帰り道
結局、さくらちゃんと別れた俺は帰路についている。
「............」
麻衣は黙ったまま俯いていて俺の隣を歩く。
女子校生と下校なんてしたことないし、先程のこともあるのでなんと声をかければ良いか分からない。
「ねえ、お姉ちゃん」
「え!? な、何?」
麻衣の方から沈黙を破ったので俺は肩を跳ね上げる。
「さっきは、ごめんなさい」
「え? あ〜。まあ私は別に。それに言葉は悪くても麻衣が私を守ってくれてたのは分かったし。ありがとう、麻衣。これからも頼らせてもらって良い? ほら、私記憶喪失だから」
「お姉ちゃん......!」
顔を上げた麻衣。
その瞳は潤んでいて今にも頬に伝っていきそうだった。
「え、何で泣いてるの!? 俺、不味いこと言った?」
自分の一人称を間違えたのにも気付かずに俺は慌ててしまう。
「お姉ちゃん、お願い……聴いてくれる?」
「へ? い、良いけど」
「頭、撫でて?」
頬を染めて小首を傾げてくる麻衣。
俺は誘惑に堪えきれず麻衣の頭に手を伸ばす。
「えへへ。お姉ちゃ~ん」
麻衣は嬉しそうに甘えた声を出す。
可愛すぎる……!
犬も猫も飼っていた俺だが、それ以上に麻衣の愛らしさに心が癒されていく。
癒されるのだ!
やべッ!
妹、超やべッ!
いつの間にかに両手で麻衣の頭を撫でていた。
「お姉ちゃん、そこの公園行かない?」
麻衣が指差したのは小さな公園。
麻衣に手を引かれてベンチに座る。
公園では小さい子供たちが母親に見守られながら元気に走り回っている。
「懐かしいね。昔は私たちもあんな風にはしゃいでた」
子供を見て微笑む麻衣。
だがその笑みもしだいに翳る。
「お姉ちゃんはアイツとまた友達になりたいの?」
苦し気に出た"アイツ"という言葉。
「ああ。過去に何をされたか覚えてない。だからこそ一度関係性をリセットしてまた仲良くなれるんじゃないのかな」
これは俺が本当の相島 立花のことを知らないから言えることだ。
麻衣からしたらおかしなことを言っているのかもしれない。
だけどせっかくの青春を嫌なものにしたくなかった。
それに俺が『さつかそ』の世界に転生した理由も調べなくてはならない。
つまりメインヒロインである、さくらちゃんとの関係は良好の方が良い。
攻略できないのは遺憾であるが……
「過去を思い出しても、お姉ちゃんは同じことを言いそうだね。だって優しすぎるから。そこが私の自慢でもあるんだけど」
やれやれと溜め息を吐く麻衣。
だけど表情はスッキリとしていた。
「良いよ。お姉ちゃんがそう言うなら、私はアイツにもう突っ掛からない」
麻衣は立ち上がるとスカートの汚れを叩く。
振り返ったときの笑みはーー
「帰ろう、お姉ちゃん」
花が舞い散るようだった。