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真実の代言者 3

(前ページより)


     *


 説明を聞き終えて、すぐ。

私は、現実を受け入れられずにいた。

コルドから聞いた、オルパニル・コランダムの詳細はこうだ。


 かつて、人間の脳は全体の三割しか使用されていないという研究結果が報告された。当時は余分な知識としてしかならず、気にも留めない内容だった。

しかし、脳の研究が進み、自立機動ロボットの脳の開発も向上する裏で、脳の七割の使用されていない部分を覚醒させようという試みが決行された。

進歩した遺伝子工学を駆使し、幾多の挫折や紆余曲折を経て、遂に生まれながらに脳全体を使う新生児を人工的に誕生させることに成功した。

 彼はまず、寿命が長かった。最初は成長の遅滞として心配されたが、知能レベルは平均を遙かに超えており、問題ないと判断された。

また、彼が成長するにつれて発揮する不思議な能力については研究員にも驚嘆の連続であり、観察者にとっては充実した日々でもあった。

 しかし、誕生から数年後に少年は自我に目覚め、非科学的な能力を前回に発揮して研究所から脱走した。

 それから彼は自由気儘に世界を跋扈し、犯罪を繰り返した。今までに犯したことのない凶悪犯罪はほぼ無いと断言していいらしい。

 研究チームは、とうとう少年の捕縛または殺害を決定した。研究側にとっては成功サンプルを処分するという苦渋の決断であったが、死人が出ていたためにやむを得ないとされた。

 少年の捕縛・殺害において何より厄介なのが、実験の副作用である非科学的な力を持っていることだった。たとえどんなに周到な作戦で追い詰めようとしても、常識外れの現象が起こされ、その網を避けられ続けた。

現在の人類の技術で彼を捕縛するのは困難を極め、毎度逃亡を許していた。少年の充足した経済状況が長引いていることが疑問に挙がったが、確証はないが、沢山の国のあらゆる銀行をを脅迫して多額の生活資金を受け取っているという話もあるそうだ。

 生年月日が不明で、不老のせいもあり、一体いつの時代から生きているのかも闇に閉ざされている。彼に関する研究資料は、彼が脱走した際に研究施設ごと全て焼き落とされている。頼りになるのは警察省に保管されている過去の記録だけで、それによると、最低でも百年前からは事件を起こしている。現実的に考えれば非現実的なことだが、この際全てを受け入れる覚悟が必要になる。

 最近起こした大事件は、日本の滅亡。東洋の最も端に位置する島国が、たった二週間で滅亡したという事件だ。記録によれば、オルパニル・コランダムはその時期に力を暴走させ、その島国を滅ぼしたらしい。理由がどうあれ、一つの国を滅亡させたのだ。逮捕されたら、死刑は免れない。


 説明を聞き終えて、こう思った。

 騙された、と。

 裏切られた、と。

 今まで自分が感じたものも抱いた感情も、全部偽りだなんて酷すぎる。

 恐かった。悲しかった。嬉しかった。いつの間にか胸の奥が暖かい気持ちになっていた。記憶の中の自分は、そう感じている。

 でも、それらは全部偽りなんだ。

 助けてもらった。上着を貸してもらった。悩みを聞いてもらった。イヤリングを買ってもらった。してもらったことは、みんな嬉しかった。

 でも、それらは全部彼の狙い通りなんだ。

 私を味方につけるために装った、嘘だらけの親切だったんだ。

 積み上げられたものが、一気に崩れたように思えた。信じていた人に見捨てられ、あの時まで感じていた喪失感が戻ってきたように感じた。全てを失う感覚が何もかもに染み込み、虚無感が自分の体中に広がっていった。

 私、何をしているんだろう…。

 簡単に赤の他人を信用して。お人好しにも程があるのに。

 これから、どうすればいいんだろう…。

 これから、何を信じたらいいんだろう…。

 自分でも気づかないうちに、涙がこぼれた。




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