ある音楽家に贈る『おやすみ』
夜の静けさ、
その中で響く時計の針、
寸分のずれもなく刻むその音は、
やけに冷たく聴こえたりする。
夢へのまどろみ、
一歩ずつ、眠りに近付く僕の、
足元を支えている時計の針が、
僕の心臓と呼応している。
かち、かち、とくん、とくん、
でも、僕の心臓は、
かち、かち、とく、とくん、
針と違って、たまにずれる。
それがなんだか苦しくって、
けれども、どこか心地好くて、
まどろみの最中、息が詰まった。
月に届くはずの唄、
針と心臓のビートに合わせて
誰かに聴いて欲しくて書いた音は、
星灯に燃えて消えた。
かち、かち、とくん、とくん、
かち、かち、とくん、とくん、
次第に僕の心臓の音は、
小さく、緩やかになっていく。
かち、かち、とくん、とくん、
かち、かち、とくん、 とくん、
明日目が覚めたら、
新しい楽譜に、rit.と書き加えよう。
かち、かち、とく、とくん、
かち、かち、とくん、
とくん、
夜の静けさ、
その中で響いた時計の針、
そのやけに冷たい音の響きが、
僕の人生の楽譜だった。