交錯する生者 6
(前ページより)
*
気温が落ち着いた頃。
少年は『読書ホール』の端の席で読書していた。机に左斜め向きで腰掛け、左手で本の背表紙を持って支え、右手は本の右ページを押さえている。余った右肘は机上に乗せ、足は足首あたりで組んでいる。
普通なら隣りの利用者に迷惑がかかる体勢だが、その心配は無用のようだ。
何故なら、少年の周り(少なくとも二席以上)には、利用者が居ないからだ。正確には、少年の雰囲気に誰も近寄れないからなのだが。
少年は既に本の三分の一ほどを読み終えていた。
(そう言えば…)
次のページを捲った時、ある思考が湧出した。
あの婆さん、俺がサングラスを掛けているのは確認できていた筈だ。よく恐怖しなかった物だ。加齢すると度胸が据わってくるのだろうか。物腰が落ち着く、とは聞いた事があるが、あれは嘘だと思う。高齢になっても元気な人は居るから。…いや、あれは元気が良過ぎる。一つの過ちがこんなに今後に影響するのだから、今度から気を付けたい。
少年が頭の中で自問自答に後悔と自嘲の鬩ぎ合いを繰り広げている間に、図書館の利用者が増えてきていた。
学生が学校に入学するには入学試験を受けなければならない。その為、やる気があるものは新学年になってから直ぐに勉学に励み始める。自宅で勉強する者もいるが、この辺りに在住する生徒は大抵この図書館に集まってくる。辞典や資料が豊富にあるし、インターネットが設置してあるので志望校に関する情報を検索する事も出来るし(更に電話料金を支払わなくて良いという特典付き)、空調設備が施されているので快適に勤しむ事が出来る、まさに絶好の場所なのだ。
顔を上げて周りを見てみると、どこかの学校の制服を着ている者が目立っていた。もうここに居る者は、学校が終わって直ぐにここへ向かってきたのだろう。なにせ公共物という物は早い者勝ちなのだから。席を先取りされてから訪れては全くの無駄足になってしまうのである。
少年は今度は入り口の方を向いた。この建物には窓が無く、日の光が差し込むのは出入り口付近にしかないからだ。もし光を浴びたかったり風に触れたかったら、一度外に出るしかないのである。荷物を置いていくと窃盗される場合が多々あるので、その時は注意しなくてはならない。
出入り口からは暖かそうな陽光が差し込んでいた。日光浴をするには最適な日だったろう。
少年は館内の時計で時刻を確かめた。
現在、午後四時過ぎ。
正午近くから居るから、もう大分居る事になる。
(確か、『午後過ぎ』と言うのは正午から三時までの事を言い、三時から日没までを『夕方』と言う。そして、日没から九時までが『宵の口』っと言うらしい。それにしても、こんなにまだ明るいのに『夕方』とは可笑しなものだ)
少年は本当にどうでもいい事を考えつつ、再び本に目を落とした。
暫く読書に没頭していると、妙に目立つ話し声が聞こえてきた。恐らくまた勉強組だろう。公共物だから利用するのは自由だが、もう少し静かにしてほしい、と少年は胸中で呟いた。