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交錯する生者 2

(前ページより)


     *


 澄みきった青い空に太陽が昇り、そこから地上にある全ての物に容赦なく光を当て続けている。太陽が真南の最も高い場所、南中を過ぎても、気温はなお上昇しつつある。

 商店街から南に位置する一帯には住宅街が広がっている。どの家も同じような造りで、六つか八つの家々が一組の集団となって密接し、その組が数え切れないほど存在している。各々が車二台通れるかどうかの道路を境界線代わりに区切って、作られた空間に収まっている。

 その住宅街の中心から少し北側、つまり商店街の方に寄った場所に、低いが頂の面積が広い丘がある。その広い面積を利用して一つの学校が建立されていた。

 四階建てのその学校の三階、南から見ると左から二番目の教室。その空間は他のどの教室にもあるような賑やかな声で満たされていた。

 現在、お昼休み真っ直中。

 誰もが午前中の疲れとストレスをここぞとばかりに発散している。そしてそれぞれが達したい目的のため、他者のもとへと向かう。それによって自然といくつかのグループが作られる。

 窓側の最前列を占拠している、女子四人グループもその一つだった。

 一日の平均気温が確実に上昇してきたため、皆がやや薄手の服装でいる。だが、お国柄、日照時間は長いが、気温が高いと言ってもせいぜい二十度が限界だ。しかも、ずっと昔から地球温暖化の影響でこの辺りは気温が下がってしまっている。それなりに体温を保持できる服装である。

 他のグループは周囲の迷惑などお構いなしの様子ではしゃぎまくっているのに対して、そのグループは静まり返っている。むしろ、緊迫した空気が流れている、と表現したほうが正解かもしれない。

 四人のうち二人は互いに向き合っていて、二人とも数は違うが同じ物を持っていた。一人は一つ、もう一人は二つ。一つ所持している者は片手で、二つ所持している者は両手で、それらを自分の首辺りの高さに上げて持っている。

 残りの二人は物を持っておらず、その二人の対峙を眺めている。

 それはもう楽しそうに。

「いい?」

 一つ所持しているほうが話しかけて、二つ所持しているほうがそれに頷く。一つ所持しているほうが相手の二つあるうち片方を選択し、抜き取った。そして抜き取った物を自分の所持している物と照らし合わせた。

 抜き取った物と自分が所持していた物は書かれていた数字とマークが一致していた。

「やった〜! 上〜がりっと!」

 一つ所持していた者は持っていた物を目の前の机に置いて、歓喜の声を上げた。

 それに対して二つ所持していた者は、

「あーあ、負けちゃった…」

 非常にがっかりした様子で手元に残った物を見ていた。

 薄くて掌より小さい長方形で角が丸く、裏にはチェックの模様が描かれ、表側の中心には白黒で描かれた体躯の細い、ピエロのような格好をしたキャラクターが描かれ、同じ面の右上と左下に縁側に沿って、こう描かれていた。

『JOKER』

「それにしても運がなかったねー、ソミー」

 一番早く上がってその後を悠々と観戦していた一人は慰めの言葉をかけた。

「まったくだよ。こういう時だけ運が悪いんだもん…」

 結局上がれなかった、ソミーと呼ばれた少女ソミアは、自分の運の悪さを怨んだ言葉で答えた。茶色のセミショートヘアに澄んだ薄茶色の瞳を持った、気の弱そうな印象を与える白人の少女で、シャツの上にカーディガンを羽織り、適度な長さのスカートという服装だ。外見は他の三人よりも若干若い。

 この学校は制服が定められていないので、服装は自由とされている。大抵の人は普段着を着てくるが、中にはどこかの国の服装を好んで着てくる者もいる。

「ソミーは頭いいのにさ、『ダウト』とか『ポーカー』とか、トランプのゲームにほんと弱いよね」

 二番目に早く上がった一人が、ソミアの学校の成績と、今までの成績と、ついさっき終わった結果からの正直な感想を漏らした。

「そうそう。なんでそんなに負けられるのか知りたいくらいだよ?」

 三番目に上がった、さっきまでソミアと対決していた一人が、三番目でも勝ちは勝ちとでも言いたいような口調で追い打ちをかけた。

「わからない…。けど、学校の成績と運は関係ないでしょ」

「てゆーか、『old made(ばばぬき)』で連敗記録を作れるのも、ある意味スゴいと思うよ」

 ソミアは成績優秀な生徒で、毎回トップテンに記録されるくらいだ。周囲(特にこの三名)から、何故にそげな点取れるんじゃいと、時には陰で、時には直接言われることもしばしばだ。答案が帰ってきた直後に真っ先に得点と答えを訊かれる身でもある。

 が、しかし。

 ソミアは運動どころかこんなゲームに関しての才能と呼ぶべきものが全くと言っていいほど無いのだ。どれくらい悪いかというと、四,五回トランプゲームをやったうち、一回でも最下位にならなければ良いほうといえるくらいだ。

「ところでロールさん、なにか忘れてませんか?」

 一番最初に上がった一人が言った。

「そう言われると、なにか忘れてるような気がしますね。そう思いませんか、アニーさん」

 ロールと呼ばれた、二番目に上がったローレンスがバトンを回す。染めた銀髪と茶色の瞳を持った白人の少女だ。

「ええ、私もジャミンさんの言うとおりだと思います」

 アニーと呼ばれた、三番目に上がったアナリアが乗る。黒い髪に薄い緑の瞳を持った黒人の少女だ。

「そうですよねぇ」

 ジャミンと呼ばれた、最初に上がったジャスミンが頷いた。長い金髪と碧眼の白人の少女だ。

 そして、三人揃って一緒にソミアのほうに向いて、

「ねー、ソミーさん?」

 不適な笑顔を装いながら、見事にハモりつつ言った。

 今日はこれで五戦目になる。ソミアはそれまでの四戦は全敗していたので、周期的に「次は勝てる」と自信を持っていた。

 それを察したアナリアがこんな提案を言い出した。

『じゃあ、次にビリになった人には罰ゲーム付けない?』

 今までそんな付録は付かなかったのでソミアは戸惑ったが、他二人は賛成していたし、さっきの何の根拠もない周期性が空っぽの自信を持たせていたので了承した。

 そして見事に完敗した。

「罰ゲームでしょ…。はーい、ちゃんとやりますよ…」

 ソニアがしょんぼりとした様子で認めて溜め息を吐いた時、予鈴のチャイムが鳴った。


     *


 正午より少し前。

「やはり…」

 サングラスをかけた少年は説明されたとおりの道程を通り、その終着点である場所に辿り着いた。

「人選は考えるべきだったか…」

 少年の目の前には、大きな本屋が聳え立っていた。





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