修羅場な放課後
午後の授業も無事に終わり、俺は急いで帰り支度を進める。
何故なら早く帰って漫画を読みたいからだ。
この世界は不思議なもので漫画やゲーム、それにラノベも俺の元の世界にあったものが存在しているのだ。
しかし家には麻衣が持っている少女漫画しかないため、早速本屋によって買いだめするつもりである。
あ、そういえば近所の本屋の場所を知らなかった。
帰りに麻衣に教えてもらわないと。
「あ、あの。相島さん、今大丈夫かな?」
邪魔物が現れやがったと思い、目を向けると相手はさくらちゃんだった。
他の奴だったら危うく舌打ちするところであった。
「どうしたの、さく……神崎さん?」
いきなりの名前呼びはアウトかと思ったので回避しておく。
「この後、校内を案内しようと思って。相島さん、学校のことも忘れちゃってるって聴いたから。どうかな?」
これは、まさにイベント発生である!
さくらちゃんと親密になるチャンス。
俺は本屋に寄ることなど忘れて何度も頷く。
「良かった! 私も相島さんとお話ししたかったから」
「あ、でも。妹を待たせてるんだ、の。妹に訊かないと」
「妹って、麻衣ちゃんだよね?」
そういえば幼馴染みなんだから知っていて当然かと思っていたが、何故かさくらちゃんの表情が暗くなる。
「じゃあ、明日でもーー」
「お姉ちゃん、帰るよ~」
さくらちゃんの言葉を遮った声。
妹の麻衣が教室の前の方の扉で待っていた。
「あ、麻衣! ちょっとごめん。今、神崎さんと話してて」
「何で、アンタがお姉ちゃんと一緒に居るの?」
さくらちゃんと目が合った瞬間、麻衣の円らな瞳が険しく細められた。
そして俺とさくらちゃんの間に割って入る。
まるで俺を庇うように。
「お姉ちゃんに近付くなって言ったよね。この裏切り者」
「ご、ごめんね。久し振り、麻衣ちゃん」
冷めた麻衣の声にさくらちゃんが萎縮する。
「気安く呼ばないでよ。アンタなんて他人よ」
「ちょ、麻衣! どうしたの?」
記憶喪失になった俺のことを心配してくれた麻衣と同一人物には思えなかった。
何でここまで、さくらちゃんを毛嫌いするんだ?
「お姉ちゃんが記憶喪失になったからってアンタの罪が消えたわけじゃないんだから」
罪?
俺になる前の相島 立花に何があったんだ?
ていうか、『さつかそ』にこんなイベントなかったぞ。
何かがおかしい。
俺が主人公じゃないからか?
「行こう、お姉ちゃん」
「待て、麻衣!」
思わず俺は声を荒げて踵返した麻衣の腕を掴む。
「何、お姉ちゃん?」
無理矢理、麻衣は笑う。
やはり俺に対しては優しい麻衣だ。
「麻衣、謝りなさい」
「……何、で?」
悲しげに、そして絶望したように麻衣は顔を歪める。
「こいつはお姉ちゃんに酷いことをしたんだよ?」
「そうかもしれない。だけど俺……私の妹なら人を悲しませることはしてほしくないんだ。麻衣は優しい子だろ?」
「……謝らない」
麻衣は俺から逃げるように顔を逸らす。
「……麻衣」
俺を守るためだと知ってしまい、これ以上は責められない。
「だけど、お姉ちゃんが悲しむなら、もう言わない」
「そうか……」
やはり麻衣は優しい子だった。
「ごめんなさい、神崎さん。今日は帰ります」
「うん。また明日」
俺はさくらちゃんとのイベントを選ばず麻衣と帰宅した。