ジングウルート52
「っ!? な、何!?」
遠くで何かが崩れる音。
私たちは動きを止める。
空気が落ち着く。
「……ビルが崩れたんでしょうか?」
「どうでしょうね。船渡がジングウの神と戦ってるのかも」
また大きな音。
遠くで物が弾け飛ぶのも見えた。
足跡はそちらに続いている。
「足跡を追うのはやめましょう。戦闘にかち合うわ。このまま階段をあがるわよ」
守羽さんに従って階段をあがっていき五階へ。
この階が、この廃ビルの最上階。
下の階よりも気持ち綺麗だ。
ここまで来る人が少なくて被害がないのかもしれない。
棚には埃の被った商品が残り、商業施設の面影が感じられる。
息を潜め、ゆっくりと進んでいく。
「!?」
悲鳴が聞こえた。
男性の悲鳴だ。
この先に居る!
「慌てないの」
飛び出そうとした私は腕を掴まれる。
「私が先に行くわ」
守羽さんが角を曲がる。
私と彼方先輩も続く。
「あ、がああ、あ!?」
床で悶える男性。
それを見下ろす姿。
「ジングウ」
ジングウが、秋山 幸がこちらを見る。
「はあ〜。面倒なのが来たわね」
「がああああっ!?」
足を踏み潰された男性が獣のように吼える。
「まさかこんなところまで来るなんて。もしかしてストーカー?」
「殺人犯がよく言ったものね」
守羽さんの右手には金属の杭。
「二階堂は退がってなさい」
守羽さんがジングウに近付く。
私は彼方先輩に庇われる。
「それで何しに来たの? まさかこのクズを助けに来たとか?」
ジングウが腹を蹴る。
男性は短く声を上げて丸まる。
「一応は、あなたを止めに来たのよ。一応ね」
「止める? だったら必要ないわ。もう終わるから」
守羽さんの手から杭が飛ぶ。
一直線にジングウを狙った杭はーー
「…………」
黒い波のようなものに阻まれた。
「あのときにようにはいかないわよ?」
ジングウが嗤う。
「私の能力は『塵埃の瞳』。塵や埃を操る力」
「じんあい?」
聞き慣れない言葉に私は反芻する。
「そこの子は勉強不足ね。まあ良いわ」
ジングウは右手を拳銃のようにする。
「!? 彼方様!」
「はい!」
二人の声が聞こえたと思った瞬間。
目の前で何かが弾かれる音。
「忌々しいわね、その能力。だったら次は」
右手を掲げる。
「守羽だったわね。あなたの真似をしようかしら」
私たちの頭上に幾つもの杭。
いやあれは塵の塊だ。
「チッ!」
守羽さんが舌打ちと共に更に杭を飛ばす。
金属の杭と塵の杭がぶつかる。
「まだまだ!」
塵の杭が数を増やす。
もう数え切れない!?
「死になさい!」
「そうはさせません!」
無数の塵の杭が私たちを狙う。
だが彼方先輩の能力で弾かれていく。
彼方先輩凄い!
「あなたたちはそこに居なさい」
ジングウが再び嗤う。
その右手には男性の腕。
ジングウは私たちに背を向けて歩き出す。
しまった!
ジングウの狙いは私たちになったわけじゃないんだ!
「待っーー」
目の前でバチン! と爆ぜる。
「動かない方が良いわよ。ここは埃と塵で溢れている。あなたたちを殺すための素材は十分あるんだから!」
塵の杭は増えては攻撃、数を増やしては止めどなく攻撃をしてくる。
私たちは身動きが取れなくなってしまった。




