天ルート93
「かぐや。平気なの?」
「え? ええ。私は平気。だけど皆が寝ちゃってる」
「あっ」
よく見ると、かぐやの両目に十字架のマーク。
『誠実の瞳』。
どんな嘘も暴く力。
「……くふっ。あはは! そうか! そういうことか!」
ゲンムがまるで愉快だとでも言うように笑い出す。
「その目。私の術さえも暴くのか。ああ、完全に侮っていたよ。戦うことも出来ないような能力だと思っていたが、まさか私の天敵は君だったとは!」
ゲンムはやっと笑みを治めると、パーカーのポケットに右手を入れる。
「なッ!?」
ポケットから取り出されたのはカッターナイフだった。
ゲンムはそのままゆっくりと、かぐやへ近付く。
「かぐや!? 逃げて!」
「え?」
混乱して動けないでいる、かぐや。
俺はゲンムを止めるために駆け出す。
「天、その人を止めて」
「うッ!?」
後ろから誰かに抱き着かれる。
「天!? 離して!」
天だった。
ゲンムに操られて俺の身動きを封じて来た。
「天! 邪魔しないで!」
力が強くて引き剥がせない。
「やだ。来ないで!?」
恐怖で尻もちをついてしまった、かぐや。
ゲンムが迫る。
このままだと、かぐやが!?
「ーーけて」
耳元で声。
思考が一瞬止まる。
俺でも立花でも神様でもない。
「助けて、ゲン、ム」
泣いていた。
虚な瞳で天が泣いていた。
「天……?」
そちらに意識が引っ張られそうになる。
だけど今は違う!
今はかぐやを助けないと!
「もう平気だよ、天」
俺の視線は前に。
そして目の前にはゲンム。
「お疲れ様。ゆっくりお休み」
「おっと」
一気に俺の身体に天の体重が乗っかる。
倒れそうになるが、ゲンムが俺から天を剥がす。
そしてコンクリートの床に優しく寝かせる。
「おい。何をやってるんだ? 先に金髪の女を殺せよ」
「別に良いじゃないか。あの人たちは私たちに勝てない」
「不安要素は潰しておくべきじゃねえのか?」
「そうだね。だけどごめん。私はまだ人間を辞めたくないみたい」
「……そうか。勝手にしろ。だけど目的は果たせ」
「ああ。ありがとう、ゲンム」
ゲンムが“一人”で“会話”をする。
「天。少しだけ返して貰うね」
ゲンムが眠る天とキスをする。
そして天の頬に触れる。
「……こんなものかな。ジングウ。お疲れ様。今日はもう帰ろうか」
「もう良いの?」
「うん。《絆の結晶》は十分集まったから良いよ」
「ふーん。ま、ゲンムがそう言うなら良いか。ジングウ行くよ〜」
「…………」
幸とジングウが屋上から立ち去る。
「相島 立花」
ゲンムが俺を呼ぶ。
「天を愛してあげてね。それじゃ」
「!? 待てーー」
ゲンムが微笑む。
一瞬にして意識が途絶えた。




