外伝ルート 朱乃宮武術大会54
姉さんの背中をさすって落ち着かせる。
「ずず。ずう。本当にもう大丈夫なんですか?」
鼻を啜る姉さん。
私はそばにあったテッシュ箱を渡す。
「ああ。姉さんのおかげで何ともないよ」
身体のだるさはあるが、痛みは何処もない。
首も左腕も平気そうだ。
「ふへ。それは良かったです」
姉さんの強張っていた表情がやっと崩れる。
やっぱり姉さんはこの柔らかい笑みが良い。
「ん?」
またもや騒がしい足音。
しかも今度はひとつじゃない。
「此方先輩が起きたって本当ですか!?」
襖を開けたのは相島だった。
後ろから神崎や八重橋、その他大勢が次々に部屋に入って来る。
「みんなにも心配をかけたね」
「本当ですよ。試合で倒れた後、彼方先輩でも目覚めさせられないって聞いてヒヤヒヤしました。此方先輩が死んじゃうんじゃないかって」
言葉通り胸を撫で下ろす相島。
周りの者たちもやれやれとホッとしている。
「まあでもこれで安心して帰れますね」
「帰る?」
不思議そうにする私に相島が苦笑する。
「此方先輩。あと数日で冬休みも終わりですよ? 流石にいつまでも朱乃宮には居れないじゃないですか」
「……ああ。そういえばそうだったね」
鎧を着て武器を持ち、危険な試合を続けていたが、私たちはまだ学生だった。
長期休暇が終わったら日常に戻らなければならない。
「今日も此方先輩が目を覚まさなかったらどうしようかと思っていましたが、安心しました。すみませんが、私たちは先に帰りますね。朱乃宮は刺激的でしたけど、そろそろ家族にも会いたいので」
「そうよ。あーあ。今から憂鬱だわ」
「だ、大丈夫だよ! 友達と歴史観光って言ったのは間違ってもないし」
頭を抱える幸と励ます妹の優子。
秋山姉妹の実の両親は厳しいんだったな。
「はあ〜。やっと帰れる。家のベットが恋しい」
「だね〜。帰ったらゆっくりしようか」
深い溜め息を吐く相島の妹と寄り添う二階堂
「色々と大変だったけど、まあ、充実した冬休みになったんじゃない?」
「だけどもう懲り懲りかなぁ。来年の冬休みは普通に過ごしたい……」
満足げな八重橋と疲れた笑みの神崎。
この子たちにも随分と迷惑をかけたな。
まあ、この子たちは相島の行く道をずっと付き従っていくんだろう。
「どうしたんですか、此方先輩? まだ何処か悪いんですか?」
「いや。君は本当に女たらしだなってね」
「ひ、人聞きの悪い」
「あら。随分と賑やかじゃない」
開かれた襖に立っていたのは守羽。
私を見下ろしてニヤッと笑う。
「君にも心配をかけたな」
「心配? あはは! あなたみたいな毒蛇が簡単に死ぬわけないでしょ!」
本当にそう思っているみたいに守羽は大笑い。
嫌な奴だな、まったく。
「まあでも」
守羽が笑うのを止める。
「薫を倒しておきながら優勝しなかったことは許さないわよ」
場が冷える。
本当に嫌な奴だ。
だがーー
「すまなかった」
守羽に対して頭を深く下げる。
朱乃宮の代表として守羽は私を信じてくれた。
その結果がこれだ。
私は謝るしかない。
「来年」
守羽の言葉がつむじにかかる。
「来年は薫と決勝戦で戦いなさい。私の妹が、あなたを潰すから」
そう言い残して守羽は部屋を去っていった。




