ジングウルート61
「ダメっ! 絶対にダメっ!?」
神崎 さくらの悲痛の叫び。
「こんなののために、りっちゃんが『瞳の能力』を使う必要なんてない! こんな奴、今すぐ殺しちゃえば良いんだ!」
「こーら」
「あうっ!?」
またデコピンされて神崎 さくらが額を押さえる。
「……まあ、さくらちゃんの言う通りではあるけどね」
先輩の苦笑。
「私の『選択の瞳』も限界が近付いてきてる。まだ大丈夫らしいけど、余裕があるわけじゃない。でもね、秋山さん。私はあなたを助けたいんだ」
大丈夫らしい?
まるで誰かに確認したみたい。
「助ける? はっ! どうやって? 弁護士にでもなって裁判で無実にでもしてくれるの? 連続殺人犯を?」
「その必要はないよ。だってーー」
先輩はにっこり。
「誰も死なない世界にするから」
「……は?」
そこに居た皆が困惑する。
先輩は、何を言ってるの?
「うーん。でも私、こんな身体だしな〜。チラリ」
「…………」
なんで先輩はそんなに私をチラチラ見て来るの?
「誰か当時のことを知ってる人居ないかな〜。あのときだと、一緒の学校は私と〜、さくらちゃんと〜」
そしてまた私をチラリ。
「……いやいや! 無理ですって! 私は過去に戻る能力なんてないんですよ?」
「出来ると思うよ。だって秋山さんは私から『選択の瞳』を奪おうとしたんでしょ? それに無限さん。あなたも他人に『瞳の能力』をあげる方法を知ってますよね?」
「……ああ。前にやってみせたな」
雰囲気が変わる。
今は神様だ。
「簡単だ。口付けをすれば良い。そうすれば『瞳の能力』を与えられる」
「与えるだけ?」
「ああそうだ。奪うことは出来ない」
「……は?」
秋山 幸が立ち上がる。
「そんなはずはない。『瞳の能力』は奪えるって」
「誰から聞いた?」
「誰って。ゲンムに」
呆ける秋山 幸。
無限さんは嘲笑う。
「他人を欺く神を信じたのか? お前は本当に愚かだな」
「嘘。嘘よ!?」
「自惚れるなよ? 『瞳の能力』は元来、我ら神の物だ。人間風情が奪おうなどと思いあがるではない」
「……くっそ」
「まあまあ。無限さんもそこまで」
パンパンと手を打つ。
「天、こっちに来て。一部だけど『選択の瞳』をあげる」
「……ん? え〜と、つまり〜」
「却下」
ですよね〜。
「さくらちゃん、お願ーい♡」
ぶりっ子先輩。
「他の女の子とキスなんて絶対にダメ」
ムスッとする神崎 さくら。
「さ、く、ら、ちゃーん♡」
「だ、め、で、す」
なんだこのバカップルは←おい!
「…………へ?」
うわああああああ!
この人数の中でキスしたよ、このバカップルは!?
「はあ。本当にバカップルね」
そして八重橋先輩は口に出しちゃったよ!
「さくらちゃん、ダメ?」
「……こ、今回だけだよ? 今回だけ浮気を許してあげる。今回だけだからね? 絶対だよ?」
念を押してるようですけど、チョロインですね。
前に読んだラノベのヒロインみたいだ。
「ありがとう、さくらちゃん」
クスッと優しい笑み。
良いな〜。
「天」
私に手が伸ばされる。
「おいで」
私は先輩の右手に触れる。
先輩に抱き締められる。
「ごめんね。私がもっと強かったら良かったのに」
「……何言ってるんですか。先輩は誰よりも強いですよ」
優しい口付け。
右目がじんわり温かくなる。
「でも過去を変えて大丈夫なんですか? タイムパラドックスとか、パラレルワールドとか」
「ふふっ。やっぱり天は物知りだね」
頭を撫でられる。
「誰よりもたくさん本を読んでた。天とお喋りするの楽しかったよ」
「……先輩。もしかして記憶が?」
先輩は今年の五月より前の記憶を失っているはずなのに。
地味で目立たないように生きていた私を知っている。
「遅くなってごめんね。天がどんな子かやっと思い出せた。だからきっと大丈夫。天ならきっと出来る。それにーー」
先輩がにっこり笑う。
「私はなんかご都合主義に愛されてるんだよ。だから過去を変えても、私たちは仲良しになれる。絶対になれる」
→《三年前へ戻る》
《過去に戻ったってどうせ》
網膜に現れた選択肢。
これが『選択の瞳』。
先輩の『瞳の能力』。
「もし、自分だけじゃ無理だと思ったら、三年前の私を頼って。きっと助けてくれるから」
「……はい!」
私は選択する。
「必ず、今よりも良い未来を勝ち取ってきますから!」
そこで私の意識は途絶えた。




