって思ってる顔してるぞ」

「あら、それはエレノア様に失礼ってものよ。でも、そうね、本当はもっと単純な理由があるの」

「単純な理由?」


 首を傾げる嵐に、ルカは満面の笑みで頷く。


「この子たちってとっても可愛いと思うの。まだ触ることはできないと思うけど、もっと仲良くなったらてんてんみたいに撫でたり抱っこしたりしてみたいの」

「ルカにもこいつ等の可愛らしさが分かるか!」


 ルカの言葉に嵐は飛び上がらんばかりに喜ぶと、黒雷尾たちをギュッと抱き締めた。


「皆それぞれ個性があってさ、角や翼も色々で、もふもふであったかくて可愛いんだよ」


 黒雷尾たちは嬉しそうに尾を振りながら嵐を取り囲む。それを嵐は嬉しそうに目を細めて見つめている。

 その顔で嵐がどれほど黒雷尾を大事に想っているのかが分かって、ルカも嬉しくなった。


「嵐はこの子たちが大好きなのね」


 そう言うと嵐は照れた顔で「ああ」と頷き、それから壁に掛かった箒を手に戻ってきた。


「じゃあ、一緒に掃除しよう」

「ええ!」


 それから毎日、ルカは嵐と一緒に黒雷尾の世話をすることになったのだった。

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