交錯する生者 5
(前ページより)
*
ソミアの通う学校は、帰宅時間を迎えていた。
本当はその日の教育課程を終えると掃除をする時間が巡ってくる。この学校は、掃除のような日常で必要な行為も教育するという学校長の意向により、放課後に清掃の時間が設けられている。クラスメイトの数人が掃除に向かうのだが、私達四人は運良く全員当番から外れていたので、その日は当番の人から恨めしそうな視線を受けつつ帰ることができた。
普通なら教室から校門まで、その日の残り時間を何に使うか話し合うところを、ジャスミン御一行は、
「ホントにどうしよっか〜、罰ゲーム」
「なかなかいいアイディアが浮かばないもんね〜、罰ゲーム」
「このままじゃ、やらずに終わっちゃうよ〜、罰ゲーム」
まだ考えていた。
最後のアナリアの言葉に、ジャスミンとローレンスが、それは避けたいね〜、と同意した。
「三人とも、罰ゲーム罰ゲームって連呼しすぎ…」
最後尾にいたソミアが、恥ずかしさ半分諦め半分で指摘した。
三人はわたしを揶揄したりするのを本当に楽しんでいるようだ。私が困ったような顔をすれば大笑いするし、やめてと言ってもすぐにはやめようとはしない。今三人に、「罰ゲーム考えるの、そんなに楽しい?」と訊いたら、必ず「Yes!」と即答するだろう。
「この後はどうする? このまま考えるのもいいけど、外でじゃイヤだよ。今日みたいな晴れてる日にずっと外にいたら日焼けちゃうし」
ジャスミンが話を少しずらしたが、彼女の言う通りだ。話し合いを行うなら、それをする場所が必要となる。学校でするという考えもあるが、街のほうに気が向くのがこの三人だ。何かと自由が利く街中のほうがいいらしく、妙な管理がある学校はご免なのだろう。
「そうだね。教室はまだ掃除終わりそうにないし」
教育の一環とはいえ、半ば無理矢理に押しつけられた仕事だ。作業のペースはやる気の無さに比例して遅くなっている。
「でも、誰かん家に行くのはナシだよ」
四人のそれぞれの家はこの学校からかなり離れていて、全員公共機関を利用している。しかも自宅の住所がバラバラに散っているというおまけ付きである。
「どこかのファストフードショップにでも行く?」
「この時間はけっこー混むもんだよ。待たされたらたまんないし、それにそういう場所にいるとなにか食べたくなっちゃうからヤだな」
三人は揃って、う〜ん、と唸った。
私は三人が行き詰まっているのを黙って見ていると落ち着かなくなり、荷担する気にはなれないが、仕方なく助け船を出すことにした。
「それなら、図書館にする?」
三人が呆けた顔をしながら、私のほうを向いた。
「商店街から少し離れた所にあるんだけど。あそこなら室内だし、空調設備もされてるから快適なはずだよ」
私は、自分が知る範囲での、条件を満たしている最良の場所を教えた。少し離れていると言っても、三十分以上歩かないと到着しない場所だ。しかし、ずっと外で立ち話をするよりかはマシだと思った。というか、それは私も嫌だったから協力したのだけれど。
「それホント?」
ジャスミンが意外なものを見たような顔をしながら訊いてくる。
「本当だよ。何度も行ったことあるし」
私は真面目に答えた。
「ふつー、図書館って飲食禁止でしょ? 飲み物が飲めないとこだとつらいんじゃない?」
「あ、それも大丈夫だよ。あの図書館、ちょっと変わっててね、外から買ってきた飲食類はだめだけど、館内で販売されてる食べ物だったらオッケーなの。買ったことあるんだけど、本を汚さないための工夫がされてるの。味もけっこう美味しいよ。他にも、建物の中に簡易カフェもあるしね」
「混んでない?」
「うーん…中央ホールは混んでるだろうけど、カフェなら大抵空いてるんじゃないかな」
これからの会議(?)場所の情報を補足し終わると、目の前で私のため(?)に妙案を考案しようとしている女子高生三人組は目を大きく見開いていた。わかりやすいくらい驚いているみたいだ。
「ウソじゃないよね?」
ジャスミンが少し顔を綻ばせながら訊く。
「嘘なんかつかないよ。私だって人混みには行きたくないもん」
私は本音を交えて答えた。
「期待しちゃうよ?」
ローレンスが含みのある微笑で確かめる。
「大丈夫。今回は私がみんなを案内するよ」
私は笑顔で答えておいた。
「素っ裸でサンバだよ?」
アナリアが訳の分からない罰を付け加える。
「そんなお仕置き、やだよ…」
ソミアが困ったような顔をすると、当たり前のように三人は笑い出した。
今何が起きているのか、これから何が起きようとしているのか、何も知らない。
今は、ただ笑う。