外伝ルート 朱乃宮武術大会10
「母さんの、朱乃宮 春陽の指示で変わったんだよ。お祖父さんの時代は真剣だったみたいだけどね。流石に死人が出るものを続けられないと判断したんだろう」
「じゃあこれはお預けか〜」
しょんぼりと肩を落とし、桔梗は桐の箱に刀をしまう。
「木製なら良いの?」
「ああ、竹でも構わないけどね」
「じゃあこれだね」
見覚えのある木刀。
いや傷のない綺麗な木刀だ。
「相変わらず少し短いんだね。これも特注かい?」
「うん。じゃあよろしくね」
桔梗の木刀を預かり、二人で陣幕を出る。
「優香、楓。悪かったね」
「いえいえ」
「わあ! 桔梗様、お似合いです」
「ふふっ。ありがとう、楓」
優香と楓に合流して会場へ。
場所は拝殿から少し離れた広場だ。
そこには相撲のように盛り土を固めて作られた闘技場がある。
その周りには千人ほどを収容出来るパイプ椅子の座席。
それは全て埋まっていて、地面に座る観客や立ち見客も居る。
去年より人数は減ったが、それでも盛況だと言えるだろう。
「……!」
観客席に相島たちを見つける。
皆、見に来てくれてるようだ。
さて、姉さんはーー
試合会場を見回す。
そして御簾で覆われた場所に目が止まる。
おそらく姉さんの観客席だろう。
「此方。登って良いの?」
闘技場の前で止まっていた桔梗に微笑む。
「ああ。行って来なさい」
桔梗の腰紐に木刀を二刀差す。
「楓、頼むよ」
「はい! お任せください!」
楓は幟旗を胸に抱えて大きな返事。
介添人は選手の旗を運ぶ大事な仕事もある。
「あ、そうだ」
闘技場への階段を登り始めた桔梗を引き留める。
「相手の良太殿は怪力だ。まともに攻撃を受けてはダメだよ。可能ならかわしなさい。良いね?」
「うん。気をつけるよ」
桔梗と楓の背を見送る。
「此方様、私たちも」
「ああ」
私たちは選手用の席へ。
闘技場へ登った桔梗と楓が見える。
用意されていた床机に桔梗が座り、楓が朱雀院家の幟を設置する。
桔梗たちの反対側にはすでに工藤 良太殿。
相変わらずデカいな。
本当に熊のようだ。
「桔梗様、良太様に勝てますでしょうか?」
優香の不安げな声。
ぱっと見、大柄な男の良太殿と、女性からしても小柄な桔梗だと勝敗は決まっているように見える。
良太殿に桔梗が捻じ伏せられる未来が。
「そうだね。だけど良太殿と戦えないほどでは、私とは戦えないよ」
「あはは。それもそうですね。此方様は去年、良太様を降したんでしたね」
さて桔梗。
君の実力を見せてくれ。
私を存分に楽しませてくれ。




