食いしん坊
「お姉ちゃーん。ご飯だよ~」
麻衣の声に俺は目を覚ます。
「ん~。今行く」
頭をボリボリ掻いて覚醒させる。
一階に降りてテーブルに着く。
どうやら今日のおかずは唐揚げらしい。
大皿に山のように盛られ、カラッときつね色に揚がった衣で俺の腹の虫が鳴る。
母さんと麻衣も席に着いたことを確認すると俺は手を合わせた。
「そういえば、お父さんは?」
一つの空席に目が行く。
朝は気にしなかったが確か相島 立花の父は存命のはずだが。
「ああ、それも忘れちゃってるんだね。お父さんは海外に出張中だよ」
出たよ。
ギャルゲー定番の親が仕事で居ないパターン。
まあ、俺は主人公でもヒロインでもないので偶然かもしれないが。
「いただきます」
さっそく、唐揚げに箸を伸ばしてかじる。
口が小さくて頬張ることは出来なかったが、肉の旨味が口中に広がり俺はそれをじっくりと堪能するために押し黙る。
「味染みてなかった? ごめんね、急ぎで作ったから」
俺が何も言わなかったから不安に思ったのだろう。
母さんが味付けについて謝罪してくる。
「いや、十分に美味しいよ。久し振りの唐揚げだったから感傷に浸っていうか、なんというか」
「そういえばそうだね。うちじゃあんまり揚げ物でないし、というか今日多いね。こんなに食べられるかな?」
「食べられるよ。私お腹空いてるから」
また、唐揚げに箸を伸ばす。
一個、二個、三個と次々に胃に納めていく。
この幸福感は素晴らしい。
「珍しいね。お姉ちゃんがそんなに食べるなんて。食べ過ぎじゃない?」
「へ?」
もう何個目か分からない唐揚げに伸ばした箸が止まった。
「何か不味かった?」
たくさんあったから考えなかったが、もしかしたら一人何個と決まっていたのかもしれない。
「いや、別にお姉ちゃんが何ともないなら良いんだけどさ。いつもあんまり食べないのに今日は平気なのかなって」
「ああ、大丈夫大丈夫」
今日の弁当もそうだが、相島 立花という少女は凄い少食らしい。
俺とは正反対だ。
「ねえ、立花。今日のお弁当どうだった?」
母さんから話を振られる。今度は何だろうか?
「? 美味しかったよ。あ、でも、もうちょっと量が欲しいかな。下校のときまで保たなかったから」
「え! お姉ちゃん、お弁当完食したの!?」
麻衣の唐突な驚きに俺も驚いてしまう。
「何だよ、仕方ないじゃないか。あんな小さな弁当箱じゃ足りないよ」
「お母さん、頑張るから!」
「え? あ、ありがとう」
俺が愚痴ると何故か母さんが喜んだのだった。