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魔女と人形と異端審問官  作者: しぃ君
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一話「本当の始まり、二人の出会い」

 初めましての方も、お久しぶりの方もこんにちわ、しぃです。中々抜け出せなかった二次創作の沼から這い出てきました。


 今回のこの作品は週一投稿を予定していまして、仕事でメンタルが死なない限り終わるまで投稿はやめませんので、どうか温かい目で見守っていただけると嬉しいです!


 それでは、ごゆっくり見ていってください。

 夢を見る。

 お祖母様とお別れした日からずっと、夢を見る。最期の時、覚めない眠りに就こうとするお祖母様は、私が生きる理由を失わないように楔を打った。元気な時は一度も見せなかった優しそうな表情で。



「──どうか、一族の悲願を──頼んだよ……」



『人形に魂を宿す方法』の探求。それが私たち一族の悲願。ご先祖さまが未来に託した遺産、悪魔との契約の残り香である『呪い(まじない)』を使って、何百年と追い続けたもの。何世代にも渡って継がれてきたバトン。

 きっと、大切なものなんだろう。途絶えさせてはいけないものなんだろう。だけど、そんなのどうだってよかった。私はただ、恩を返すだけ。物心着く前に亡くなった両親に代わり、今まで育ててくれたお祖母様に、恩を返すだけ。



 十五の春。私、空金(そらがね)璃々(りり)は魔女になった。


 ◇


「朝、か」



 体を起こそうとすると、少し腰が痛い感覚が残る。ソファで寝た代償か、はたまた昨日も夜中まで研究に力を入れたのが原因か。疲労を訴える脳の信号を無視して、いつの間にかかけられていた毛布を剥がす。

 ぬいぐるみの誰かが勝手にかけたのだろう、『命令』なんてしてないのに、心があるように動くのは便利なようで面倒臭い。



「……クマタロウ、パンを焼いておいて」



 テーブルにちょこんと座り、眠る私を見守っていた一匹のクマのぬいぐるみ──クマタロウの頭を撫でて『命令』する。クマタロウはお祖母様が大きく前進させた、悲願に繋がる呪い『使役化の呪い』の最初の実験作であり、私の子守り……のようなものだ。茶色の体毛、赤いスカーフを首に巻き、ぴょこぴょこと愛想良く動くが、その実は心なんてない操り人形。



『使役化の呪い』は術者、もとい呪いをかけた者に忠実な下僕となる呪い。用意する物自体は簡単で、ぬいぐるみと、主人となるものの髪の毛だけ。あとは、ぬいぐるみの中身に髪の毛を埋め込み、満月の夜、月明かりの当たる場所で呪文を唱える。もっとも、呪文を一文字でも間違えたり、月の光が十分に当たらないと上手く効力は得られず、呪いは不発に終わってしまう。



 二十代以上続いて、進んだ研究はここまで。ここからは未知の領域だ。

 お別れから一ヶ月弱。遺された研究資料や、文献を漁って呪いの分解と分析をやってはいるが、机上の空論さえ芽は出ず、遺産として置いていかれた二階建ての寂れた家も、ホコリが溜まるだけで役に立ってはくれない。



 資料が山のように置かれた物置部屋が一室、私の部屋が一室、お祖母様の部屋が一室、実験部屋が一室、LDKがひとまとまりになった部屋が一室、最後に──悲願の端を掴むまで入ってはならないと言われた部屋が、一室。



 毎日、ぬいぐるみたちに掃除を頼んではいるが、彼らはあくまでぬいぐるみ。その範疇から外には出ない。だから、重すぎる荷物は運べないし、捨てていい物かそれ以外の物かの判断も『命令』がなければできない。



 最初の実験作であるクマタロウだけが、お祖母様の『璃々を守り、助けよ』というふわっとした『命令』のお陰で、少しは柔軟に動けているがその程度。

 今も、キッチンに置かれたトースターの前で、袋の中からもそもそと食パンを取り出している。



「……はぁ。みんな起きて、昨日の続きよ。掃除を再開して」



 リビングのそこかしこに置かれていたぬいぐるみたちは、私の声を聞いた瞬間、一斉に立ち上がり、掃除場所にさっさと歩いていく。

 扉を開けたり、掃除の道具を扱える知能があるのが唯一の救いなのかもしれない。



 仕事を始めるため行進をする彼らを尻目に、私も本格的に体を起こし、キッチンに向かう。焼き上がり待つクマタロウの横で、食器棚からパンを載せる皿を取り、冷蔵庫の中身を確認する。



「牛乳、卵、チーズ、バター……昼食は購買ね。確か夜は……」



 牛乳だけ冷蔵庫から出し、コンロの横に貼られたカレンダーを見る。今日は五月十六日の月曜日、待っていた満月の夜だ。ようやく、研究室以外でのデータが取れる。お祖母様は新しく呪いを作り、悲願への階段を駆けた偉大な人ではあるが、古典的固定観念の塊のような人でもあった。



 神秘(呪い)は秘匿すべきである。他者に情報を漏らしてはならない。

 そう言った教えを説いており、データが取れず。場所によって効力は違うのか、何か違う変化は起きるのか、などの結果は未だにない。だから、今日のために計画した学校での呪いは初めての試みだ。



「些細な違いでも見つかれば、なんて甘い考えかしら」



 無限のようで有限な時間は浪費できない。

 あと六十年生きると仮定しても、その中で何回しっかりとした実験ができるかなんてわからなくて、運が悪ければどこかで命を落としてしまう。

 死ぬのは怖くない。誰だってそう、いつかはくる終わりだ。私が恐れているのは、その逆。



 何もないまま生きる。その方がよっぽど怖い。

 悲願以外何もない私が、もしそれを落としたら、真っ暗闇の中をロウソク一つ持たずに歩くのと変わらない。目標もなく、夢もなく、揺さぶられる心もなく、無意味に過ごす時間は暗闇だ。



 そして、それとは違う大切を覚えて、失ったとしても未来は同じ。私が私から進歩しない限り、ずっとそのまま。



 何かあればいいのに。

 何もなければいいのに。

 なんて、相反する思いを胸に、私は毎日を生きている。



「……クマタロウ、パン焦げてる」


「!?」



 あわあわと慌てて、焦げたトーストを皿に移すクマタロウを眺めたあと、私はそれを受け取り、牛乳で流し込む。

 彼の作ったパンは何度食べても慣れず、苦いままだった。


 ◇


 県立河津西(かわづにし)高等学校。私の通う高校であり、お祖母様も昔通っていた元女子校。長い歴史を持つ学校で、開校当初から生徒の自主性やら自由を重んじていたらしい。そのお陰で、制服も十何種類もあるパターンから選ぶことができ、県内でも知らない人間はいない有名校だ。



 けど、別に私は制服に惹かれたわけではなく、単純に家から近いから選んだだけ。その表れか、選んだ服も灰色のセーターにスカートは灰色と紺の大人しめなもの。校章さえ付けていれば、黒のタイツを履いて文句も言われないし、先祖返りで日本人離れした髪色を染めなくても咎められない。



 黄金色の髪とエメラルドグリーンの瞳は、表情筋が仕事をせず、感情の起伏もほとんどない私の、数少ないアイデンティティーだ。

 そういう意味では、今の高校には助けられてる。



 だが、女子の比率が多い所為で、教室は香水やら化粧品の匂いで甘ったるいし、お喋りが絶えない分、窓際の席で一人黙って座っている私は異物だ。男子は男子で固まり、女子は何個かのグループで集まり固まる。

 どこにも属さず、事務的な会話にしか応じない愛想のなさも尾を引いてるだろうが、暇な時間は憂鬱なだけだ。



 ぼーっと空を眺めるか、材料のぬいぐるみに不備がないかチェックするしかない私は、朝のSHRまでの時間をなんとか乗り切り。その後も、メモ帳に記した呪いの手順を黙読したりするなどして、時間を潰した。

 悪い意味で、暇を潰す術を身に付けてしまった私の時間はあっという間に流れていて。窓の外の景色は暗く、月明かりが教室の中を薄く照らしていた。



「頃合いね」



 私の存在に気付かず、教室の灯りを消してくれたクラスメイトのお陰で、満月の光の加減も良く分かる。廊下や窓の外を見渡しても、職員室以外に人がいる気配もない。

 目を凝らして時計を見れば、時刻は十九時五分前。最終下校時刻まであと少しだ。恐らく、校内に残っている生徒も多くないだろう。



 チャンスを感じた私は、バッグの中にしまっていたウサギのぬいぐるみ──ウサシロウを取り出し机に置く。黒の体毛と赤い目が特徴な彼が月明かりに照らされる姿は、他者から見たら不気味だろうが、今は私以外誰もいない。



 一度、大きく深呼吸をし、体の緊張を解してから呪文を唱える。失敗は許されない、しかし、力み過ぎても焦りを生む。一言一句違えず、ただただ静かに詠う。



「満たせ、空の器を。満たせ、無垢なる魂で。宿り、芽生え、咲け。そして、今ここに人と成り、生まれ給え」



 最後の言葉を紡ぎ、数秒。

 頼りなかった月光は輝きを増し、ウサシロウに注ぎ込まれる。やけに時計の針の音が鮮明に聞こえ、カチカチと時間が過ぎていく。やがて、光は収まり、モゾモゾと彼は動き始めた。



「……右手を上げて」


「!」



 従順に右手をあげるウサシロウ。呪いは、成功した。『命令』を聞く操り人形(マリオネット)がまた一匹増えた。

 意味のないことだとなんとなく察してはいたが、どこまで今までと同じで、どこからが違うのか家に帰って探せば今後のヒントにはなるだろう。



 帰りの準備を整えつつ、何個か『命令』を出して様子を観察していると──突然、教室の扉がガンッと音を立てた。自然と鳴る音じゃない、何かがぶつかった音。

 呪いの目撃者に逃げられたかもしれない、という最悪のパターンを想定し、早鐘を打つ胸を抑えながら声を振り絞る。緊急事態の時こそ平静を保つべし、お祖母様の言葉だ。



「誰?」


「……だ、誰もいませんよ〜」


「冗談はよして。大人しく出てきなさい」


「あ、あの、違うの! 覗きたくて覗いたわけじゃなくてね! えっと、その、課題を忘れただけで……あはは……」



 開かれた扉の先にいたのは、身振り手振りで自分の事情を話す、苦笑いを浮かべた見知った顔のクラスメイト。夜に紛れるような夜空色の瞳に、濡れ羽色の髪をショートポニーにまとめた子。右目の下にある泣きほくろが特徴的な彼女の名前は、良く覚えている。



 何回も断るのに、偶に顔を見せては私を昼食に誘う、珍しい人。確か──



夢川(ゆめかわ)……糸依(いより)さん?」



 満月の夜、二人しかいない教室が、私と糸依の本当の出会いだった。


 次回もお楽しみに!


 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!


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