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ゴーストハンター雨宮浸 ゴーストハンターVSゴーストテイマー! ~悪霊島の呪われた秘宝~  作者: シクル


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第五話「上陸、悪霊島」

 午前三時。

 起床した浸達はすぐに身支度を整えて悪霊島へと向かう。

 小型のボートを浸が運転し、和葉、露子、絆菜、そしてカレンに、バッキンガム三姉妹が乗り込み、悪霊島へと向かう。

「まるで動物園ね、ヴァレリーお姉様」

「本当、獣くさくてやっていられませんわ」

 中型のボートに八人乗り込むのは少々無理がある。運転席の浸を除いても七人乗っているのだから、自然と中はぎゅうぎゅう詰めになってしまう。

 三女ダリアと次女ヴァレリーは、隅っこで長女ジャネットと共に身を寄せ合い、厭味ったらしくのたまった。

 絆菜や露子はムッとしたものの、特に何かを言い返しはしない。切りがないことをもうわかっているのだろう。

 そうこうしている内に、悪霊島がどんどん近づいてくる。

 ボートと悪霊島の距離が縮まるにつれて、感じられる霊の気配もかなり濃くなってくる。天幻のものと思しき強い怨念や、悪霊島に集まっている霊の負の感情が少しずつ感じ取れるようになってきた。

 和葉はそれらを人一倍強く感じてしまうため、少し怖くなって背中に提げている霊盾の縁を握ってしまう。

 そんな和葉の肩を、優しく露子が叩いた。

「大丈夫よ。こんだけ人数いりゃ、アンタには傷一つつかないわ。あたしがさせないしね」

「つゆちゃん……」

「アンタはとにかく、天幻を再封印することだけ考えれりゃ良いのよ。温存しときなさい」

「はい!」

 和葉の役目は、天幻を再封印することだ。封印用の札に霊力を注ぎ込み、その力で天幻を再び封じ込める。この役目は、戦いに霊力を使う必要がなく、かつ霊力の極めて高い和葉にしか出来ない。

「あなた……ゴーストテイマーの才能があるのではなくって?」

 不意に、ジャネットが和葉へ視線を向ける。

「そ、そうですか……?」

「あなた程の霊力があれば、強い悪霊でも抑え込めますわ。コントロールすることだって」

「は、はぁ……」

「いっそアメリカへ来ない? あなた程の才能があるなら、みっちり研修した後バッキンガム三姉妹に入れてあげてもよろしくってよ」

「か、カズハ・バッキンガムですかぁ!?」

 あまりしっくりこない名前だ。

 これはいわゆる引き抜きというやつだろうか。見るに見かねた露子と絆菜が何か言い返そうとしていたが、それよりも和葉が真剣な顔つきで答える方が早かった。

「遠慮します。私の事務所は、雨宮霊能事務所だけなんです」

「あら、それは残念ですわね」

 それに和葉は、霊を操るなんてことはしたくない。

 どんな霊でも、現世に留まり続けることを強いたくない。悪霊化しているのなら尚更だ。和葉からすれば、ゴーストテイマーのやっていることは悪霊を現世に縛り付けているように思えてならない。

 和葉にとって、霊は解放してあげたい存在なのだ。

 そしてそれは、雨宮霊能事務所の方針でもある。

「もしアメリカに来ることがあったら、バッキンガムになるより私の研究室に来てよ! あなたの霊力があれば、色んな実験が出来るわ!」

「あはは……」

 曖昧に笑って誤魔化す和葉だったが、そんな彼女とは裏腹に露子と絆菜は楽しそうに乗ってくる。

「その時は私も同行させてくれ。みんなでアメリカ旅行だ」

「あ、それ良いわね。乗った」

「その時は目一杯歓迎するわ!」

 カレンと、和葉達の五人でホームパーティーをするのも良いだろう。たくさんのご馳走をみんなで囲んで騒ぐことを想像していると、和葉の不安はすっかり消えてなくなっていた。

「……そろそろ到着しますよ!」

 そんな会話をしている内に、運転席の方から浸の声が聞こえてくる。

 いよいよか、と全員が気を引き締めたが、それと同時にボートの下から大量の霊の気配が感じ取れた。

「――――悪霊です!」

「やっぱそう来たわね……!」

「結界、張りましょうか!?」

 和葉の持つ霊盾は、和葉の霊力を使って簡易的な結界を発生させる特殊な霊具だ。この結界の範囲は和葉の周囲だけではなく、その気になればボートごと覆うことも不可能ではない。

 だがそれは、霊力の消費が激しいのだ。

「ダメだ。和葉先輩は温存しておいてくれ、ここは私達で食い止めるぞ、露子!」

「言われなくてもそのつもりだっての!」

 二人が武器を構えて甲板に出た瞬間、ボートの縁をいくつもの手が掴む。そして海面から、何体もの水死体のような悪霊が顔を覗かせた。

「上等! あたしが乗ってるボートを、転覆させられるだなんて思わないことね!」

 すかさず、露子は片っ端から悪霊を撃ち抜く。

 露子の二丁拳銃に装填されたマガジンは、通常のものより遥かに長く、装弾数は倍以上だ。ちょっとやそっとの数の悪霊が相手では、簡単に弾切れを起こしたりはしない。

 だが露子の銃だけでは限界がある。ボートの縁を伝って上に登ってきてしまう霊も出てしまう。

 それに対処するのが絆菜の仕事だ。

 逆手に持ったナイフで、迫ってくる悪霊達を次々と切りつけ、祓っていく。

「こう狭いと動き辛いな……おい! そっち側は任せたぞ!」

「カカカカカッ」

 絆菜の言葉に答えるように、聞こえてきたのはカボチャ男の笑い声だ。

「あなた一人で十分よ! 殲滅なさい! ジャック・オ・ランタン!」

 カボチャ男――ジャックは踊るように舞い上がり、手に持ったランプから青白い炎を発生させる。それらは海面に向かって飛んでいったが、不思議なことに海中に潜っても消えない。炎ではなく、炎の性質を持った霊力なのだ。

 ジャックの炎は、海中で悪霊を焼き尽くしていく。薄暗い海の中で燃え盛る青白い炎は、どこか幻想的だ。

「大口叩くだけはあるわね」

「なんの。お前の方がすごいさ露子」

「当たり前でしょ。っつーかじゃれつくな!」

 戦いの中、悪霊を祓い続けているのは露子達だけではない。

「――――カレン砲っ!」

 カレン砲から放たれた霊力を伴う怪光線が、次々と悪霊を祓っていく。

 大して強くない悪霊が相手なのもあってか、一撃で悪霊を祓うことが出来ている。

「す、すごい! カレンさん、すごいです!」

「そうよ! 私の発明は……パパの発明はすごいんだから!」

 一行の活躍により、ボートはどうにか悪霊島の砂浜付近へ到着する。錨を下ろし、一行は慌ててボートを降りて悪霊島へ上陸した。

 だがホッとしたのも束の間。悪霊島に潜んでいた大量の悪霊達が海岸まで押し寄せてきているのだ。

「とんだ歓迎会だな」

「船上では皆さんにばかり働いてもらっていましたからね……ここからは私の出番ですよ!」

「何を言う。お前はきちっと運転していただろうに」

「気持ちの問題ですよ」

 そう答えつつ、浸は腰の鞘から青竜刀を抜刀し、すかさず迫りくる悪霊達に切り込んだ。

 浸にとって青竜刀は最も扱いやすい武器だ。素早い身のこなしと刀捌きで、迫る悪霊達を一切寄せ付けない。後ろにいる和葉に、指一本触れさせない。

 浸に続いて、露子、絆菜も応戦する。上空をジャック・オ・ランタンが飛び回り、青白い炎で悪霊達を焼き尽くす。

 そしてカレンもまた、カレン砲で次々と悪霊を祓っていく。

(……あれ……?)

 戦いの中、和葉は違和感に気がつく。

 バッキンガム三姉妹が、長女ジャネットしか戦っていないのも気になるが、それよりも気にかかることがある。

(なんだろう……この悪霊達……動きが変かも……)

 悪霊というのは基本的に自我がほとんどない。そのため、悪霊の動きは単調になりがちだ。

 しかしこの悪霊達の動きはそうではない。

 そもそも、悪霊は集まることはあっても群れとなって行動したり、襲いかかったりすることはほとんどないのだ。

(まさか……統率されている……!?)

「浸さん! 悪霊の動きが変です!」

「……そうですね。統率されているような印象を受けます!」

 まるで浸達を奥に進ませまいとしているかのようだ。これは明らかに、一つの意思によって動かされている。

「……しょうがないわね! ここはあたしが食い止める! アンタらは先に行きなさい!」

「でも、露ちゃん!」

 すぐに絆菜が露子の元へ向かおうとしたが、先に動いたのは次女ヴァレリーだ。

「私が残りましょう。姉様達は先へ!」

「ヴァレリー姉様!」

「ジャネット姉様! ダリアをお願いします!」

 ジャネットはコクリと頷くと、ダリアを連れて先へ進んでいく。

「……私達も行きましょう。朝宮露子! 決して無理はしないでください!」

 本当はもう少し人数が欲しいが、天幻が復活する最悪のパターンを想定するなら、あまりここに人員は割けない。

「誰に物言ってンのよ! この朝宮露子が、こんなしょうもないとこでくたばるわけないでしょうが!」

 力強い露子の言葉に頷き、浸は和葉達を連れて先へと進んでいく。

「……つゆちゃん! 気をつけてくださいね!」

 なんだか厭な予感がする。そんな思いから、和葉は走りつつ露子へそう叫ぶ。

 それに対して露子は、口元で笑みを浮かべて返した。



 砂浜を抜けると、その先はちょっとした密林になっていた。

 悪霊はほとんどが砂浜に向かったのか、密林にはあまり気配がなく、襲いかかっても来なかった。

 それでも時は一刻を争う。一行は早足に密林を進んでいく。

「……文献通りだと、この先に洞窟があるわ。天幻が封じられた水晶玉は、その一番奥に祀られているハズよ」

「では急いで向かいましょう。早くすませて朝宮露子と合流しなければ」

 カレンの言葉にそう答えつつ、浸は歩を早める。

「それって多分、一番霊力が感じられる場所ですよね? 私、大体わかります」

「……流石だな。案内してくれ、和葉先輩」

 頷き、和葉は先頭に立って歩き始める。

 悪霊島自体は対して大きな島ではない。すぐに目的の洞窟を発見することが出来た。

 洞窟の中は所々月光が差し込んでいるが、明かりなしでは薄暗くて進みにくい。浸は予め用意していたヘッドライトを和葉に渡した。

「釣り用のヘッドライトがここで役立つとはな」

「ええ、まさかこんなところで使うことになるとは」

 夜釣りにおいて明かりの確保は重要だ。常夜灯の近くを確保出来なかった場合、明かりがなければまともに仕掛けを結ぶことも出来なくなりかねない。

 カレンとジャネット達は自分で用意していたようで、全員がヘッドライトを装着した状態で洞窟を進んでいく。

 洞窟はほとんど一本道だ。和葉の感覚を頼りに進んでいけば、すぐに天幻の封じられた場所へたどり着ける。

 だが、異変はすぐに起こった。

「……ん?」

 ふと何かの気配を感じて絆菜が足元を見ると、水たまりに何かが映っているのが見える。

 これは絆菜ではない。色白で金髪の――血まみれの女だ。

「何――――っ!?」

 すぐにそれが悪霊だと気づき、絆菜は水たまりに向かってナイフを投擲する。しかしそれは水を跳ねさせるだけだ。

「絆菜さん!?」

 そして次の瞬間、絆菜は信じられない光景を目にした。

「馬鹿な……っ!?」

 上から落ちてきた滴の中に、血まみれの女が僅かに映り、その中から女の首が飛び出してくる。そして絆菜の肩を噛み千切ると、滴が落下するのと同時に姿を消した。

「ぐっ……!」

 激痛に悶える絆菜だが、傷はすぐに癒える。

「何かいるぞ!」

 絆菜の言葉に、全員が身構える。

「私……全然気づかなかった……!」

「そうか……和葉先輩が気づかないということは相当隠れるのがうまいらしいな!」

 すぐに絆菜は身構える。相手がどこから来るのかわからない以上、全方位を警戒するしかない。

「そこか!」

 感じた気配を頼りに、後ろへナイフを薙ぐ。だが血まみれの女はすぐに水たまりの中へ戻ってしまい、ナイフは空を切った。

 そして今度は水たまりから腕を伸ばし、絆菜の足を掴んだ。

「……丁度良い! ここで私と遊ぼうじゃないか!」

 絆菜は不敵に笑うと、洞窟の奥を指差す。

「行け! どうやらこいつは私にご執心らしい! ここで食い止めておく!」

「絆菜さん!」

「とにかく和葉先輩を連れて行くんだ! 浸!」

 絆菜の決意を察して、浸は頷く。

「早坂和葉、カレン・ドーソン、先を急ぎましょう」

「任せましたわよ!」

 浸に続いて和葉、カレン、ジャネットが奥へと走っていく。

 それを見送ることも出来ないまま、絆菜はナイフを足元へ投擲する。当然、血まみれの女は姿を消した。

 だが気配は残っている。

「……お前は行かないのか。ナントカ・バッキンガム」

「間違えないでよね。私はダリア・バッキンガム」

「そうかそうか、すまなかったな。で……お前の持っているその鏡はなんだ?」

 わざとらしく名前を間違え、絆菜が問うと、ダリアはニヤリと笑って見せる。

「ブラッディマリーは鏡の中のゴーストよ。だから帰る場所も鏡の中」

「ほう」

「水滴も、水溜まりも、光の反射する場所はどこだって彼女の居場所」

 ダリアがそう言った瞬間、再び背後に血まみれの女が――ブラッディマリーが現れる。

 ナイフを振る絆菜の手を握りしめ、ブラッディマリーは絆菜へ噛み付いた。

「なるほどな……」

 血を流しつつ、絆菜はダリアへ目を向ける。

「そういうことか! 丁度良い、お前達はいけ好かなかったんだよ!」

 噛み付くブラッディマリーを振り払う絆菜の叫びが、洞窟内で僅かにこだました。

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