ジングウルート53
人が消え去り、塵と埃まみれになったここはジングウの独壇場になっていたのだ。
このままでは男性は殺されるだろう。
「…………」
考えてしまう。
男性は殺される。
私たちでは力不足だったから。
だから仕方ない。
彼方先輩と同じ考えに至る。
犯罪者が犯罪者に殺されてしまったところで、私たちは何も悪くない。
だって自分の命を賭ける価値が、あの男性にあるとは思えない。
だけど。
「だけど、先輩なら」
「二階堂様?」
先輩なら絶対に止める。
犯罪者の男だろうと助ける。
だってーー
「ジングウっ!」
女の子にこれ以上罪を負ってほしくないはずだから!
私はジングウを睨む。
ジングウは振り返らない。
「こっちを向け、犯罪者!」
ジングウは進む。
「殺人犯! イカれた奴!」
ジングウを罵る。
もっと大声で叫ぶ。
彼女を怒らせる。
だけどジングウに無視される。
頭の中の引き出しを全部開け放つ。
ジングウを振り向かせられる言葉を探す。
「異常者! アホ!」
ダメだ!
安っぽい悪口しか出てこない!?
だったら!
「秋山 優子が死んだのは! 全部お前のせいだっ!」
「……なん、ですって?」
ジングウが動きを止める。
「私、知ってるんだから! 秋山 優子は同じ学校だったから! 秋山 優子は学校で虐められてた! でも誰も助けなかった!」
ジングウは男を捨てる。
「黙りなさい」
「しかも男に犯されてーー」
「黙れ」
ジングウが振り返る。
口元は苛立たしげに噛んでいる。
「そんなに死にたいの? 良いわよ。あなたから殺す」
塵の杭の攻撃が止む。
ジングウが近付いてくる。
すかさず守羽さんが金属の杭を放つ。
ジングウが右腕を払う。
金属の杭が砕け散る。
被害者たちの顔面を砕き続けてきた能力。
『破砕の瞳』。
「彼方先輩。あの能力は防げますか?」
私は引き攣りそうな表情を堪えて訊く。
「……無理だそうです」
その答えは望んでいなかった。
でも予感はしていた。
あれはあらゆる全てを砕く、と。
たくさんの金属の杭がジングウへ。
だが、その全てが塵埃に阻まれ、ジングウの右手で砕かれる。
「まったく。これだから自称神は嫌いなのよ。二階堂逃げなさい!」
私は逃げない。
逃げるわけにはいかない。
「くそっ!」
守羽さんが私を庇ってくれる。
ジングウが右腕を構える。
そして伸ばす。
「邪魔」
目の前でパリン! とガラスが割れたような音。
時間がゆっくりに感じる。
もう少し。
あとちょっと。
ジングウから目を離すな!
「その綺麗な顔。ぐちゃぐちゃにしてあげる」
仮面の下のジングウの瞳と目が合った気がした。
「貰います」
自分が愛されるために何度も使った能力。
『略奪の瞳』を発動させる。
「ぐっ!?」
私に伸びていた右手がジングウの胸に帰る。
「が、ぐっ」
《絆の結晶》を奪われると、奪った量によって胸に強烈な痛みを生じさせる。
「っ!?」
私の胸にも僅かながら痛みが奔る。
そして頭の中に記録が流れ出す。
ジングウの後悔の記憶だった。




