外伝ルート 決戦の地は朱乃宮!24
「じゃあたすけてあげなーい」
オロチは不貞腐れて私から離れて行ってしまう。
そして石棺の中に戻ってしまう。
振り出しに戻ってしまった。
「相島。オロチは諦めなよ。それよりも早くここから出たほうが良い。炎が弱まってきたとはいえ、人間の君たちは肺をやられる」
「相島様……」
神域が彼岸花の煙で満たされていく中、クロハとスズの声に振り返れない。
私はーー
私は諦めることを諦めたんだから。
「オロチ」
此方先輩が石棺に近付く。
大蛇が舌を出して威嚇しているが、此方先輩は気にしない。
「私ではダメかい? 私のなら目でも耳でもあげよう」
「なっ!? 此方先輩! 何をーー」
「こなたのはいらなーい」
私の声をオロチが遮る。
「どうしても相島じゃなければダメなのかい?」
今度は声も返って来ない。
「……そうか」
悲しげな声。
「相島、戻ろう。姉さんたちを助けに行かないと」
此方先輩が踵を返して私の隣を通り過ぎる。
「……相島?」
私は石棺に近付き、中を覗く。
石棺の中でオロチは丸まって目を閉じている。
「ねえ、オロチ」
「…………」
反応は返って来ないが、私は続ける。
「私のだったら何でも良いかな?」
オロチの赤い瞳が薄く開く。
「もし良ければなんだけど、私の髪の毛はどう? 一房ぐらいなら、すぐに伸びるし」
「……いいよ」
オロチが起き上がる。
「そっか。良かった。此方先輩」
振り返る。
「短刀を持ってないですか? 髪を切りたくて」
「……私が切ってあげよう」
何か言いたそうだったが、ごめんなさい。
何かを失わないといけないなら、これが最善だと私は思います。
前を向く。
背後に此方先輩の気配を感じる。
「切るよ」
髪の毛に触れられる。
大事そうに、優しく。
ザシュ、ザシュ、ザシュ
切られる音。
私からまた立花の一部が失われていく。
ごめんね、立花。
《謝るぐらいなら私の身体、もっと大事にして欲しいんだけどね》
立花が苦笑している。
私も苦笑を返すしかない。
「相島」
少し軽くなった頭。
目を開けると、此方先輩が切ってくれた髪の毛を渡される。
「オロチ。あげるね」
オロチが微笑む。
すると、大蛇が頭を下げて来て、長い舌で私の髪の毛を絡め取り口に収めた。
「ありがとう、あいじま」
「……え?」
オロチの真っ白い髪が黒く染まっていく。
立花と同じ長い黒髪。
まるでちっちゃい私が目の前に居るみたい。
「わたしはこの山と毒の神さま。それにーー」
石棺から出て来たオロチはまた私に抱き着く。
「あいじまの神さまだよ」




