Monologue
ぼくにはなにかをする力がなかった。
やろうと思ってもけっきょくなにもできなかった。
どうしてぼくはこんなにできないんだろう。
べつにわるいことをしているわけじゃないんだよ。
がんばることがそんなにわるいことなの?
じゃあ、ぼくはなにをやっていいの?
けど、少年の悩みに答えてくれる人はいなかった。
それは、いつものこと。
俺には何でもやれる力が有る。
やろうと思えば出来なかった事は無い。
どうして俺にはこんな力が有るのだろう。
俺がこの力を善行に使うとは限らないのに。
俺に何を期待する?
俺に何をしてほしい?
だが、少年の問いに答えてくれる者は居ない。
それは、いつものこと。
第一章 交錯する生者
澄みきった青い空に太陽が昇り、降り注ぐ太陽光線がアスファルトに熱を与え続けている。今の時期は日の出の時刻が早くなっているのでこの時間でも高い場所にある。あと数時間もすれば一番高い場所である南中に行く。
空には雲が一つもなく、陽光を遮る物は何もない。朝から絶えることなく日光を受けた地表は、この地域にしては珍しく暖められていた。
この街のある広い道路に併走する歩道を一人の少年が歩いていた。黒いTシャツの上に黒いジャケット、黒のジーンズにアーミーブーツ、茶褐色の瞳を持っていて、やや長めの漆黒の頭髪を後ろで一つに結いでいる。顔立ちは子どもと大人の中間ほどだが、表情からは何の感情も見受けられず、口は真一文字に閉じている。
一見何でもないごく普通の少年だが、その顔には奇妙な黒いサングラスをかけていた。
サングラス自体は珍しくもない物だ。禁止されていないどころか市販化されている物の一つだ。この辺りでは地域に関係なく販売されているし、人種に関係なく装着されている。
だが少年のそれは他の物とは違っていて、片側のレンズがはめられていなかった。左目は隠れているが、右側からの眼は見える状態だ。少年のそれは本来のサングラスの役目を全うしているとは思えない。