外伝ルート 朱乃宮武術大会 照美4
微かな音に目を開く。
「照ちゃん」
陣幕に入って来た凪。
険しい表情だ。
「どっちが勝った?」
「……船渡先輩」
「……あはは」
力なく笑う。
畠山さんでも船渡先輩でも勝ち上がってくる可能性があった。
だけどこうして結果を知ってしまうと身体が震える。
「船渡先輩か〜。勝つ想像が出来ないよ」
「そ、そんなことないよ! 照ちゃんだっていっぱい鍛えて来たんだもん! 勝てるよ!」
励まそうしてくれる凪。
優しいな。
凪だって船渡先輩の強さを知ってるのに。
船渡先輩。
何度も手合わせをしてもらったけど、一度も船渡先輩に打ち込むことが出来なかった。
あの人は朱乃宮の武士の中でも異質な強さだ。
私とひとつしか違わないのに、どれだけの修行をして来たのか。
「どうする? 時間まで軽く動く? それとも何か食べる? あ、飲み物をーー」
「凪」
私は凪の腕を引っ張る。
「照ちゃん?」
不思議そうな凪の瞳と合う。
「ご飯も飲み物も要らない。だから時間まで、そばに居て」
「……うん」
凪を引き寄せて、抱き寄せる。
「照ちゃん、震えてるよ?」
「うん。怖いわけじゃないんだけどね。武者震いってやつなのかな? 震えが治らない」
きつく抱き締めてしまって、凪を苦しめているかもしれない。
だけどこうしないと震えが治りそうにない。
「大丈夫だよ。照ちゃんは強い。そりゃあ船渡先輩は強いよ? だけど私たちだって妖怪たちと何度も命懸けで戦ったんだもん。だから自信を持って」
凪が私を強く抱き締めてくれる。
「照ちゃんは私のヒーローだよ。小さい時に初めて出会った時からずっと」
「……ありがとう、凪」
今日までとても長かったように感じる。
一般の家に産まれたはずだった。
だけど実際は朱乃宮に連なる人間で鍛錬を強いられた。
それでも努力して、誰よりも強くなったと自負していた。
でも、それは私が井の中の蛙なだけだった。
不良に絡まれて凪に迷惑をかけたし、朱乃宮では妖怪を前にして足が竦んだ。
目の前で大切なものが襲われても動けなかった。
いくら鍛えようとも、私は弱かったんだ。
それを変えてくれたのがーー相島さんだ。
私たちのように武家の生まれじゃない。
ましてや朱乃宮と何の関わりのない彼女が命を賭けて朱乃宮を救ってくれた。
だからこうして凪と生きていける。
「勝てるかは正直分からない。だけど全力を出してくる。だから勇気をちょうだい、凪」
腕を緩め、凪の額に自分の額をつける。
想いが伝わるように。
「凪。今更だけどさ。愛してる」
「ふふっ。私も。頑張ってね、照ちゃん」
私たちは瞳を閉じた。




