さくらルート47
「さくらちゃんの髪、本当に長いね」
風呂を出た俺たちはドライヤーで髪を乾かしていたのだが、三次元ではあり得ない毛量に感嘆の息というやつだ。
「うん。整えるだけであまり切ったことないから」
それはギネスを目指せるのでは?
「でも大変でしょ?」
「うーん。そうだね。髪の手入れもそうだけど、たまに髪の重さで首が痛いかな」
「なるほど」
苦笑するさくらちゃんに俺も微笑む。
「何か手伝う?」
「ううん。大丈夫だよ。もうちょっと時間が掛かるから。先に出てて」
「分かった」
俺は風呂を出る。
火照った身体には廊下との温度差だけでも涼しくて心地好い。
ピンポーン
お?
誰か来た。
誰だろう、こんな夜に。
あー。
ジャージ姿だけど良いっか。
「はーい! 今出まーす」
覗き窓から相手が女性だと分かると、俺は警戒を弱めて扉を開けた。
「どちら様ですか?」
知らない女性だった。
でも、何処か雰囲気がさくらちゃんと似ている。
というか、短いけど髪の色が桃色だ。
ていうか、めっちゃ美女だわ。
え、二十才後半ぐらい?
「あの、うちの娘が来ていませんか?」
不安げで、絞り出すような声。
「えと、さくらちゃんのお姉さん?」
「え? いいえ、私はさくらの母です」
ですよね~。
これだからギャルゲーのお母様方は困るわ~。
年齢不詳なんだもん。
「え、と。立花ちゃんだよね? さくらは?」
「来てますよ。呼びます?」
俺の言葉にさくらちゃんのお母さんは文字通り胸を撫で下ろした。
「良かった。さくらが恋人のところにお泊まりって書き置きがあったから。あの子、電話も出なくて。それで、立花ちゃんのお母さんに相談しようとして連絡したら、ここに居るって」
「母さんに?」
「でも良かった。もう! あの子ったら恋人なんて。立花ちゃんの家に行くなら、そう書けば良いのに」
頬を膨らませる姿はさくらちゃんそっくりだ。
でも、
「あの~。申しにくいんですけど」
「……どうしたの?」
俺は恥ずかしげに指先で頬を掻く
「さくらちゃんとお付き合いさせてもらっています」
「………………へ?」
さくらちゃんのお母さんが目を丸くして呆ける。
「さくらと立花ちゃんが、付き合っているということ?」
「はい、そうです」
「あ、そうなんだ。へえ、そう」
お、案外驚かない。
「さ、さくらが立花ちゃんと、こ、ここ恋人」
さくらちゃんのお母さんが小刻みに震え出す。
「うーーーーーん」
「おばさん!?」
全くそんなことなかった!
さくらちゃんのお母さんの身体がふらついたので俺は慌てて支えた。
「気分が優れないなら中へ」
「うう。ごめんなさい、立花ちゃん」
俺は肩を貸してあげて家に入った。




