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【12.饗宴】

ラフィンは魔界で初めて湯に浸かった。

大きな洞窟の様な所にその湯浴みがあった。

思わずほーっと息をつく。

湯に泳ぐ自分の髪を見つめた。

「こんなに金色だったかしら」

よくよく見ると自分の髪がどんどん黄金色になっている気がする。

思わず湯に映る自分の顔も見つめた。

不安そうに自分を見返す目。

面立ちに変化はなさそうだった。

だが肌が白くなった気はした。目の色も。

「金色が勝ってきた。そんな感じね」

漂白されている気分だ。

コワ村にいた時と違い、屋外での農作業の様な事から一切離れている。

それだけの事かもしれないが。

「これで牙でも生えてきたら本当に変身ね」


イカウが衣裳部屋を引っくり返していた。

「何もこんないいの出さなくても。そりゃ似合うでしょうよ」

一人で文句を言う。

「あんな金の髪、ずるい」

金細工の宝飾品を出す。

映えるだろう、金の髪に金細工。

自分の灰色のくすんだ髪を撫でた。

衣装部屋の姿見で金の髪飾りをそっとあてがう。

しかし髪飾りだけ大層立派で不似合い極まりなかった。

「イカウ!」

衣装部屋の入口で怒鳴り声がした。

あの大柄の女だ。

「いつまでかかっているんだい!」

ちっとイカウは小さく舌打ちした。

「ドレス一枚に何手間取ってんだよ!」

イカウがドレスを抱えて入口に歩く。

「アルビナス様に見立ても頼まれてましたから」

「ふん、ついでに手頃に盗める物でもないか物色してたんだろ」

イカウが無言で出て来る。

「まったく、アルビナス様の気まぐれにも困ったもんだよ」


「何?これ」

「いいから着なさいよ」

ラフィンはイカウにくるくる回される。

「のんびり湯浴みなんかしてるから時間がなくなってきたわ」

「う!」

イカウがビスチェを締め上げる。

「苦しいわ」

「緩んでたらみっともないのよ。そういう服。見たことくらいあるでしょ」

ラフィンにドレス本体を被せた。

「こんなの、村では花嫁さんが着るくらいで」

「でしょうよ。私も着たことないわ」

イカウは話しながらも手は動かしたままだ。

「舞踏会だそうよ」

「え?」

椅子に座らされる。

ラフィンの金の髪をイカウが掬い上げる。

「アルビナス様とお出かけよ」


アルビナスがいつもと違い衣装をきちんと着ていた。

「そろそろ出かけるぞ」

ラフィンの支度部屋を開けた。

「ほう」

イカウが振り返る。

「髪飾りを」

アルビナスが歩み寄る。

鏡の中でラフィンと目を合わせた。

「何よ」

「いや、馬子にも衣装と言うがな」

顔を動かしかけるラフィンをイカウが押さえつける。

金の髪飾りが差し込まれる。

ラフィンの髪に馴染んで同じように輝いた。


「やっぱりこっちの方が良くない?」

着たばかりの衣装をまた脱ぎかける。

「カミラ、いい加減になさい」

「でも、ああ、だってさっきのドレスの方が大人っぽい感じが」

「それを老けて見えるとさっき脱いだのは誰?」

母親が侍女らに衣装を片付けさせる。

「このドレスになさい。若々しく艶やかだわ。よく似合ってますよ」

娘をなだめる。

「東の伯爵様が到着してしまうわ。さぁお迎えの準備を急ぎなさい」


馬車に乗るアルビナスとラフィン。

東の城の門をくぐる。

ラフィンが馬車の外を興味津々に眺める。

「今、夜?」

城を出るまで魔物の姿も草木も見当たったが、今は闇が流れて行くだけだ。

「夜になったな。だが昼間にしてもここはこんなものだ」

「何にもない?」

「道だからな。城下町の上を行ってる」

ラフィンは下を見下ろした。

いつの間にか馬車は飛ぶように走る。

眼下に町があった。

「すごい」

アルビナスはそのラフィンを眺めた。

アルビナスの視線に振り返るラフィン。

「何?」

「いや、なかなかの余興になるなと思ってな」

「余興?」

「今、どこに向っていると思っている?」

「え、と。舞踏会とは聞いたわ。それでこんな格好だって」

「ああ」

意味ありげな笑みにラフィンがいぶかしげに見る。

「アルビナス?」

「東の領地内に住まう一族だ。古く大きな一族でな、一応俺を立てて当主と言ってはくれているが、あちらも権力者。そそうのないようにな」

「私、作法なんて知らないわよ」

「何、大人しくしていればいい。俺の側から離れぬ事だ」

「?」

「人間界でも有名な一族だぞ?」

「はい?」

「主食が人間の血だ」

馬車がガクンと止まった。

「まさか。吸血鬼?」

「当りだ」

ラフィンの顔が強張った。

アルビナスが馬車のドアに手を掛けた。

「俺の連れである以上、お前を喰らう気にはならぬ、はずだ」

「脅かさないで」

「褒めているんだぞ。今夜は一段と美しい。吸血鬼は皆美食家だ。若く美しい女の血が何よりの好物」

アルビナスは馬車を降りてしまう。

「俺の側にいればよい」

アルビナスの到着に主一同出迎えに集まってきていた。

「ようこそいらした。どうぞ中へ」

主ドラキュレがアルビナスを誘う。

「連れが一人いてな」

アルビナスは微笑んで馬車に振り返った。中のラフィンに向って手を出した。

ラフィンは自分の指のリングと、六角のブレスに触った。

アルビナスはちょっとした肝試し、余興で人間を連れ込んだのだ。

またからかわれている、そう思うと返って肝が据わった。

アルビナスの手に自分の手を乗せた。

屋敷の中から一人一段と着飾った美しい娘が小走りに出てきた。

アルビナスの姿に尚小走りに階段を降りる。

しかし、歩みがゆっくりになった。

アルビナスがラフィンを馬車からエスコートして降ろしたのだ。


「これは、これは」

ドラキュレが近づいた。

「人間ではありませぬか」

ラフィンを七面鳥の品定めでもするように見詰める。

ラフィンが思わず一歩下がるのを背中からアルビナスが支えた。

「なかなかお美しい」

ラフィンは深紅のデコルテドレスに金の髪飾りの美しい姿だ。いつもは三つ編みの髪を緩やかにまとめて垂らし、きらきらと輝いていた。

「最高の褒め言葉ですな。絶世の美女ばかり狩ってらしたドラキュレ殿からそのようなお言葉を頂くなど」

ドラキュレはラフィンの手を取った。

「歓迎いたしますぞ。お嬢さん」

手の甲にキスをする。

ラフィンはその体温の冷たさに震え上がった。

「ささ」

ドラキュレが先導する。

アルビナスはラフィンの腰を支えるように側につく。

不安げなラフィンは矢のように刺さる観衆の視線の中から、最も強烈な視線に目を上げた。

広間への階段の途中、一際美しい娘が立っている。

アルビナスの手が腰から外れた。

先んじてその娘に近づき膝をついた。

「ご招待、ありがとうございます。カミラ姫」

手の甲にキスをする。

しかしカミラはそのアルビナスに切なげな目を向けたが、すぐにラフィンを睨んだ。

さっきからの強い視線には、明らかに憎悪が含まれている。

多分。ラフィンは思う。

二人は恋人同士だ。


-人間ですって-

-アルビナス様からの差し入れだそうよ-

-いいえ、お連れの方だって。一応-

ひそひそと皆が話す。

-美しい。白い首だ-

-どうせ余興だろう?是非ご賞味こうむりたいものだな-

-滅多に見ぬ麗質だ。どこであんな拾い物をなさった?-

ラフィンが落ち着きなくしていたのは最初だけ。だんだん肝が座ってきた。

「丸焼きの豚ね」

「お前か?」

「そうよ」

アルビナスが可笑しそうに笑った。

「褒め言葉だと言ったろう?美女故に皆が注目する」

「はいはい」

ラフィンはアルビナスのグラスを取り上げた。

中のワインを飲み干す。

「貴方の連れだもの。本当に取って食ったりしないわよね?」

「紳士的だと信じているが、な」

楽しそうなアルビナスの声。

「もう、面白がって!」

アルビナスはグラスを新たに取る。

ドラキュレが歩み寄った。

「アルビナス様。せっかくご招待お受けいただいたのです。是非、我らが一族の女達とも杯を挙げて頂きたい」

「これは失礼を」

アルビナスがすっとラフィンから離れる。

「アルビナス」

思わずラフィンがアルビナスの服の裾を掴んだ。

「紳士的な一族だと説明したろう?」

さらっとかわされて行ってしまう。

アルビナスが広間の中央に出ると、先を争うように吸血鬼一族の女達がアルビナスの周りに集まった。アルビナスがその群れの中心にいる。

女性らに衣装が全てアルビナスの為であったのがラフィンにもわかった。

-モテるんだ、あいつ、本当に。やっぱり-

壁に凭れたままワインを啜った。

確かに他の吸血一族の色白紳士スタイルの男らと比べても引け劣らない。

外見もそうだが、何より迫力に確かな差があった。

「さすが伯爵を名乗るだけある、か」

アルビナスがふと振り返った。

ラフィンは思わず目を逸らす。

逸らしておいてかノクテたアルビナスを見た。

見てしまうのだが、見ると女性らに取り囲まれるアルビナスの姿が妙に憎らしかった。

そんな自分を振り切る様にテラスに出た。

そのラフィンをカミラの視線が追った。


広いテラスの端、庭が一望できるところまでラフィンは進む。

宴の喧騒が遠くなり、漏れる明りからも遠ざかった。

ラフィンはテラスで風に当りながら息をついた。

屋敷の庭は広く手入れが行き届いていて美しい。

趣味が細かくセンスの良さが光っていた。

東の城は殺風景だ。

広さはあるのだろう。転居したばかりの南でこれ位の広さだ。

東西南北、敷地を分けているのだとしたら、広さはここの4倍にはなる。

だが全てにおいて東の城は、要塞を思わせる、広い庭は広いだけ、所々実利に応じた場所があるだけで、手入れのされた庭などない。

「魔界だからと思ってた」

ラフィンは庭を眺めながら呟いた。

だがよく考えてみれば、少し違っていたのかもしれない。

装飾などという物はアルビナスの主室に少しばかり転がっているだけで、ここの屋敷の様に階段のへりやランプシェード、天井に至るまであらゆる彫刻や細工に埋め尽くされた雰囲気とは全く違った。

飾りつけはいつからか放棄されたのだ。

女性らしさがない城と言うのが近いかもしれない。

この庭の中央には噴水まである。ラフィンの生まれ育った牧歌的なコワ村ではお目にかからない造りである。

だがこれでラフィンは気づいた。

アルビナスの城の庭にあった。南庭の王妃の木の近くに。

枯れた噴水、枯れて埃っぽくなった東屋。何だったのかここで初めて解った。

-何かあったのかしら-

ふとアルビナスの冷えた視線を思い出した。

あの剣呑な目つきは、魔界の伯爵だから、だけではないのかもしれない。


ラフィンははっと我に返った。

「何考えてるの。だってここは」

魔界だもの。人間界と同じに考えてはいけない。

ラフィンは広い庭の更にその先を見据えた。

ただただ広がる闇。

魔界の地形的特長がようやくわかり始めた。

とにかく唐突に風景が変わるのだ。

「結界ね」

おそらくはその力なのだろう。

この屋敷とその領地は吸血一族の結界が張り巡らされている。

一族以外が侵入すれば基本敵であり食料。

私が今食料とされないのかアルビナスの連れてきた招待客のものだから。

大きく深呼吸するラフィン。

「強力なのね、結界」

ラフィンは息の楽さで結界の強さがわかるようになっていた。

その強い一族が、強い男を招待する。

アルビナスに自分達の一族の娘を侍らせて、関係を強くしようとしているわけだ。

さっきから、会場の女性らが全てアルビナスに擦り寄っている。

社交辞令的挨拶なのかどうかは知らないが、微笑を浮かべて一人一人に対応するアルビナスの横顔を思い出し、ラフィンは愚痴った。

「アルビナスのバカ」

呟いてから視線に振り返った。カミラがいた。

「目障りだこと」

カミラがラフィンを見ずに少し離れたテラスに手をつく。

「物珍しくもない。家畜小屋に何匹も生け捕りにしてある」

人間を・・・ラフィンがカミラを睨んだ。

「何の気まぐれでいらっしゃるのか。人間など飾り立てて宴に連れ込むなど」

ようやくカミラがラフィンを見た。

「退屈しのぎにしても悪趣味」

カッとなるラフィン。

「こっちのセリフだわ。来たくて来た訳じゃない」

「ああ、でもちょっとした流行物ねぇ。魔力を持つ人間の娘がいるとかいないとか、南の伯爵様も人間界に足繁くお通いらしいし。アルビナス様もちょっとかじってみたくなったのかもしれないわね」

ラフィンに歩み寄った。

乱暴にラフィンの髪を引っ張る。

「この髪が自慢なの?魔界にない色だと見せびらかしているつもり?卑しい女のくせに」

「離して!」

ムっとしてラフィンがカミラの手を払った。

しかし途端に逆に手をはたかれる。

「気安く触るな。汚らわしい!」

「こっちのセリフだわ。悪魔に吸血鬼。汚らわしい!」

「何ですって」

声を荒げたカミラの口の中に大きな犬歯が覗く。

カミラは自分で声を抑えた。

「自分の立場がわかっていない愚か者につられたわ」

カミラがラフィンを見下ろした。

「その汚らわしい悪魔を目で追っていたであろう?」

「別に」

「汚らわしい相手というなら褥に連れ込まれる前に自分で決着をつけたらよかろう?」

ラフィンが頬を赤らめた。

「そんな事は」

カミラが高笑いをする。

「身も心も許した女の匂いがしておるわ」

「許してなんかないわ」

カミラの目が激しく燃えてラフィンをテラスの桟に押し付ける。

「憎らしいこと。私のアルビナスに。つまみ食いとはいえ、同じ腕に抱かれたとは、何とも嫌な気分じゃ。たかが人間のくせに」

ラフィンはカミラを見返した。

「許してなんかいないって言ってるでしょ。仕方なく一緒にいるだけだわ」

カミラの怒気は更に上がった。

「仕方なく!?ほざいたな、人間ごときが。愛しい恋人の傍をうろつく野良犬が」

予想していたことだが、はっきり恋人というカミラに、ラフィンはかえって頭が冴える。

「あんなに女性を引き連れていて?私ならあんなの見たくない。見たくないからやめてって言うわ。あなたが恋人?信じられないわ」

ラフィンはカミラに肩を強く掴まれる。

「対等な視線を私に向けるな。人間風情が。お前はただ戯れ事の相手とされただけ。今もさらし者。それすらわからぬか?」

カミラの手を振り解こうとするが意外に力が強い。

「我らが命は数百年でも生き永らえる。お前ごとき人間などとは違う」

ラフィンを嘲笑する様に言い放つ。

「その美しさは10年持つのかしら?私はこの姿で100年は過ごしている。アルビナスとてそれ以上。わかるわよね、ほんの一時のおもちゃよ、お前は」

ラフィンはカミラを睨み返す。

カミラの瞳が炎に燃えている。

その通りだ。そんなことは自分の方がわかっている。

だからこそ必死で、自分が自分らしくあるために踏ん張っている。アルビナスに心が揺れているのは自覚している。彼の魅力に引き込まれる自分を許すしかない一方で、人間の弱さを力の強さで押さえつけられるのは許せない。

さっき言葉にしたのだって本音だった。

女性を引き連れて、微笑みを向けて接するアルビナスが嫌だ。やめてと言いたい。

「自分の立場を理解しなさい。目障りなのよ」

カミラは話を切り上げて去ろうとする。

ラフィンは顔を上げた。

「私に嫉妬しているくせに」

途端にカミラは振り返りラフィンの足を思い切り踏みつけた。

「何するの!」

ラフィンは渾身の力でカミラの頬を張った。

カミラは悲鳴を上げたが、そのままラフィンも頬を打ち返された。

「よくも人間の分際で」


カミラの鋭い悲鳴が広間にも響いた。

広間の者たちがようやく二人のケンカに気づいた。

「あいつ」

アルビナスが女性らをかき分ける。

カミラとラフィンは髪を引っ張り合うようなケンカを始めてしまっている。

カミラの方が力があるはずだが、ラフィンも負けずに掴みかかっている。

ドラキュレもつかつかと速い足取りでやって来た。

「何をしてる」

アルビナスはラフィンをネコの子でも捕まえるように襟首を掴んだ。

ドラキュレが娘を押える。

「お父様。この子がいきなり私の頬を打ってきました。余りの侮辱です。ひどい」

カミラの哀しげな口調。

ラフィンが思わず身を乗り出す。

「何を。私は!」

アルビナスがラフィンを押える。

ラフィンはアルビナスを見上げた。

「先に絡んできたのはあっちよ、それを」

アルビナスはそれに答えずドラキュレとカミラを見た。

「躾が悪くてすまぬな。カミラ殿、お怪我は?」

「頬が腫れて」

尚も反論しようとするラフィンの口を塞ぐアルビナス。

「せっかくの宴の邪魔をした。申し訳ない」

ドラキュレに謝るアルビナス。

「いや、こちらこそ、ケンカは二人で成せる事。娘にも非がありましょう」

ドラキュレがカミラの髪の毛の乱れを直した。

「化粧を直しておいで」

「戻られたら、ダンスのお相手をお願いしたい」

アルビナスがカミラにそう申し出た。カミラの顔がようやく緩んだ。


周囲の目がようやくアルビナスとラフィンの間近から離れて行く。

アルビナスがラフィンの口を塞ぐのをやめた。

「違うわ!あっちからよ!」

「だからと言って、やり返す奴があるか」

「だって!」

ラフィンはじわっと涙を浮かべた。

「悔しい。人間と侮られて」

ラフィンはテラスの桟によろけた。

おまけにあんな言葉。

自身にその思いがあるからこそ、激しく反応して反発した。

東の伯爵たる大物の悪魔が、人間如きをおもちゃ以上に考えるはずはない。

わかっていても言われたくなかった。

「力がないのが悔しい」

「充分だ。あれ以上ケガをさせていたら、お前をテーブルに並べなくてはならなくなる」

「並べたらいいわ!」

アルビナスが息をつく。

「何の為に連れて来たか意味がなくなるではないか」

「自分がどれ程の権力者でどれ程女性に人気があるか見せびらかしたかったんでしょ?私に。それで私はちょっとしたオマケ。気まぐれのおもちゃ」

言っているうちにまた涙が滲む。

「まぁな」

「もうわかったわ。満足でしょう?」

「気まぐれとは言え、その伯爵が人間の女を連れてきた。狩りたくなるほどの人間。上質好みの吸血一族がだ。そこが余興の核心だがな」

アルビナスが取れかけたラフィンの髪飾りを抜き取る。

ラフィンの髪が完全に解けて背中に流れた。

きらきらと黄金の髪が照明にまばゆく光り輝く。

周囲の目がまたラフィンに注がれた。

それにうんざりするラフィン。

「注目の的だ。どの姫よりも」

アルビナスが呟く。

「悪趣味ね。ホントに」

アルビナスが他所向きの微笑を浮かべた。

「褒めてるのか?」

「けなしてるの」

ラフィンはひょこ、と足を引きずった。

横目でそれに気づくアルビナス。

「こんなに人間が舐められてるなんて。本当に頭に来るわ」

「・・・」

今お前がその人間の名誉挽回をしているところだがな。

ラフィンの背を見つめた。

カミラと張り合うか。

大勢の魔界の女に取り囲まれて果たしてどう見えるか、自分でも予想しきれなかったが、案の定と言うべきか、人間の分際であるはずのラフィンが周囲を蹴散らして輝いている。

一族の主の娘、一族きっての美女カミラといい勝負とは。

「余興か。では一曲お相手願おうか」

「私、ダンスなんて」

「足が痛むので、とはいい逃げ口上だな」

「!痛くないわ」

ラフィンは無理にも歩き出した。

「ではカミラ殿が戻るまで俺の相手をしてもらおう」

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