さくらルート ハッピーエンド
「ふう」
私服に着替えた俺は靴を履いて一息。
「さて」
自分の声と共に立ち上がる。
「ほら、行くよ」
振り返り、さくらちゃんに手を伸ばす。
「……うん」
頷きながらも一歩を踏み出せないさくらちゃん。
今日はさくらちゃんのお母さんがお休みで家に居るらしい。
だから、さくらちゃんと仲直りさせたかった。
「きっと大丈夫だから。さくらちゃんの本当の想いを伝えるだけ。私も一緒に居るし」
「うん!」
さくらちゃんが俺の手を取る。
そしてさくらちゃんの家に向かった。
「いらっしゃい」
チャイムを押すと、さくらちゃんのお母さんがすぐに出迎えてくれた。
昨日のことがなかったかのように明るく見える。
これも俺たちのためだろう。
和室のような畳の部屋に通されて俺とさくらちゃんは座卓についた。
緑茶とお茶菓子が出される。
「何か、結婚の挨拶に来たみたいね」
「それは後ほど」
「ちょっと、りっちゃん!」
俺のボケにさくらちゃんのお母さんはクスリと笑い、さくらちゃんは顔を赤くした。
「今日はさくらちゃんからです。ほら、頑張って!」
「うん」
さくらちゃんは緊張を解すために深呼吸。
「お母さん」
「何?」
「え、と。ハグしても良いですか?」
さくらちゃんの言葉にさくらちゃんのお母さんは目を丸くする。
だが、
「どうして敬語なのよ」
微笑んで、腕を広げた。
「おいで、さくら」
「お母さん……!」
さくらちゃんは立ち上がり、抱きついた。
さくらちゃんのお母さんもさくらちゃんを優しく抱き締める。
「ごめんね、お母さん! 嫌いなんか言って。大好きだよ!」
「私もよ」
幼子のように泣くさくらちゃんをさくらちゃんのお母さんはしっかりと受け止めてくれた。
「神様」
「はい」
俺が呼ぶといつも通り時間が止まる。
「さくらちゃんの《絆の結晶》見える?」
「ええ」
神様がーー笑った。
「濁りがひとつもない、とても綺麗な《絆の結晶》ですよ」
「神様も笑うんだね」
俺が悪戯っぽく笑うと、神様はいつもの無表情に戻る。
「いつも笑わないし、感情に興味が無いとか言ってたのに。感情がちゃんとあるじゃん」
「……そうですか」
神様は肯定も否定もしなかった。
ただ、何かを受け止めたみたいだった。
「さくらちゃん」
俺は改めてさくらちゃんを見つめる。
目に見えないが、さくらちゃんの《絆の結晶》が輝いているように感じた。
俺の役目は終わった。
さくらちゃんを救えたし、恋人にもなれた。
後は相島 立花に身体を返すだけ。
相島 立花ならこれからもさくらちゃんを大切にしてくれるはずだ。
「じゃあね、さくらちゃん」
俺は立ち去った。




