外伝ルート 決戦の地は朱乃宮! 幕間31
緊張していた顔が、少し赤らむ。
「ああ。見てくれたんだね。ありがとう」
「そ、それで、今回の武術大会にも出られるんですよね? 私、応援しております!」
「え? あ、ああ。ふふっ。ありがとう」
楓の緊張が解れたことに此方は微笑む。
そして心の中で思う。
すっかり忘れていたと。
夏の演武に対して冬の武術大会。
朱乃宮の武士としては外せないイベント。
此方も船渡とはいえ毎年のように参加していた。
そして彼女は今年の勝者であった。
「ふむ」
百足童子との戦争騒ぎと守羽 紫織救出作戦で忙しい日々を送っていた此方の頭からすっかり抜けていた。
しかも今日は年末で武術大会の本番は明日の正月。
今から修行してもたいして鍛えられないだろう。
「此方様?」
「あ、いや。何でもないよ。それで宮田家はここからどれくらいだい?」
「もうすぐです。あそこに見える屋敷ですね」
楓の指差す正面。
道の先に屋敷がひとつあった。
表札に『宮田』とあるから間違いないだろう。
思っていたより近かったみたいだ。
「ここで少しお待ちください。今、ご主人に伝えて参りますので」
駆け出していく楓。
後ろをついてきた馬車から春陽と彼方も降りてくる。
「姉さん、それは?」
「えへへ。馬車の中に手拭いがあったので使ってみました!」
彼方の顔を覆うのは真っ白な手拭い。
確かに面布の代わりになりそうではあるがーー
「それ前が見えるのかい? それに呼吸も辛そうだけど?」
「ううっ。やっぱり失敗ですかね……」
肩を落として彼方が手拭いを外す。
こういうときに鍵って神様の白い仮面はない。
「そういえば姉さん」
「はい。なんですか?」
「明日、武術大会があるんだけど、覚えてたかい?」
「はい! もちろんですよ。今までは朱乃宮神社に籠っていたので見るのは初めてです! 此方ちゃんの活躍を楽しみにしてますからね!」
「あ、あー。ありがとう」
此方は苦笑する。
こんなに楽しみにしてくれている姉に、実は忘れていたなど言えはしない。
「そうね。此方は今年の優勝者だもんね。私も応援するわ!」
そして母である春陽も嬉しそうだから、余計に気不味い。
今まで観客席で姿を見かけても意識しないようにしていたというのに。
なんだかんだで母親が自分の活躍を知っていて恥ずかしい。
「春陽、様」
声。
此方はそちらを見る。
そこに立っていたのは楓に支えられながら杖をついているお婆さん。
白髪に皺、腰も曲がってしまっているが、ゆっくりと歩いて来る。
「あなたは?」
春陽の声にお婆さんは頭を下げる。
「宮田家当主、宮田裕二の母です。当主は仕事で出ていますので、私が代わりに」
優しげな目はしっかりと春陽を捉え、微笑む。
「お迎えが来る前に会えて嬉しいです、春陽様」
「……もしかして、綾?」




