ジングウルート54
映像が流れる。
誰の視点かは分からない。
だけどこの視点は誰かだ。
「幸は凄いわね〜」
「ああ。自慢の娘だ!」
誰かに頭を撫でられる感触。
振り返る。
視点の誰かより少しだけ背の高い女性と男性。
二人は優しく笑う。
何をそんなに褒められているのか正直分からない。
でも褒められて嬉しくなる。
「お、お母さん」
後ろから声が聞こえる。
「……何?」
女性の声色が変わる。
低い。
不機嫌で、嫌いな相手に対するように。
視点の誰かは女性に抱き締められる。
「わ、私も、テスト、返ってーー」
「もっとはっきり喋りなさい!」
男性が叱る。
女性の身体で視界が塞がれて分からない。
だけど二人は視点の誰かの後ろにいる“誰か”を叱っている。
「こんな点数を見せてくるなんて恥ずかしい!」
「出来損ない!」
「もっと勉強しろ!」
「誰のおかげで生活出来てるんだ!」
「親不幸者!」
「部屋に行け!」
背後の気配が消える。
「さ、今日はお祝いよ。何が食べたい?」
「せっかくだし外食でも良いんじゃないか?」
「そうね!」
女性から解放される。
二人は笑顔のまま。
先程まで吼えていた人とは別人のように感じる。
「優子は?」
視点の誰かが呟く
二人の表情が固まる。
だがすぐに笑みが戻る。
「幸のお祝いだもの。幸をお祝いしなくちゃ。それに優子は今から勉強したいんだって」
「……そっか」
ああ。
これはきっと秋山 幸の記録なんだ。
世界が真っ暗になる。
世界がカラフルになる。
「お、お姉ちゃん」
幸は振り返る。
「……何?」
不機嫌そうな低い声。
この声は幸だ。
「が、学校はどう? 楽しい?」
「充実してるわよ。勉強も部活も。それに進学校だしね。あなたみたいに平凡に遊んでるわけじゃないの」
「あ、あの」
「吃らないで。鬱陶しい。これから塾なの。忙しいから出て行って」
「ご、ごめーー」
「ウザい。出てけ!」
世界が真っ暗になる。
世界がカラフルになる。
「ねえ、あれ見て〜」
隣を歩く女子に言われて幸はそちらを見る。
「靴下で歩いてる〜。靴も買えないのかな〜?」
「うっわ。手首に包帯巻いてるよ。リスカかな〜? なんかヤバくない?」
「あの子、幸に似てるね? もしかして親戚とか?」
幸は“それ”から目を外す。
「知らない」
世界が真っ暗になる。
世界がカラフルになる。
「アンタのせいで!」
遠くで幸の母親の声。
「アンタが馬鹿で出来損ないのせいで騒がれたじゃないの! ご近所さんに何時間も質問責めよ! 私の貴重な時間を返しなさい! このゴミクズ!」
意識したくないのに、耳が勝手に声を鮮明にしてしまう。
優子の泣く声も聞こえる。
「ねえ、お父さん」
幸はリビングで一緒にテレビを見ていた父親に声をかける。
「ん? なんだい、幸?」
父親は優しく振り返る。
「お母さんは、どうして優子を産んだの?」




