外伝ルート 朱乃宮武術大会 照美3
「…………」
「…………」
私は三浦さんを、三浦さんは私を見ている。
「……お見事」
フッと三浦さんが笑う。
私の鎧通しが三浦さんの喉を突いていた。
「あ、あはは」
ガクンと身体が崩れる。
私は最後の力で地面に倒れそうになるのを右腕で耐える。
左腕を見る。
まだ左腕はついている。
だけど感覚がない。
痛みを通り越して神経をやられたのか、それとも戦いの興奮で痛みが上書きされているのか。
ただ分かったのはーーこれはまだ一本目だということ。
朱乃宮武術大会は三本先取で勝利。
それが頭から抜けていた。
あと二本。
だからこそ三浦さんは得意の居合抜刀術を捨てられたんだ。
たとえ一本取られても平気だからと。
本当の戦場なら死んでいる。
だけど、試合だからこその作戦。
この一本で私は潰れたが、私を見下ろす三浦さんは健在だった。
「勝者! 矢沢 照美!」
「えっ?」
困惑の中、周囲の歓声に私は呑まれる。
どうして私は勝てたの?
「いや〜。すまない。腕は大丈夫かな?」
声に顔を向ける。
三浦さんが手を差し出してくれていた。
「あ、はい。いえ、感覚ないですけど」
「なんだって!? おい! 医者だ医者!」
バタバタと人が闘技場を登ってきて私を取り囲む。
「触りますよ」
一人の女性が私の左腕の籠手を外し、触れる。
「いっつ!?」
ヒリヒリどころではない。
火に炙られたかのような痛み。
見ると真っ赤に腫れがあっていた。
「痛みがあるならまだ大丈夫です。ですが骨までいってるかも。病院へ運びますので。担架をここに」
「え、ちょっ!?」
わけもわからないうちに私は担架に載せられる。
「持ち上げます。せーの」
私が空を見上げる。
揺れ。
そして凪の、今にも泣きそうな顔。
「照ちゃん……大丈夫?」
「え? あ、うん。たぶん」
凪に右手を伸ばす。
それを凪は両手で強く握ってくれる。
「凪。私、なんで勝ったの? よく分からないんだけど」
「それはーー」
「これだよ」
私の顔に差し出されたもの。
それは木刀。
だけど折れて中の筋が剥き出しになっている。
「私の木刀が折れたんだ。いや参ったよ。骨まで叩き折るつもりが、まさか木刀が折れるとは」
叩き折るとか。
覚悟はしていたが、三浦さんから言われると怖いな。
でもそれが朱乃宮武士。
「武器の破損は失格。だから私の一撃に耐えた君が勝ったんだよ」
「そう、ですか」
身体の力が一気に抜けていく。
担架に身体を任せて、もう動けない。
うん。
左腕は燃えるように熱く、泣きそうなほど痛い。
「お疲れ様、照ちゃん」
泣き笑いの凪に、なんとか口角をあげて笑う。
たった数分でもう死にそうだよ。
だけどまずは一勝。
骨が折れていないことを祈りながら、私は病院に運ばれた。




