さくらルート50
「そろそろ寝ようか」
「……うん」
俺が話を変えると、さくらちゃんはハートのマークを消した。
何かスゲエ気まずい空気になってしまったが、解放された俺は空き部屋の押入れから客用の布団を自室に運び入れる。
「りっちゃん、そっちに寝るの?」
「うん。さくらちゃんはベット使って良いよ。今日は疲れたでしょ?」
「……ありがとう、りっちゃん」
さくらちゃんの表情がやっと和らいだように感じる。
「私、トイレ行ってくるね。先寝てて良いから」
こくりと小さく頷くさくらちゃんを尻目に俺は一階に降りた。
本当はトイレに行こうとは思っていない。
「あ、ちょうど良かった」
さくらちゃんのお母さんと母さんが玄関に居た。
これから帰るのだろう。
「立花ちゃん、さくらは?」
「私の部屋で寝てますよ。今は落ち着いています」
「そう」
さくらちゃんのお母さんは一度俯くと、苦笑する。
「こんな夜にごめんね。さくらをお願いね」
「おばさん」
ドアノブに手をかけていた、さくらちゃんのお母さんを引き止める。
「さくらちゃんはああ言ってましたが、本当はおばさんのこと好きですよ」
「……そう」
さくらちゃんのお母さんは微笑む。
「伝えに来てくれてありがとう。おやすみなさい」
そう言い残し、帰っていった。
俺の言葉はしっかりと届いただろうか。
「じゃあ私も寝るね。おやすみなさい」
母さんにも就寝の挨拶をして俺は部屋に戻る。
部屋の扉を開くと中は真っ暗だった。
さくらちゃんは寝たみたいだ。
さて、俺も寝るか。
「りっちゃん」
「ん? 起きてたの?」
暗がりに目が慣れていく。
さくらちゃんはベットに横になって俺を見てた。
「一緒に寝ようよ」
さくらちゃんからのお誘い。
俺はごくりと唾を呑む。
そんなことをしたら俺の理性は保つとは思えない。
「いやーでも、狭いよ?」
あくまで平常心で俺は答える。
「なら、一緒にお布団で寝る」
どっちにしろ添い寝だからね!?
「布団は、ほら! 身体が痛くなっちゃうから」
「りっちゃんが私を避ける」
急に拗ね出してしまうさくらちゃん。
もうどうすれば良いんだ。
「……分かったよ。一緒に寝よう」
俺は諦めてさくらちゃんにベッドを詰めてもらう。
「えへへ。りっちゃん、つ~かまえたー」
さくらちゃんは嬉しそうにぎゅーっと抱きついてくる。
またもやさくらちゃんの作戦勝ちである。
「りっちゃん、暖かいね」
「ふふっ。さくらちゃんも」
俺たちはクスリと笑い合う。
さっきまではドキドキしてしまうと思っていたが、不思議と気分は安らかだった。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい、りっちゃん」
疲れからか、俺とさくらちゃんはすぐに目を閉じた。




