外伝ルート 私たちの冬休み12
「くふっ。くふふ」
「此方ちゃん。笑い過ぎですよ」
顔を逸らして肩を振るわせる此方先輩と、それを注意する彼方先輩。
無事に中に入れた俺たち。
お誕生日会の時間まで少し余裕があるので、休憩のために居間に居た。
それでインターホンの件を二人に話したらこの通り。
「いや、だって。インターホンがあるのに、くふっ」
「さくらちゃーん! 此方先輩がいじめるぅ〜」
「はいはい。よしよし」
さくらちゃんに縋り付いて頭をよしよししてもらう。
「此方先輩って意外と笑いの沸点低いですよね〜」
そう言ったのは両手でお茶を啜る我らが救世主の天。
天が来なかったら俺たちはずっと門の前で立ち往生だっただろう。
「すう〜。はあ〜。いや〜。すまない」
やっと此方先輩が笑うのを止めてくれる。
「悪かったね。インターホンの場所が分かりにくくて。古い家だから色んな電子機器が後付けなんだ。朱乃宮のように門番を用意するわけにもいかないし、常時守衛を雇うほど裕福なわけではないからね。郵便物を受け取る時も苦労しているんだ」
「こんな馬鹿でかい屋敷で二人暮らしのくせに。私への当てつけですか?」
「私からしたら、安いアパートでも家族団欒な君の家の方が羨ましいがね」
「はいはい」
天が立ち上がる。
「彼方先輩。おトイレ借りますね」
「あ、はい。場所はーー」
「大丈夫です。場所は分かりますから」
そう言って天は居間から居なくなる。
「此方ちゃん」
「ん?」
彼方先輩は此方先輩の服の袖を引っ張る。
「二階堂様って来たことありましたっけ?」
「来たこと? この家にかい? いや? 初めてのはずだけど?」
「ですよね? うーん」
「ちょっと!?」
突然の大声に俺は肩を跳ね上げる。
大声が苦手なさくらちゃんはもっとびっくり。
バタバタと廊下を駆ける足音。
「ここWi-Fiが繋がってないじゃないの!」
居間に飛び込んで来た声は秋山さんのもの。
スマホの画面を此方先輩に見せる。
ネットが繋がりにくいのか画面にはぐるぐる渦。
「電話でもしたいのか? だったら廊下に電話があるぞ?」
「違うわよ! 撮った写真をアップしたいのにネットに繋がらないの!」
どうやら秋山さんは、この家の中庭にある日本庭園の写真を撮ったから自分の写真投稿アカウントにアップロードしたいらしい。
秋山さんはスマホで風景や廃墟の写真や動画を撮るのが趣味らしく、それらを投稿しているアカウントのフォロワーも二千人ほど居る。
「ああ。ネットの整備はまだだよ。最近までここは無人だったからね。それに私と姉さんはあまりネットを使わないからWi-Fiとかいうものがなくても不便じゃないんだよ」
「あ、ありえない。今どきWi-Fiがないとか……こいつらいつの時代の人間よ」
ガクッと肩を落とす秋山さん。
「失礼過ぎるよ、お姉ちゃん」
秋山さんと一緒に居た優子さんは深い溜め息。
「此方ちゃん、此方ちゃん」
また此方先輩の服の袖を引っ張る彼方先輩。
「わいふぁいとは何ですか?」
そして相変わらずの天然記念物でした。




