外伝ルート 朱乃宮武術大会48
「此方様っ!?」
優香の声が届く。
戸惑っている場合じゃない!
「っく!」
藁にも掴む思いで左手を伸ばす。
手が触れたので一気に力を込める。
「っぶな」
足元を見る。
あと十数センチで地面だ。
危うく秒で敗北しかけた。
「しかし。ここからか」
普段なら崖登りぐらい出来るが、今は大鎧を着ている。
動きにくいし重い。
せめて両手を使えるようにしなくては。
右手に持っていた木刀を闘技場の方に投げる。
そして空いた右手と左手に力を込め、闘技場のほぼ垂直の斜面に足を引っ掛けて登る。
「はあ、はあ、ふう」
なんとか闘技場に復帰する。
「大丈夫ですか、此方様?」
優香が駆け寄ってくれたので手で制す。
「大丈夫だよ。だから戻って」
「は、はい」
立ち上がって木刀を探す。
カランと目の前に私の木刀が転がる。
「なんだ。拾ってくれたのかい? 折ってしまえば良かったのに」
「それじゃ、面白く、ない」
アカメが嗤う。
「お前は、叩き潰す」
「ほう」
私も嗤う。
「出鼻は挫かれたけど、二度も吹き飛ばされないよ」
アカメが地面を蹴る。
速い。
だけど私の目で追えないほどではない!
「はあ!」
バン! と木刀同士がぶつかる。
互いに押し込み、鍔競り合う。
それが無駄だと分かれば距離を取り、再びぶつかる。
袈裟斬り、逆袈裟、突き、払い、叩き。
「…………」
アカメの戦い方は腕力にものを言わせたものだ。
芸がなく、受けるのは容易い。
「っ!」
だけどまともに受ければ、また吹き飛ばされかねない。
腕ごと木刀が弾かれる。
「ふっ!」
私の隙を見逃さないアカメの大振り。
背中を逸せて躱す。
そして距離を取る。
「…………」
頬に微かな痛み。
籠手で触れる。
付いたのは血だ。
どうやら躱しきれなかったらしい。
「今のは、惜しかった」
木刀の切先を突きつけられる。
「今度は、目玉」
瞬間ーー
「…………」
木刀が私の頬を削る。
「ふざけてるの?」
私を睨みつけるアカメ。
「真剣だよ」
私はアカメから視線を外さずに睨み返す。
アカメの刃は私の兜と頬の間を貫いている。
「どうして、避けなかった? 私を、馬鹿にしてるの?」
「真剣だと言っているだろう。お前の動体視力は未来予知並みだ。たとえ避けても容易く追撃される。だったら致命傷だけを避けて、お前を倒す」
「鴉山 紅様! 一本!」
神職の審判。
頬の刺突が目を突いた判定になったらしい。
「さあ、仕切り直しだ、アカメ」
私は刺さっていた木刀を引き抜く。
「…………」
一本先取したというのに納得のいかないアカメ。
本当に目玉を狙うつもりだったな?
仕切り直しで優香の元に戻ると、とても心配そうな優香。
「此方様、手当を」
「大丈夫だよ。ただの擦り傷だ」
左の籠手で頬の血を拭う。
その手が優香に奪われる。
「手当を」
優香の瞳。
「……分かったよ」
有無を言わさぬそれに私は折れるしかなかった。




