かぐやルート14
先生が居なかったので俺は保健室のベットに横たわる。
「大丈夫? 苦しくない?」
さくらちゃんがハンカチで俺の汗を拭ってくれる。
目端には涙。
本気で俺のことを心配してくれている。
「私の……私のせいで……!」
「私はさくらちゃんの瞳を見てないよ。さくらちゃんは悪くない」
「じゃあどうして……?」
さくらちゃんの言葉に俺はチラリと目線を移す。
さくらちゃんの後ろに立っているのは天。
笑みはないが、俺を見下ろす瞳が嗜虐的なのは気のせいか?
「ちょっと胸が痛くなっただけだから。泣かないで?」
俺は手を伸ばしてさくらちゃんの髪を梳く。
「少し休んだら帰るから。さくらちゃんは先に帰ってて」
「やだ。りっちゃんと一緒に居る」
駄々をこねるさくらちゃん。
心配してくれるのは嬉しいが、今は一刻も早く、さくらちゃんを天から離したい。
でもさくらちゃん頑固だからな~。
誰か信用出来る人に。
………………そうだ!
「麻衣のところに行って呼んできて。部活中だと思うけど訳を話して。それで三人で帰ろうよ」
「……どうして?」
しゃくりをあげるさくらちゃんが小首を傾げる。
「私はいつ動けるか分からないし、でも麻衣にも手伝ってもらえれば何とか帰れると思うから、ね?」
俺が説得すると、さくらちゃんは頷いて保健室を出ていく。
「私はもう大丈夫そうですね。相島先輩、それでは」
「天」
ひらひらと手を振って立ち去ろうとする天を呼び止める。
さくらちゃんの後を追われたら堪ったもんじゃない。
それに問い詰めないと。
「何です?」
「私に何したの?」
俺は上体を起こして睨むように天に問う。
天の瞳を見た瞬間にこうなったのだ。
犯人は天しか居ない。
「私は……落とし物を拾って、先輩に渡して、倒れた先輩を介抱しただけですよ」
クスリと天は少女らしく微笑む。
だがやはり、その瞳は慈しみではなく、嗜虐に満ちている。
「隠さなくて良いよ。その瞳、でしょ?」
「……へえ~。ふふっ」
一瞬目を丸くしたが、天は再び微笑む。
「なあんだ。先輩は知ってるんですね、瞳の奇妙な力。しらばっくれようと思いましたけど。その目、確信してますね? もしかして先輩も持ってるんですか?」
「持ってるとしたら?」
俺は嘲笑ってやる。
わざとはぐらかした。
はっきり答えてしまうと、天にマウントを取られるかもしれなかったからだ。
「ふーん。あ~あ、めんどくさい人を狙っちゃったな~」
大袈裟に天は溜め息を吐く。
「まさか私以外にも能力を知っている人が近くに居たなんて。しかもそれを当てちゃったし」
参った、参った、と手で目を覆う。
そしてニヤリと笑みが弧を描く。
「だけど能力を知っているのにこうしてやられてるってことは、先輩は能力がない、もしくは私に対抗出来ない能力ってことですよね」
「!?」
指の隙間から三本爪のマーク。
「じゃあ別に良いか。大した障害にならなそうだし」
先程のように激しい胸の痛み。
俺は歯を食い縛り堪える。
「ダメですよ、目を逸らしちゃ。ほら、私の目を見てください」
頤に手を当てられて顔を無理矢理上げられる。
まさかこんなところで女子の憧れである"顎クイ"をされるとは思わなかった。
三本爪の両目が俺の奥を見透かしているようだ。
見ちゃダメだと分かっているのに天の瞳に惹かれてしまう。
「ふふっ、これで先輩も私のものーー」
「姐さん!?」
俺のピンチを救ったのは保健室に飛び込んできた金剛だった。




